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不良令息が婚約破棄すれば
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ウォリスは帝国海軍の英雄を祖父に持つ武門の誉れ高き伯爵令息だった。でも、祖父がどんなに立派でも優秀な素質は遺伝することはなかったようだ。受け継いだのは立派な体格だけで、他はそこら辺の悪党よりも始末に負えない素質をどこからか拾ってきたようであった。結果、士官学校随一の不良と相成ったわけだ。
そのうえ成績も低空飛行であり、もし平民出身だったら成績不振と素行不良で原級(落第)処分ところが退学処分に即刻なるところだ。でも、彼の父は艦隊司令長官であり、面倒な事を嫌う士官学校の教官たちは早く学校を出て行ってもらいたいとばかりに放置していた。だから益々つけあがったわけだ。ある意味、必要な指導を受けられなかった被害者でもあった。
でも、婚約者のアリスに対する仕打ちはまさに極道な加害者といえた。会えば暴行するのは当たり前、まるで獲物を与えられた獣のごとく虐待するのだ。しかも、肉体関係などなかった。それは婚姻前に性交すべきでないという貞操感覚ではなくアリスを女とみていなかったからだ。事実、ウォリスは他の貴族の不良令息とともに娼館通いに足しげく通っていた。
そんなウォリスとの婚姻契約をアリスの家族は黙って受け入れるしかなかった。アリスの家は男爵家で断り切れなかったから。伯爵の令息が男爵の娘と婚約するのは大きな身分格差があったが、そうなったのもウォリスの評判が悪く、内示を受けた伯爵家などが断ったので、仕方なくそうなったわけだ。
縁組そのものは帝室と貴族社会を管轄する宮内省から諮問されたものであったが、それは皇帝陛下のご意思とされ、余程の事がなければ断ることが出来ないものだった。出来たとしてもそれは相応の理由があって宮内大臣が認めるものでなければならなかった。アリスの父は一層の事爵位を返上しようかと考えたが、手掛けている貧民救済基金事業が出来なくなる方を恐れて断念していた。結果、アリスは婚約以来イジメられてきたわけだ。ウォリスにとってアリスはイジメても馬鹿みたいに従っている女の形をした人形だった。
「本当にすまない。お前が公衆の面前で婚約破棄されるだなんて思っていなかったよ。あの男が来るようにといっていうから何かを企んでいるかと思っていたが・・・」
アリスの父は涙を流していた。大事な娘があんな恥辱を受けるだなんて、もし相手が伯爵令息でなかったら、そこら辺にある丸太でも鉄棒でもあったら、そいつにそれで殴ってやりたいところだった。
「ごめんなさい。あの人の甘い言葉に惑わされた私が馬鹿でした。あんな書き方をするものですから」
アリスに届けられた手紙には”これからやり直したい”とあった。それを前向きなもの、たとえば婚約者らしく取り扱ってくれるとアリスは考えていたが、実際は別の意味だった。婚約破棄してやるというものだった。
「いいのよ、謝らなくても。だれだって騙されるわよ。それよりも、あなた娘があんな恥辱を受けたのだから、なんか罰してやりたいよ! お願いだから!」
アリスの母はそういって泣き出した。その時、馬車のそばを綺麗だけど派手すぎる娘と手をつないで歩くウォリスがいた。アリスの父は自分の娘に一切したことのない行動に怒りを覚えてひと事こういった。
「わかっている。アリスのためなら・・・ちょっと汚い手を使うまでさ。アリス、また意に沿わないかもしれないが、覚悟してもらえないか?」
その言葉にアリスはある人物の顔が浮かんでいた。
そのうえ成績も低空飛行であり、もし平民出身だったら成績不振と素行不良で原級(落第)処分ところが退学処分に即刻なるところだ。でも、彼の父は艦隊司令長官であり、面倒な事を嫌う士官学校の教官たちは早く学校を出て行ってもらいたいとばかりに放置していた。だから益々つけあがったわけだ。ある意味、必要な指導を受けられなかった被害者でもあった。
でも、婚約者のアリスに対する仕打ちはまさに極道な加害者といえた。会えば暴行するのは当たり前、まるで獲物を与えられた獣のごとく虐待するのだ。しかも、肉体関係などなかった。それは婚姻前に性交すべきでないという貞操感覚ではなくアリスを女とみていなかったからだ。事実、ウォリスは他の貴族の不良令息とともに娼館通いに足しげく通っていた。
そんなウォリスとの婚姻契約をアリスの家族は黙って受け入れるしかなかった。アリスの家は男爵家で断り切れなかったから。伯爵の令息が男爵の娘と婚約するのは大きな身分格差があったが、そうなったのもウォリスの評判が悪く、内示を受けた伯爵家などが断ったので、仕方なくそうなったわけだ。
縁組そのものは帝室と貴族社会を管轄する宮内省から諮問されたものであったが、それは皇帝陛下のご意思とされ、余程の事がなければ断ることが出来ないものだった。出来たとしてもそれは相応の理由があって宮内大臣が認めるものでなければならなかった。アリスの父は一層の事爵位を返上しようかと考えたが、手掛けている貧民救済基金事業が出来なくなる方を恐れて断念していた。結果、アリスは婚約以来イジメられてきたわけだ。ウォリスにとってアリスはイジメても馬鹿みたいに従っている女の形をした人形だった。
「本当にすまない。お前が公衆の面前で婚約破棄されるだなんて思っていなかったよ。あの男が来るようにといっていうから何かを企んでいるかと思っていたが・・・」
アリスの父は涙を流していた。大事な娘があんな恥辱を受けるだなんて、もし相手が伯爵令息でなかったら、そこら辺にある丸太でも鉄棒でもあったら、そいつにそれで殴ってやりたいところだった。
「ごめんなさい。あの人の甘い言葉に惑わされた私が馬鹿でした。あんな書き方をするものですから」
アリスに届けられた手紙には”これからやり直したい”とあった。それを前向きなもの、たとえば婚約者らしく取り扱ってくれるとアリスは考えていたが、実際は別の意味だった。婚約破棄してやるというものだった。
「いいのよ、謝らなくても。だれだって騙されるわよ。それよりも、あなた娘があんな恥辱を受けたのだから、なんか罰してやりたいよ! お願いだから!」
アリスの母はそういって泣き出した。その時、馬車のそばを綺麗だけど派手すぎる娘と手をつないで歩くウォリスがいた。アリスの父は自分の娘に一切したことのない行動に怒りを覚えてひと事こういった。
「わかっている。アリスのためなら・・・ちょっと汚い手を使うまでさ。アリス、また意に沿わないかもしれないが、覚悟してもらえないか?」
その言葉にアリスはある人物の顔が浮かんでいた。
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