【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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王子の真実の愛の真実

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 キャサリンがトリニティ王国に戻り人々から熱狂的歓迎を受けていたころ、彼女との婚約を破棄したヴィルヘルムは王城の地下牢に押し込められていた。そこは湿気がものすごく日の光も届かない陰惨な場所だった。唯一のいい点といえば相当古い寝具だけあったところであった。でも、湿気がひどいからカビが生えていた。

 「おい! 王太子だぞ俺は! なんでこうなっているんだ!」

 ヴィルヘルムが怒鳴っても看守は無反応だった。たまに食事を持ってくる看守によればジェーンは別の地下牢に入れられているとのことであったが、彼女の姿を見ることは出来なかった。

 「なんだ、まずいぞこの食事!」

 ヴィルヘルムが文句を言うと看守はこう言い返した。

 「まずいですか? 我々庶民が食べるのと同じものですよ。この国の民の暮らしはこんなものですよ。それよりも、あなたの将来を考えたらどうですか?」

 看守の言葉を聞いたヴィルヘルムは食器を床にたたきつけた。

 「決まっているだろ! 俺は王太子だ! この国の国王になるに決まっているだろ! それとジェーンに会わせろ!」

 癇癪をおこしたが、看守は何も返事をしなかったので、ますます怒りをぶつけたが、看守はそのまま見えなくなった。そんな事を繰り返したが何日か過ぎたころにはヴィルヘルムは憔悴しきっていた。自分の置かれている状況も分からず、そして真実の愛の相手であるジェーンもどうなっているのか分からなかった。そして自分の婚約者であったあの女が処刑されたのかも分からなかった。

 押し込められて一か月ぐらい経過したところでようやく地下牢から出される日がやってきた。この頃になるとヴィルヘルムは薄汚れてしまい顔も青白くやつれていた。そして威勢もなくなっていた。ようやく釈放されたのかと思ったが違っていた。

 「元王太子のヴィルヘルムさんですね。わたしはあなたの弁護人のチェスターです」

 ヴィルヘルムは様ではなくさん付けで呼ばれたことが気になったが、そんなのどうでもいいぐらいの精神状態だった。今何が起きているのかを知りたかった。

 「弁護人か? 俺はなにか悪い事をしたというのだよ。これって裁判にかけられるということだろ?」

 そういうとチェスターは書類を出した。そこには罪状が書かれていた。

 ”被告人 ヴィルヘルム・フォン・フランケン
  罪状 国家反逆罪ほか多数
  トリニティ王国女王キャサリン陛下に対する弑逆未遂および国王陛下の暗殺未遂など”

 これを読んだヴィルヘルムは驚いた。

 「ちょっとまて、キャサリンってあの女のことじゃないかよ! 俺はたしかあいつを極刑にしろとはいったが、なんで女王なんだよ! それに親父は病気だろ! 俺が殺そうとするわけないだろ」

 そう反論したがチェスターは冷静を失わず諭すようにいった。

 「何もご存じないようですね。あなたが婚約破棄したキャサリン様は国に戻って女王陛下になられたのですよ。それにですね、あなたが頼りにしていたホルストですが、とんでもない人物でした。なんだって自分の姪のジェーンにあなたを誘惑させていたのですからね。そして国王陛下に毒をもっていたのですよ。最近ずっと身体の調子が悪かったのは、あなたが差し入れた砂糖に毒が混入していたからですよ。その砂糖ってホルストから貰ったものですよね」

 ヴィルヘルムはホルストから貰った高価な砂糖が入った錫の器を思い出した。でもホルストは何も言っていなかった。

 「そうだが・・・俺はそんなこと知らねえぞ! ホルストが勝手にやったんだろ! ホルストがしゃべったんか、そんなことを! ホルストに会わせろ! 俺は無実だ! そんなことをするわけないだろう!」

 まくしたてるようにいったが、チェスターは冷静かつ冷酷な口調である事実をいった。

 「ホルストですが死にました。一連の事を首謀したとして。いまから五日前に四肢引き裂きの刑を受けました。もっとも、拷問でも受けたのか既に死んでいたようですけどね。それとジェーンも自白しましたよ。あなたに近づいて王妃の座を奪おうとしたと。すべてはホルストの指示だったと」

 それを聞いてヴィルヘルムは書類が置かれていたテーブルをぶん殴っていた。

 「ふざけるな! 俺とジェーンは真実の愛で結ばれているんだぞ! ジェーンに会わせろ! まさか死んだとは言わないだろ!」

 「死んではいないですよ、ジェーンは。あなたもそうですが、貴族から除籍されました。これから裁きを受けますよ、あなたと一緒に。そのとき法廷で会えますよ」

 「ちょっとまて! ジェーンが貴族から除籍とは? それに俺もってどういう意味なんだよ?」

 「なにも知らされていないのですね。あなたはもう王太子でも王族でもないのですよ。なんだってホルストの陰謀に加担していたんですから。そうそう、ご心配なく。裁判で死罪を言い渡されても国王陛下から格別のご慈悲を賜ることになっておりますから」

 チェスターに自分が置かれた立場を説明されたヴィルヘルムは愕然とした。自分は罪人扱いされていると。

 「俺は・・・これからどうなるのだよ?」

 「だから裁きを受けるのですよ。まあ共犯のホルストの刑が確定していますから無罪になることはありませんよ。それにジェーンも一緒ですよ」

 ヴィルヘルムは目の前が漆黒に近い暗闇になっていくような絶望感に包まれていった。

 
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