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王子の真実の愛の真実
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フラマン王国最期の日、ヴィルヘルムとジェーンは囚人護送用の馬車に乗せられ旅立った。フラマン王国及び三か国から永久追放されるために。皮肉にも囚人護送に使われた車両はキャサリンが北の刑場に連れていかれたものと同じだった。あの時と違うのは護衛がついていたぐらいであるが、それは脱走させない為であるとともに、とりあえず生きて追放させるためでもあった。実際、不利益を被ったフラマン王国の民から敵愾心を持たれ隙あらば殺害しようという輩も数多かった。
馬車が出発したのは夜明け前の暗闇のなかであったが、二人にしてみれば深い後悔以外になにも考えられなかった。通常、王族ないし貴族が罰せられても平民落ちするものであるが、二人は平民ですらなかった。もちろん奴隷ではなかったが、どの国にも属していない無国籍者になった。二人はこれから自分が新たに属すことが出来る土地を探せなければならなかった。
農民なら新天地を探すだろうし、商人なら新たに商売ができる場所をさがすだろうし、職工なら雇ってもらえる工房をさがせばいい。しかし二人は特権階級として民に支えられ生きてきたから、そういった生活力は皆無だった。特にヴィルヘルムは次期国王としての帝王学すら不熱心な態度だったから、庶民のように生活するのは難しいといえた。
「とりあえず、ここからトリニティ王国です。ここでは休憩で降りることは許されていませんので、食事も用を足すのも馬車のなかでしてください。オマルは衝立に囲まれたところにありますから」
二人に同行している弁護人のチェスターはそういった。彼は二人の為であるとともに、間違いなく追放されたことを確認し報告する任務もあった。チェスターには二人をどこで追放するのか決めることを任されていた。だから追放先の情報はなにもいう事はなかった。
馬車はトリニティ王国の王都に入った。そこはフラマン王国の王都よりも荘厳で相当繁栄していた。それでもキャサリンの父王が亡くなったころよりも衰退していたというから驚きだった。王都の小高い丘の上に巨大な壁のような王宮があった。そこの主はもちろんキャサリンだった。ほんの少し前まで婚約破棄されたばかりか処刑を命じられたキャサリンは国王となり、婚約破棄を決めた王太子は全てを失い国さえも滅亡させた。それを思ったらヴィルヘルムは虚しくなった。こんなことになるなら・・・なにをすべきだったというのか、理解も想像もできなかった。
トリニティ王国の王都を走る間、人々から罵声を浴びせられ、さらには馬車の進路方向にわざと家畜の排泄物を用いた堆肥がまかれるなどの妨害をうけ、二人の気分はさらにおちていった。王都を過ぎると安心したものの、さらに馬車は悪路続く原野を右に左と揺られたため、夕方が過ぎるころには二人ともぐったりしていた。夜になると野営したが、二人が馬車から降りるのは認められず、チェスターだけがどこかに行ってしまった。しかも馬車の中にはいつも短刀がおかれていた。その短刀は自決用のものだった。死にたければ死になさいという意味のようだった。でも二人はそんな気持ちになることはなかった。
馬車がそんなことをして五日目の事だった。名前も聞いたことのない国の町に止まったとき、チェスターはある提案をした。
「ジェーンさん。あなただけが選択できます。こちらのヴィルヘルムと一緒になりたいですか? もし一緒になりたいのなら、ここで二人降ろします。いかがですか?」
もし、この質問をヴィルヘルムに選択権があれば確実に一緒にいたいといっていたはずだ。なんだってジェーンは真実の愛の相手であるはずだし、自分の未来を捨ててしまった原因だから。ここまで、一言もしゃべらなかったジェーンの返答は明確だった。
「ここで一人でおります! 真実の愛なんて形のないものに拘る男と生きていくのは無理ですから!」
ジェーンはそういうと馬車から降りた。その先にはその国の役人が待機していた。
「ジェーン、それはないだろう! 俺の元から去らないでくれ!」
