【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
36 / 54
幼稚な正義感の名の下で

サブリナの真実

しおりを挟む
 そのときギャルソンは違法行為を糾弾されることよりも信じているサブリナが糾弾されることが苦痛であった。
その時の彼の頭の中はサブリナは聖女であり正義、キャロルはいじめっ子で悪魔、と認識していたからだ。

 「あの女が! キャロルがイジメているって事を何度も聞かされているんだ! それに俺はあの女が階段から突き落とすのを見ているし、机に陰惨な落書きをされたのも見ている! サブリナは被害者なのに!」

 ギャルソンは荒れ狂っていたが目の前の男は冷静だった。

 「それはないな、君! なんだってキャロル・オーガストさんは我が国にとって重要人物なんだ。だから学校内では常に警備対象になっているんだ。それは本人も知らされていない事さ。君が通っている学校の教師や生徒の中にも情報部員のエージェントが何人もいるのさ。詳細は言う事は出来ないが、君の好きなサブリナは気を引くためにウソを言っていたんだ。そもそも学校内でサブリナが主張するのを真面に信じていたのは君ぐらいさ」

 「嘘だ! ウソだ! ウソをいいやがって! なぜあの女の、あの女をかばうんだ! それにあんたら何者だよ!   なぜ俺の家の家族会議にいるんだよ!」

 その時、ギャルソンの父親が頬をぶん殴った! ギャルソンにとって殴られるのは初めてだった。

 「何するんだよ!」

 「いい加減目を覚ませ! すでに報告を受けているんだ。お前とキャロルさんとの婚約式を早くすればよかったと後悔しているぞ。そこまでキャロルさんの箏を疎ましく思っていたなんて」

 「そうさ! 疎ましかったんだ! なんであんな地味な女と結婚しなきゃいけないんだよ!」

 「それはな・・・モルトケ家も本来は赤い竜の血を受けづいてきた家だったんだ。しかし、絶えてしまったんだ。そこのあたりの話は出来ないが・・・興味ないだろうしな。もうすべては遅すぎるのさ。キャロルさんは目覚めてしまったんだからな」

 ギャルソンは父親が言っていることが理解できなかった。

 「わからねえ、じゃあ俺なんだよ! 兄貴でもよかっただろうに!」

 「それはな出来ない事さ。誰でもいいわけじゃないんだ。お前が適合していたはずなんだが・・・気持ちは離れていたんだな。でもな、これだけは言う! そのサブリナという娘と結婚するのは許さない! したいというなら勘当だな!」

 「サブリナを認めないだと! なぜなんだ! 俺たちは愛し合っているというのに!」

 「決まっているじゃないか! 婚約者がいると知っていて奪おうとする娘なんか、信用できないからだ。それにご禁制のあのお茶を裏で売ろうと持ち掛けた娘だしな」

 「なぜ、それを知っているんだ、親父?」

 「決まっているんじゃないか、そのサブリナって娘はすでに警察に拘束されているんだからな。それとキャロルさんが男と関係を持っている写真を撮った連中もそうだ。お前が知らないうちに・・・」

 そういうとギャルソンの父は突き飛ばした。その行為にはやりきれないといった怒りが籠っていた。

 「じゃあ、サブリナと俺は?」

 「ああ、出来ないさ。したければこの家から出ろ。でもな、サブリナの目的は金回りの良い金持ちの息子と結婚する事だそうだから、お前は苦労するだろうな。そんな女と結婚してもダメだっただろうな。ウソを平気なんだからな」

 ギャルソンは信じていたサブリナを否定されて打ちのめされて、心が折れそうになった。キャロルという婚約者を捨てる事が正義だと信じていたのに、何故なんだと。モルトケ家が重苦しい空気に支配されていた時、美しい金髪をなびかせた少女が入ってきた。その少女が誰なのかわからなかった。

 「お、お前は?」

 「私よ! キャロル・オーガストよ!」

 「?????」

 そこには地味だったキャロルではなかった。赤い竜の血を受けづく娘の能力が覚醒したキャロルだった。その顔を見たときギャルソンは何が起きたのか分からなかった。

 「モルトケさん。あなたたちご夫婦は好きでしたが、ご令息は好きではありませんでした。私がサブリナさんをイジメているなんて戯言を信じて私の貞操を奪おうとした男との婚約破棄が出来て嬉しく思います」

 「ちょっとまて、なら何故否定しなかったんだ!サブリナがウソを言っていると!」

 「決まっているじゃないですか、聞かれなかったからです。それに、昔から私が話しかけても無視するか無関心な態度じゃないですか? それに婚約式が終わっていないのに、学校で婚約者として振舞えるわけありませんよね? あなた知らないんですか?」

 「そんなの・・・知らん! サブリナの方がよかったんだからな。それにしても何故綺麗になったんだお前!」

 「それは覚醒したからよ! 本当はあなたと夫婦の契りをすれば手に入れることは出来たのに残念ね」

 「なにが残念なんだ!」

 そういってキャロルにギャルソンが飛びかかろうとしたが、男二人に阻止された。

 「なにするんだよ!」

 「まあ、落ち着け! キャロルさんはお前さんとの婚約を解消するために来たんだよ。よかったな、お前の希望通りになって」

 ギャルソンは男に皮肉っぽく言われた。キャロルとの婚約を破棄するのが目的だったが、思い描いていたものと違っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...