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幼稚な正義感の名の下で
婚約者なんて!
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キャロルは幼いころから「赤い竜の血を受け継ぐ娘」の末裔として育てられた。この話は人魚の肉を食べ異常な長寿になった娘のような御伽話のように根拠などない虚偽だと一般ではいわれていたが、事実であった。ただ、それが広く信じられると娘の争奪戦になる事態が想定されるので、代々の為政者たちは意図的に隠してきた。
現在、「赤い竜の血」を持つ女性は数人しかおらず、未婚で処女なのはキャロルしかいなかった。キャロルの母には四人の子供がいたが娘はキャロルだけだった。そのため、政府の指示で争奪戦が起きぬように物心つく前に婚約者を決められてしまった。キャロルには最初から結婚相手を決める権利を奪われてしまった。
キャロルがいつも読んでいる本は、実用的なものもあるが小説はいつも恋愛小説ものばかりだった。もう自由な恋愛なんて望めない境遇なので、想像の世界だけで恋愛をしていたわけだ。
その日読んでいたのは「奪われた花嫁」というもので、結婚直前に誘拐された令嬢が犯人と逃避行しているうちに恋をしてしまうというものだった。この時、クライマックスシーンに差し掛かっていた。一緒に逃避行し新婚旅行をしているように偽造していたが、ついに捜査当局に居場所がばれて包囲されているところだった。
「なにしているのよ、警部は! 彼女が好きな人を捕まえようとするなんて、どうにかしているわ!」
キャロルは主人公になりきっていた。実はキャロルには誰かに奪ってほしいという願望があった。婚約者のギャルソンが自分に興味ないのは思春期を迎えたころに気が付いていたからだ。その前も年に何度も合うのに幼馴染とも呼べないような態度で、いつも話が盛り上がるのは親同士だけだった。親からすれば婚約しているのだから、成長すれば互いに意識するだろうぐらいにしか考えていなかったようだ。
キャロルの父は産業振興省という役所の官吏でギャルソンの父が経営するモルトケ商会と半ば癒着していた。癒着といっても政策遂行のために協力しているだけなので、リベートといった賄賂は受け取っていなかったが、おそらくキャロルが結婚すれば天下りでモルトケ商会の重要ポストに就くというのは既定事実だと知っていた。それを知らないのは学校の成績も低空飛行をしているギャルソンぐらいだった。
「ねえ、キャロル! いつものお楽しみなんだね!」
そう声をかけてきたのはキャロルの数少ない友人のセイラだった。彼女は同じ官舎に住むので幼いころから知っていた。
「もう! いま良いところなのよ! もうすぐ休憩時間が終わるからしかたないわね」
キャロルは本にシオリを挟んでカバンに入れた。
「ごめんね! 頼まれちゃったのよ! カイパーさんに」
カイパーとはサブリナの苗字だ。このクラスでは学級委員をしているので、女子の中では一目置かれていた。
「カイパーさんが? 何の用かしら?」
キャロルは嫌な予感がした。彼女が勝手にライバル視していると分かっていたから。もちろん原因はギャルソンだと。いつもギャルソンが一緒にいるのはサブリナなのはクラスの全員が知っていることだ。キャロルとギャルソンが婚約者同士という事を知っているのは当事者を除けば二人だけだった。
「いつものことじゃないのよ? あの人はキャロルが自分をイジメているっていいふらしているそうよ。そんなはずないのにねえ。本当にどうにかしているわね」
セイラはそういうと耳元でささやいた。
「一層の事、あげちゃなよ! モルトケを! あんな出来損ないなのに金持ちだからと威張っている男なんか!」
そういわれキャロルは複雑な気持ちになった。本当に出来るのならそうしたいと。婚約者なんて立場は捨てたいと! あんな自分に無関心な男は! こっちは男を避けるように努力しているというのに!
現在、「赤い竜の血」を持つ女性は数人しかおらず、未婚で処女なのはキャロルしかいなかった。キャロルの母には四人の子供がいたが娘はキャロルだけだった。そのため、政府の指示で争奪戦が起きぬように物心つく前に婚約者を決められてしまった。キャロルには最初から結婚相手を決める権利を奪われてしまった。
キャロルがいつも読んでいる本は、実用的なものもあるが小説はいつも恋愛小説ものばかりだった。もう自由な恋愛なんて望めない境遇なので、想像の世界だけで恋愛をしていたわけだ。
その日読んでいたのは「奪われた花嫁」というもので、結婚直前に誘拐された令嬢が犯人と逃避行しているうちに恋をしてしまうというものだった。この時、クライマックスシーンに差し掛かっていた。一緒に逃避行し新婚旅行をしているように偽造していたが、ついに捜査当局に居場所がばれて包囲されているところだった。
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キャロルは主人公になりきっていた。実はキャロルには誰かに奪ってほしいという願望があった。婚約者のギャルソンが自分に興味ないのは思春期を迎えたころに気が付いていたからだ。その前も年に何度も合うのに幼馴染とも呼べないような態度で、いつも話が盛り上がるのは親同士だけだった。親からすれば婚約しているのだから、成長すれば互いに意識するだろうぐらいにしか考えていなかったようだ。
キャロルの父は産業振興省という役所の官吏でギャルソンの父が経営するモルトケ商会と半ば癒着していた。癒着といっても政策遂行のために協力しているだけなので、リベートといった賄賂は受け取っていなかったが、おそらくキャロルが結婚すれば天下りでモルトケ商会の重要ポストに就くというのは既定事実だと知っていた。それを知らないのは学校の成績も低空飛行をしているギャルソンぐらいだった。
「ねえ、キャロル! いつものお楽しみなんだね!」
そう声をかけてきたのはキャロルの数少ない友人のセイラだった。彼女は同じ官舎に住むので幼いころから知っていた。
「もう! いま良いところなのよ! もうすぐ休憩時間が終わるからしかたないわね」
キャロルは本にシオリを挟んでカバンに入れた。
「ごめんね! 頼まれちゃったのよ! カイパーさんに」
カイパーとはサブリナの苗字だ。このクラスでは学級委員をしているので、女子の中では一目置かれていた。
「カイパーさんが? 何の用かしら?」
キャロルは嫌な予感がした。彼女が勝手にライバル視していると分かっていたから。もちろん原因はギャルソンだと。いつもギャルソンが一緒にいるのはサブリナなのはクラスの全員が知っていることだ。キャロルとギャルソンが婚約者同士という事を知っているのは当事者を除けば二人だけだった。
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「一層の事、あげちゃなよ! モルトケを! あんな出来損ないなのに金持ちだからと威張っている男なんか!」
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