【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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幼稚な正義感の名の下で

転がるの止まれ!

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 サブリナが何を企んでいるのかをキャロルはいろいろと想像していた。やってもないのにイジメられていると主張している女である。噂は学校中に蔓延しているけど現場を誰も見たことないというミステリー。噂はフェイクだから当然だ。だから信じているのはギャルソンなど男の一部であった。

 サブリナは自分がイジメられている現場をギャルソンに目撃させようとしているようだ。本当に体を張った演技であった。ここを選んだのは踊り場から下までそんなに高さはなかったようだ。これが中央の吹き抜けの大階段だったら大怪我してもおかしくないところだろう。

 「なにするのよ! オーガストさん!」

 サブリナの演技臭い叫び声があたりに響いた。演劇部の新入部員でももう少しマシなレベルだった。本当にヘタクソだった。サブリナの身体はゆっくりと階段の下へと落ちていった。そのとき、キャロルは心の中で叫んだ。

 ”転がるの止まれ!”

 このときキャロルは自分の中から何かの力が出ていくような感覚がした。すると不思議な事が起きた。少しサブリナの身体が浮いたようだった。でも、引力の方が強かったらしく変な航跡を描きながら下のギャルソンの方へゆがみながら落ちてゆき、仰向けに落ちたはずなのに姿勢も変わり、そして二人は・・・

 サブリナはギャルソンの身体の上に抱きつくような格好で倒れた。しかも唇が合わさるようにだ。それを見た他の生徒が騒ぎ始めた。いくら男女交際禁止という校則があっても有名無実化しているとはいえ、校内でそんな大胆な恰好になったから。しかもサブリナのスカートははたけていた!

 「ちょっと・・・なにするんだよ、オーガスト!」

 ギャルソンは見る角度の錯覚でキャロルがサブリナを突き落としたように見えていたが、周囲の者からすれば二人が抱きついている方が問題だった。

 「おい! ふたりとも何をしているんだ! 若いからといっても分別ぐらいわきまえろ!」

 廊下を歩いていた校長先生が注意しにきた。校長にサブリナは突き落とされたと主張したが、キャロルの顔を見て何かを感じた様子で、とりあえず大したことにならなかったんだからキャロルに謝れと指示した。するとキャロルは釈然としなかったが謝罪した。これで場が収まったと思ったが、キャロルは校長室に連れていかれた。

 「キャロル・オーガスト君。君は赤い竜の血の力を使ったんだろ?」

 校長の言葉にキャロルはきょとんとしてしまった。

 「なぜ、そう思われるのですか?」

 「決まっているだろう、君がいた場所からあの二人のところまで女子生徒の身体が自然の法則で飛ぶはずないからな。それにさっきは言わなかったが、あの生徒わざと落ちたんだろ? 」

 校長はなんでわかったんだろうと不思議だと思った。すると、こう言いだした。

 「把握していたのさ。あの女子生徒は君の事を疎ましく思っているのを。いままで言葉だけだったが愚かにもな!  そうだな、こんなことになったから正直に言おう。君は政府から監視対象にされているんだ。君の秘められた能力が発現して悪用しないようにな。さっきのはその秘められた力なのさ君の!」

 政府はどうも赤い竜の血をひく娘にある種の脅威を感じているんだと分かりキャロルは恐ろしくなった。一方、サブリナといえばギャルソンにキャロルの悪口を言って盛り上がっていた。
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