【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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幼稚な正義感の名の下で

赤い竜の血を受け継ぐ娘の伝説

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 古の時代、この地上に誕生した最初の帝国末期のことだった。劣化した帝国皇太子は然るべき手続きを経ることなく聖女とされる娘を我が物としようとして失敗した。それに激怒した皇太子はその娘を偽の聖女だと宣言し処刑を宣言した。手に入らぬものなら壊してしまえばいいという子供のような短慮であった。

 律法と信仰によって守られてきた帝国はそれを契機に滅亡への道を歩むことになるが、ここで一つの伝説が生まれた。赤い竜の血を受け継ぐ娘の伝説である。処刑されることになった聖女の娘は処女の血を流すと不吉な事が起きるという伝承により、純潔を奪う儀式が行われることになった。その儀式が行われる直前、娘は赤い竜に奪われた。そして赤い竜はこういった。

 「汝を助けたお礼というわけではないが、我の妻にならないか? さすれば汝とその血を受け継ぐ娘に、この人間の世が続く限り竜の力を与えてもいいぞ」

 その赤い竜の提案に娘が応じると赤い竜は人間の男へと姿を変え、夫婦の縁を結んだという。二人から生まれた娘が劣化した帝国を打倒し、新たな帝国を樹立した。その帝国初代の女帝は神々しい金髪と炎のような赤い瞳をしていた。そして彼女の血を受けづく直系女系は必ずその女帝の神の力を受けづいているという。

 以上が「赤い竜の血を受け継ぐ娘の伝説」であるが、一般には建国神話の一つだとされていた。なぜなら女帝が樹立した帝国は三代で滅亡したとされており、その直系女系は途中で断絶したとされていた。しかし、実際にはキャロルまで絶えることなく続いていた。全て歴史上の為政者が隠蔽していたからだ。

 「あなたって、まさか赤い竜ですか?」

 キャロルは心の中でつぶやいた。こんな絶体絶命な事態に幻聴が聞こえるなんて、どうにかしていると思ってはいたが、他に手はなかった。

 ”そうだ! 汝の血に眠る赤い竜だ。こうやって生き続けているわけだ。古の契約によって汝が大人の女になってから能力を授けることになっていたが、それは相手にもよると決まっているんだ。なんだ、あの男ども! あんな連中に汝の力の恩恵を受ける事になんぞなったら、我の恥である。だから汝が契約を結べばこの危機を脱する以上の能力を授ける!”

 「契約とはなんですか? 条件はあるのですか?」

 「契約はもちろん汝に能力を授けるものだ。本来なら赤い血を受けづく母が認めた相手と契りを結ぶことで成立するものだが、いまは非常事態でいたしかたない。条件は今の婚約者を・・・」

 ギャルソンのことであったがキャロルは驚きつつも一切良い感情を持っていなかったので、赤い竜の条件をのむことにした。するとこんな言葉を感じた。

 ”汝は”勘違いしているようだが、このような事をする黒幕は汝の婚約者さ。それにしても愚かであるな。条件に合わなくても汝の母が認めたのであれば、恩恵を受けることが出来たのにな、そのギャルソンという奴は!”

 キャロルはギャルソンがこんな無茶苦茶な事をしでかすのに驚きを禁じ得なかったが、今は目の前のチンピラが迫っている方に集中するほかなかった。貞操を守り抜かなければ赤い竜の力を失うから!
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