【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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幼稚な正義感の名の下で

狙われたキャロル

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 サブリナは喜んでいた。まんまとギャルソンがキャロルを排除する気になったことに。全て自分の為に動いてくれることに。運命の長い一日が始まろうとしていた。その日、キャロルは人生最悪の日になるはずだった。ギャルソンから聞いたのはキャロルに誰が見ても婚約破棄されても当然な事をするように仕向けるという事だった。それがなになのかは分からなかったが、ギャルソンの不気味な笑みから察していた。

 その日は期末試験の最終日だった。だから午前中で学校は終わりだった。学校は首都の郊外にあるので、生徒たちはそれぞれの方向へ散っていった。その中にキャロルもいた。

 「ねえギャルソン。オーガストの奴ってどうなるの?」

 サブリナはギャルソンに甘えるような顔で聞いた。この日は試験から解放された生徒たちで学校近くの店はいっぱいだった。二人は個室でデートしていた。

 「今日、あいつは辱めを受けるのさ。だって君をイジメたんだろ? それぐらいの報いを受けて当然だろ?」

 ギャルソンはサブリナの言い分を全面的に信じていた。キャロルこそ悪だと。彼には恋の駆け引きなんて難しい事を考えていないし、単純かつ誤った善悪の判断しかできなかった。

 「そうね、オーガストには当然の報いよね。これで私たち堂々と恋人になれるわ!」

 「恋人じゃないか! 今もこれからも!」

 「あなた大好き!」

 二人の心は燃え上がっていた。一方、キャロルといえば・・・


 「うーん、物理学散々だったわ。赤点じゃなかったらいいけど・・・」

 キャロルは都心にある官舎へ歩いて帰宅していた。この日は生憎の雨で心は折れそうになっていた。もちろん試験の出来についてだ。この時、大きな路地を歩いていたが周囲に誰も居なかった。雨が激しくなって傘をさしていても濡れるのが避けられないほどであった。

 「あーあ、散々だな。それにしてもあたしって誰と結ばれるのかしらね。物理だと法則は一定だから原因があれば結果は同じだというのに、あたしの婚約者は・・・振り向いてくれないしね」

 キャロルはギャルソンがサブリナにぞっこんなのを知っていた。本来なら婚約者は他の異性と必要以上に付き合ってはならないとされているが、彼は守っていないのは明らかだった。だからといってキャロルはサブリナと張り合う気持ちは皆無だった。キャロルにとってギャルソンに魅力など感じていなかった。婚約者同士なのは自分と彼の両親に対する義務を守っているためだった。本音はギャルソンと結婚したいという気持ちはなかった。

 「それにしても、母さんと言ったら赤い竜の力というモノがなんなのか教えてくれないのよね。なんでも男に女の子の大事なものを・・・そのあとは教えてくれないし、大事なものをあげるってどういう意味なのかわからないのよね。まあ、結婚して初夜を過ごせば自ずとわかるっていう事だから想像できるけどね」

 雨の日はメランコリーな気持ちになるから、普段考えないような事を想うもんだとキャロルが心でつぶやいていた時、それが起きてしまった。いきなり何者かに羽交い絞めにされた!

 「キャロル・オーガスト‼ 用がある!」

 キャロルは後ろを見ようと暴れているとみずおちに激しい衝撃を受けた。それでキャロルは意識を失った。キャロルは拉致されてしまった! キャロルはそのままトラックの荷台に放り込まれ連れ去られてしまった。それを実行したのはギャルソンが禁制品を横流ししている連中の意を受けた者だった。いま、キャロルに最悪の危機が迫っていた!
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