【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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幼稚な正義感の名の下で

婚約破棄

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 ギャルソンにとってキャロルの存在は本当に邪魔だと思っていた。地味で華もなく両親が何がどうしてこんなのと婚約させたのかと思うような女であった。赤い竜の血を受けづく娘と聞かされていても全く信じていなかった。しかし目の前にいるキャロルは別人にしかみえないほど魅惑的であった。

 しかし魅力に気がついたとしても、もう遅かった。婚約破棄されることは決定的であった。ギャルソンが望んだことだとしても、今は後悔しかなかった。

 「本当に、お前はサブリナをいじめていなかったんか?」

 ギャルソンはそう語りかけたが、まるで伝説の女神のように神々しい姿をしたキャロルは表情を変えなかった。それはまるで精緻な美術品のごとくであったが、そこから発せられた言葉はギャルソンに対して毒のある言葉だった。

 「いじめ? 本当は逆です! 彼女の方がわたしに色々とちょっかいを出していたのです。それなのに、あなたは全て鵜呑みしていましたわ。本当に嫌でしたわ。
 でも何ら弁明する気はありませんわ。だってあなたが思っていたようにわたしもあなたに婚約者に対して抱くような親愛を感じていなかったわ」

 「そうなのか・・・」

 「そう! でもいいじゃありませんか、あなたが望んでいた婚約破棄が出来るのですから」

 二人とギャルソンの家族の前には婚約契約書が運びられきた。それを二人はかすかな記憶の中から思い出していた。たしか愛だの結婚だのといった言葉の意味なんか理解していなかった幼い日の事を。二人は最初から互いの事をあまり意識していなかった事に気付いていた。意識していたといえは存在を疎ましいものだとしか認識していなかった。互いに!

 婚約破棄という法的な手続きが粛々と進められていった。進行役の男が現れたが、その男は何故か大勢の警官に囲まれていた。その男はギャルソンも見覚えがあったが誰なのか思い出せなかった。

 「それではギャルソン・モルトケとキャロル・オーガスタとの婚約を破棄する契約をする。わたしはウォレス・ビューロンである。本来はどの条項に違反したかとか事実確認などをするところであるが、全て省略する。なぜならギャルソン君が全部悪いからな」

 ウォレスと名乗る男は眼光が鋭く威厳があったが、なぜその場に来たのかギャルソンは分からなかった。でも今は望んでいた婚約破棄の瞬間だった。

 「婚約破棄契約書であるが、本来はもっと詳細に記載するところであるが色々と秘密にしないとならぬことがあるから、簡潔にした。二人とも文章を確かめてから署名する事」


 渡された文章には簡単に言えばこんなことが書かれていた。

 ”ギャルソン側の意思による全面的な破棄。全ての責任はギャルソン側にある。婚約は締結時にまで遡及して無効になる。それと赤い竜の血を受けづく娘に関する事はモルトケ側は永遠に沈黙すること”

 「なんなんだよ、赤い竜の血を受けづく娘って? そんなの御伽噺だろ!」

 「ギャルソン君! それを知る必要はない。詳しい事はこの婚約契約書に全て書かれているがな。もう部外者なんだからな」

 ウォレスは不機嫌そうにいった。

 「そうだが・・・なぜキャロルがこんなにきれいになるんだよ!」

 「それを知る必要もない! 読んだのなら署名しなさい。早く連れ出したいという目で見ているぞ、諸君が!」

 そう促されは渋々ギャルソンは署名した。この時が来るのを待ちわびてたというのに現実は厳しかった。思い描いていたものと違った事態が起きていた。真実の愛を紡ぐはずだったサブリナと一緒になる! それが目的だったはずなのに・・・サブリナはとはもう二度と会えないというのだ。署名したところでギャルソンの腕に手錠がはめられた。

 「なんでこんなことになるんだ! どうしてキャロル、本当のことを言わないんだよ! そんな風に綺麗になれるなんて!」

 ギャルソンは駄々をこねる子供のよう叫んだ。するとキャロルはこう言い返した。

 「本当の事? それは正式な婚約披露会が終われば言うつもりでしたわ。それに、あなたは何も質問しなかったですわ。だってわたしに興味はないようでしたし。でも、もうこれ以上話すことはありませんわ。無関係なのですから」

 その言葉にギャルソンは逆上したが屈強な警官に抑え込まれて連行されていった。
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