【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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不良令息が婚約破棄すれば

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 ウォリスはすぐにでも逃げ出したかった。相手が一般人なら殴り倒すところであったが、目の前の高級軍人たちは存在自体が凶器であった。眼光は鋭いし身体もまさに屈強だった。そのなかでもジョージ・ブリストルはまた組みやすいと思っていた。小柄だし体格も華奢で年齢も五十近かったからだ。でも、目の前にいる軍人たちの中でも階級は上の方のようだった。

 このときウォリスは気付かなかったが、ジョージ・ブリストルは平民出身で爵位を受けていなかったが、階級は中佐だった。一般社会なら公爵家の令息であるウォリスがずっと上だったが、軍隊でははるかに上だった。軍組織の中でははるかに上だった。

 「貴官について調査させてもらったが、本来ならここにいるべき存在ではないな。ここまで処分されなかったのもおかしな話だな。こうなった経緯については別途調査して然るべき処罰を与えるべき者がいるといえるな。
 それはともかく今日ここに来てもらったのは、陛下が裁可していただいた婚約を勝手に破棄を宣言した件だ。聞くが貴官はいつから偉くなったのか? 貴官の父上であるバクスター艦隊司令長官殿もご存じなかったぞ。さあどういうことだ!」

 ジョージ・ブリストルは圧迫するかのようにウォリスに迫ってきた。しばし沈黙のあと絞り出すような声で答えた。

 「そ、それは・・・おれ・・・いや、小官といえども、結婚したい相手を選ぶ権利ぐらい・・・あるとおもいますが」

 その返答にその場にいた軍人たちは目線で殺してやるとばかりな厳しい眼光をウォリスに浴びせた。それはジョージ・ブリストルも一緒だった。

 「ほう、権利とな。たしかに人は幸福になる権利はあるだろうな。でも、貴官は父上に勧められるままに婚約したそうじゃないか? 父上から話を伺ったが、嘆いていたぞ。ここまで不埒な愚息だったとはと。いくら貴族だからといっても相手を選びたいのなら方法は他にもあっただろ!それなのに、婚約者のアリス嬢を道具のように扱って捨てるだなんて、ひどすぎないか?」

 彼の言葉からアリスを擁護しているとおもったウォリスは思わず口出ししてしまった。

 「小官はその、アリスのことを婚約者と認識したことありません。好きだったのはジェシカ・ガンバーランドです。彼女でもいいじゃありませんか、同じ男爵令嬢なんですから」

 ジェシカはいつもウォリスといちゃいちゃしている不良娘の名前だった。アリスの代わりにジェシカと婚約したいと申請していた。すると、ジョージ・ブリストルは鬼のような形相をして顔面同士を突き合わせてきた。

 「ほお、同じ男爵令嬢か? 貴官は知らねえのかよ、そのジェシカとやらという男爵令嬢なんていねえぞ! 今朝除籍処分を受けたからな」

 「????」

 ウォリスは意味が分からなかった。

 「教えてやろう、貴官ら貴族の不良子女たちは昨日一網打尽で拘束されたのだ。今までお目こぼしにしてきたけど、もう限界だったというわけだ。貴族としての特権を剥奪したうえで裁きを受けてもらうわけさ。最後に残ったのは貴官だけってことさ」

 ジョージ・ブリストルが言っている意味がよくわからなかったが、結婚したいと思っていたジェシカが捕まったという事だけはよくわかった。
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