【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
9 / 54
王子の真実の愛の真実

3

しおりを挟む
 恋愛小説であれば、平民もしくは下級貴族などの娘が王子様と恋に落ちて幸せになる、なんて素晴らしい事なんだろうで万々歳で終わる。それが良しとされるが現実はそうはいかない。現実には王子とくに王太子の結婚相手は政治的利害も絡むので政略結婚となってしまう。それを変えるという試みは危険な冒険であるはずだった。
いい
 キャサリンは「元」婚約者だったヴィルヘルムから弾劾された。それらはキャサリンの身に覚えがない事、特に呪詛なんて・・・迷信であった。そう呆れるしかなかった。それにフォレスタル公爵令嬢なんて娘に会ったのは初めてだった。ヴィルヘルムは何人もの令嬢と付き合っているという話は何度の耳に入っていたが、相手は誰なのか興味もないし気にしていなかった。

 「そこのお前! 俺は愛する彼女から聞いたんだぞ! 呪詛のためのお札があったと! これが証拠だ!」

 そういって見せられたのは呪詛の言葉が書かれていた紙きれであった。本当なら誰が見てもキャサリンの筆跡に見えない代物だった。そんなものは彼女とやらの取り巻きの誰かの捏造にしか思えなかった。でも、ここでは王太子ヴィルヘルムが信じていることが真実とされているこの場では弁明は無意味だった。キャサリンは悟った、証拠なんてどうでもいいんだと。結論は決まっていると。

 「どうだあ、ぐうの音も出ねえのか? 沈黙するって事は認めるんだな!」

 勝ち誇ったヴィルヘルムの一方でキャサリンは諦めていた。ここで弁明しても結果は変わらないと。そのときの不安といえばこの後どうなるのかということしかなかった。

 「わかりました。婚約の破棄をお受けいたします。処遇はお任せします」

 キャサリンは心に怒りを飲み込んで淑女らしさを維持しようとしていた。目の前では美人で若い男が好むような派手なドレスを纏った娘が勝ち誇った表情を彼と同じように浮かべていた。いくらなんでも非道な処遇はないと信じたい気持ちがあったキャサリンであったが、あっさりと打ち砕かれてしまった。

 「じゃあ、いいわたす。ところでお前が思っているような処遇できるわけないだろう。婚約が破棄される理由は罪人なんだからな。将来の王妃を呪い殺そうとしたんだからな! 極刑しかないだろう! 細かい事は後で決定する!」

 キャサリンは目の前が真っ黒になった。その直後、キャサリンは警備兵によって両手を縛られ連行されていった。この時、キャサリンは極刑よりも悔しい事があった。最後までヴィルヘルムが自分の名前を呼んでくれなかった事だ。十年間も王妃になるための厳しい教育を受けてきたのに、名前すら呼びかけることなく捨てられたことに。

 そのあとの建国記念祭は新たな婚約者を迎えたヴィルヘルムにとって至福な時だったに違いなかった。親が決めたよくわからない亡国の王女でなく、自分が好きになった娘と結婚できることに高揚感に満ちていた。会場に集まった者の全てから祝福された。人生最高の瞬間だと。

 でも、その時を境にヴィルヘルムが悔やんでも悔やみきれない不幸になろうとは想像すらできなかった。キャサリンを罪人扱いし殺そうとしたことで全て失うとは想像すらしていなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...