ヴィルヘルムは泣きながら暴れたがチェスターにねじ込まれてしまった。扉が閉まった直後に馬車は走り出した。そしてヴィルヘルムは本当に全て失ってしまった。彼が持っていた王太子の地位も婚約者も、そして真実の愛の相手だと思っていた女性も全て失った。全てを失った愚かな男を乗せ馬車は再び荒野を走り続けた。
馬車が出発したのは夜明け前の暗闇のなかであったが、二人にしてみれば深い後悔以外になにも考えられなかった。通常、王族ないし貴族が罰せられても平民落ちするものであるが、二人は平民ですらなかった。もちろん奴隷ではなかったが、どの国にも属していない無国籍者になった。二人はこれから自分が新たに属すことが出来る土地を探せなければならなかった。
農民なら新天地を探すだろうし、商人なら新たに商売ができる場所をさがすだろうし、職工なら雇ってもらえる工房をさがせばいい。しかし二人は特権階級として民に支えられ生きてきたから、そういった生活力は皆無だった。特にヴィルヘルムは次期国王としての帝王学すら不熱心な態度だったから、庶民のように生活するのは難しいといえた。
「とりあえず、ここからトリニティ王国です。ここでは休憩で降りることは許されていませんので、食事も用を足すのも馬車のなかでしてください。オマルは衝立に囲まれたところにありますから」
二人に同行している弁護人のチェスターはそういった。彼は二人の為であるとともに、間違いなく追放されたことを確認し報告する任務もあった。チェスターには二人をどこで追放するのか決めることを任されていた。だから追放先の情報はなにもいう事はなかった。
馬車はトリニティ王国の王都に入った。そこはフラマン王国の王都よりも荘厳で相当繁栄していた。それでもキャサリンの父王が亡くなったころよりも衰退していたというから驚きだった。王都の小高い丘の上に巨大な壁のような王宮があった。そこの主はもちろんキャサリンだった。ほんの少し前まで婚約破棄されたばかりか処刑を命じられたキャサリンは国王となり、婚約破棄を決めた王太子は全てを失い国さえも滅亡させた。それを思ったらヴィルヘルムは虚しくなった。こんなことになるなら・・・なにをすべきだったというのか、理解も想像もできなかった。
トリニティ王国の王都を走る間、人々から罵声を浴びせられ、さらには馬車の進路方向にわざと家畜の排泄物を用いた堆肥がまかれるなどの妨害をうけ、二人の気分はさらにおちていった。王都を過ぎると安心したものの、さらに馬車は悪路続く原野を右に左と揺られたため、夕方が過ぎるころには二人ともぐったりしていた。夜になると野営したが、二人が馬車から降りるのは認められず、チェスターだけがどこかに行ってしまった。しかも馬車の中にはいつも短刀がおかれていた。その短刀は自決用のものだった。死にたければ死になさいという意味のようだった。でも二人はそんな気持ちになることはなかった。
馬車がそんなことをして五日目の事だった。名前も聞いたことのない国の町に止まったとき、チェスターはある提案をした。
「ジェーンさん。あなただけが選択できます。こちらのヴィルヘルムと一緒になりたいですか? もし一緒になりたいのなら、ここで二人降ろします。いかがですか?」
もし、この質問をヴィルヘルムに選択権があれば確実に一緒にいたいといっていたはずだ。なんだってジェーンは真実の愛の相手であるはずだし、自分の未来を捨ててしまった原因だから。ここまで、一言もしゃべらなかったジェーンの返答は明確だった。
「ここで一人でおります! 真実の愛なんて形のないものに拘る男と生きていくのは無理ですから!」
ジェーンはそういうと馬車から降りた。その先にはその国の役人が待機していた。
「ジェーン、それはないだろう! 俺の元から去らないでくれ!」
ヴィルヘルムは泣きながら暴れたがチェスターにねじ込まれてしまった。扉が閉まった直後に馬車は走り出した。そしてヴィルヘルムは本当に全て失ってしまった。彼が持っていた王太子の地位も婚約者も、そして真実の愛の相手だと思っていた女性も全て失った。全てを失った愚かな男を乗せ馬車は再び荒野を走り続けた。
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