【中編小説集】婚約破棄して”ざまあ!”になった人々の話

ジャン・幸田

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不良令息が婚約破棄すれば

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 「貴様! 俺はてめえのような女は婚約破棄してやる!」

 大きな声を聴いた群衆は一瞬凍り付いた。ここは大きな広場の中心。白昼痴話喧嘩が始まったとおもったが、それを言い出した男を見て群衆は唖然とした。そこには貴族の男女がいたが、どうみても男の方が虐げているようにしか見えなかった。

 「わ、わかりました。そうしてください! でも・・・」

 女は泥まみれになって頭から血を流していたが、どうみても男がやった風にしか見えなかった。

 「なんだ!」

 傲慢にしか見えない男は殴りそうなポーズをしていた。

 「やめてください! 暴力は! 理由ぐらい聞かせてください!」

 女は顔に涙を浮かべていた。

 「理由か? 特別に教えてやろう! 貴様が気に入らないからだ! だってそうだろう、俺の思うように動いてくれないからな貴様は! 兵隊だってそうだろう、馬鹿でもいうことを聞くなら使いようがあるが、働けない奴は使えないっていうだろ! だから破棄するんだ! 俺にとっちゃ、邪魔なだけなんだからな!」

 群衆は誰もが、なんてひどい奴だと思っていた。もちろん男の方だ。でも、群衆は男の正体に気が付いていた。士官学校随一の不良で有名な伯爵令息のウォリスだと。貴族出身でなければとっくに退学処分にされて当然な悪党だった。

 ウォリスの言葉からすると相手は婚約者のアリスであった。でも彼女の扱いはゴミと一緒だった。女性に対してここまでひどい事が出来るなんて鬼畜だといえた。

 「わかりました・・・ところで隣にいるのは?」

 アリスは泣きながらいった。

 「決まっているだろ! 俺の彼女さ! 貴様よりもいいぞ! 邪魔なんだよ! とっとと失せろ!」

 ウォリスに言われアリスは彼の前から去っていった。この光景をみていた群衆は、ウォリスは悪党、アリスは哀れな被害者だと認識された。だからウォリスが新たな彼女を侍らせている姿は群衆からすれば悪党そのものだった。もし、これが平民だったら誰かがたしなめたはずだが、誰もそうしなかった。

 その直後、アリスは猛ダッシュで広場から逃げ出した。そして馬車へと駆け込んだ。馬車には彼女の両親がいた。

 「大丈夫アリス?」

 「お前にはすまなかったと思う! あんな奴と婚約させたばっかりに・・・」

 両親は慰めてくれたが、アリスは心の中で解放感が広がるのを感じていた。あんな奴と結婚しなくてもいいんだと。
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