【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

文字の大きさ
上 下
7 / 54
王子の真実の愛の真実

しおりを挟む
 とある物語で生まれた時から王妃になるために教育された娘ではなく、異国の町にすむ娘と真実の恋に落ちたいと所望し実現したというものがあった。これはコメディであるので深刻に考えるものではないが、捨てられた娘は気の毒だったといえる。

 それはともかく、王妃になるために厳しい教育に耐えてきたのに、捨てられてしまったら、きっと誰もが捨てた男に言うであろう、ろくでなしと!

 キャサリンは虫の知らせを受けていた。これから起きることに。その日は建国記念祭という王国にとって重要な行事であったが、エスコートしてくれるはずの婚約者がいなかったためだ。いや、エスコートなど真面にしてくれたことはなかった。ただ義務感で惰性でしていた。それは愛情の冷めた夫婦の方がずっとましだと思うぐらい、形式的なものだった。前のパーティーの時などは入場してから行方をくらましてしまい、どうも他の女とおしゃべりしていたようだ。婚約者の頭にキャサリンなどない様子だった。

 キャサリンは溜息をついた。七歳で婚約者とされ、両親から引き離され異国だった王室にやってきて十年もの間、お妃教育を受けてきた。最早、帰るべき実家もなくなっていた。一方の婚約者は二歳年上のヴィルヘルムであるが、第一印象など覚えていないぐらいキャサリンのことはどうでもいいと思っている様だった。彼からすればキャサリンはお飾りだった。

 実はキャサリンの実家だった隣国の王室は断絶していた。両親が他界した時に男子がいなかったためだ。その王室は伝統的に嫡子で男系男子しか国王になれないので、キャサリンが即位する可能性はなかった。また隣国は別の国の国王が兼務しているので、キャサリンの地位は低下する一方だった。

 「王太子婚約者キャサリン様、ご入場」

 会場に入った時、参加者からはこれといった反応はなかった。王太子が婚約者をエスコートしないのは常態化していたためだ。いつものことだということだ。でも後ろから王太子ヴィルヘルムが別の女性をエスコートして入場した時には、ざわめいでいた。それが意味するのはキャサリンにはわかっていた。

 ヴィルヘルムが会場の中央に到着すると、高らかに宣言した。

 「私は横にいるフォレスタル公爵令嬢と婚約する! また現在の婚約者とは婚約を破棄する!」

 キャサリンは溜息をついた。婚約を破棄するのなら名前でいってほしかったと。もしかするとヴィルヘルムの頭の中には名前すら忘れて消えているのかもしれなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...