【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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幼稚な正義感の名の下で

幼稚な正義感の名の元に

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 ギャルソンはキャロルの本当の価値を知らなかった。もしキャロルの力が覚醒すれば彼女をモノにした男は大きな恩恵を受けることを。キャロルの母セシルは赤い竜の血を受け継ぐ女としては強い方でなかった。それは能力が強大になるのは隔世遺伝するためであった。だからキャロルは大きな能力を持つのは確実だった。それに父であるマークス・オーガストも赤い竜の血を持つ女から生まれた男なので、二つの血流が交わることで想定以上の力を持つかもしれなかった。

 だからキャロルの存在は政府にとって脅威だった。他国に移民することがあれば脅威であるので外国人と恋愛し婚姻されたら一大事だった。その一方で婚姻後も国内で生活してくれたら何かの役に立つかもしれない。だから、早い時期に婚約してしまうという前時代的な事を強制したわけだ。その選定方法は幼馴染として心を通わせるような相手を選ぶというものだった。だからマークスの友人でもあるギャルソンの父ヘンリー・モルトケの息子と婚約したわけだ。

 だたキャロルの父も政府の担当部署も大きな間違いをしていた。当人同士、特にギャルソンに全くその気がなかったのだ。のちに責任者が政府に提出した秘密報告書によれば「キャロルが好きな相手を徹底的に調査してから婚約を後押しした方が問題が起きなかった」と記していたという。そうなったのもヘンリーが事業で多忙のため彼の事を良く教育できなかったのが原因だった。

 ギャルソンは好きな彼女をイジメるキャロルを成敗しなければならないという正義感に燃えていた。もちろん、それは冤罪によるものだし、サブリナの罠であった。しかし全面的にサブリナに心を奪われているギャルソンはそんなことを認めるはずはなかった。まさに愛は盲目であった! サブリナこそが信じるに足る存在であった。キャロルは大きな罰を与えなければならないと!

 彼の正義感は歪んでいたとしか言えなかった。たとえば相手が悪事をするならそれ以上の悪事をするもの許されるわけはないのに、正義のためなら肯定されて当然だと考えていた。しかもデマを信じてやるのだから認められるはずないのにである。彼の正義感は幼稚であった。

 このとき彼が本当にやらないといけなかったのは、イジメが事実なのかをキャロルに確かめる事であった。また結婚したくないのなら両親を説得すればよかった。しかし、その両方を放棄してやったのは自らが信じる幼稚な正義感の名の元に行う犯罪行為だった。あの「熟した果実」の登場人物たちのような!

 サブリナとのデートを終えて向かった先はギャルソンが出入りしている不良のたまり場だった。そこに向かったのはある事を依頼するためだった。そこには町のふらつきの不良がいたが、その不良はギャルソンの仲間であった。ギャルソンは学校で見せていない裏の顔があった。

 「ギャルソン様。今日は突然ですな」

 明らかにヘッド格の不良が近寄ってきた。ここではギャルソンは一目置かれている様だった。

 「どうだい、この前横流しした茶の売れ行きは? 親父の部下からやばい事をしてもらっているから、もうからないと困るんだ」

 「それはもう、大丈夫ですよ。あの茶は禁制品ですから高く売れますから」

 「それはよかった。あとで約束通り売り上げの半分を用意してくれ、楽しみだな! 親父からもらえる小遣いもしみたれっているしな。ところで頼みたいことがある。この女についてだ」

 そういって渡したのはキャロルの写真だった。その写真はギャルソンの両親から渡されたものであったが、持っているのが嫌で仕方なかった代物だった。

 「その女は?」

 「俺の彼女のサブリナをイジメた女だ! こいつは許せない! こいつを襲え! どうにでもしろとまで言わないが、誰から見てもふしだらな女と思われるような写真を撮れ! そしてそれを俺が指定する場所に郵送しろ! 成功すればもっと茶を横流ししてやるからな」


 ギャルソンは覚醒作用があるため禁制品になっている茶を餌に不良グループにキャロルを辱める写真を撮れと命じたのだ。もちろん、それを完全にやるのは犯罪行為だ。だから、完遂しなくてもいいので、キャロル自ら淫行に耽っているような写真を撮れというのだ。もちろん双方の両親が婚約破棄するしかないと思うような。

 「ありがとうございます。方法については任せてもらえませんか? 警察にばれたらこっちも危険ですから、誰かを差し向けますから」

 「ああ、そうしてくれ。それと殺したりするなよ。こっちにも司直の手が及んでも困るからな。誰が見てもそうしているように思うような写真さえあればいいからな」

 ギャルソンが考えていたのはこうだ。キャロルがどこかの男と不純男女交際しているという証拠を捏造し、それをモルトケ家とオーガスト家に匿名で郵送するという企みだ。そうすればキャロルは婚約破棄されるばかりかフシダラな娘というレッテルを貼られてしまうだろう。そうすれば真面な結婚は出来なくなるか、一生独身で過ごさないといけないだろう。

 それにしても大人たちはなんでキャロルを赤い竜の血をひく娘だと重宝するのか理解できなかった。そんな超能力を持つだなんてありあないとギャルソンは思っていた。キャロルはただの娘だと証明したいとも考えていた。それは大きな間違いであったが。
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