なぞのいきものおぼえがき

白遠

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09 カマキさん(※ショッキングかも知れません)

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 カマキリさんたちは蘭に似たやつとか、物凄く仮面ライダー気味なやつとか色々種類があるが、私が小田舎で暮らしていた時に目にするのは2種類だけだった。

 オオカマキリさんとコカマキリさんである。

 一時期ちょっと別な地域に住んでいた時、オオカマキリさんが凄くデブのやつしかいなくてびっくり! と思ったレベル。後でその地域にいたふっくらカマキリさんたちは「ハラビロカマキリ」という別なカマキリさんだったことを知った。

 私はこのオオカマキリさんというのが好きで、1.5センチくらいのカマキリさんのお子さんたちがワラワラ歩いているのを見ては愛でていた。きれいでしょう! 色が!!

 で、ある日、5センチくらいのオオカマキリさんのお子さんを捕まえたのだった。

 まだまだ子どものサイズ。虫かごに入れて、羽虫やアブラムシなんかを捕まえては虫かごにイン、イキのいいやつじゃないと将来に差し障る(生きてる虫を捕まえられなかったら死活問題)と思って、ピッチピチのをご提供。

 まあ、飼うなよかわいそうだろって話なんだが、かわいかったんで飼ってしまったのだった。名前もつけた。「カマキ」という。ニワトリにも「ピヨリ」とつけるセンスなので推してご理解頂きたい。

 でも小さなカゴだったので、一ヶ月もしないうちに狭そうな感じになり、結局放すことにした。

 その頃庭に私はゴーヤを植えていて、ゴーヤはツルを横に生えていたゴールドクレスト(もみの木みたいな庭木)に巻き付けて結構立派に育っていた。このゴーヤの葉っぱの上に彼を乗せたものである。

 カマキは「ふーん」という顔をした。

 さて、翌日、「まだカマキはいるかいな、もうどこかに行ってしまったかな」と思って「カマキ」とゴーヤに向かって呼んでみる。はたから見ると完全な変態である。小学生だったので許して欲しい。すると、ひょっこりとカマキが顔を出したのだ。

 なんでカマキだとわかるのかと言うと、虫かごで生活するうちにカマキは茶色になってしまったからである。

 オオカマキリというのは、環境によってその体色を変える性質がある。普通は緑の葉っぱに囲まれて生きているので鮮緑色になるのだが、カマキは枯葉に囲まれて育ってしまったため、色が変わってしまっていたのだった。

「カマキ!!」

 私は歓喜した。何しろそこに留まってくれているのだった。少なくとも今日は。

 それから毎日、ゴーヤの横から「カマキ」と声をかける日々が続いた。そしてカマキもカマキで、律儀に顔を出すのである。手を差し出せば、すぐに乗ってくる。手乗りカマキリ。

 カマキは「野生に戻ったらうまくエサが捕まえられなくて死んでしまうのでは」という心配をよそに、すくすく成長して行った。緑色に戻るかなと思ったが、茶色のままだった。小さい頃に色が決定してしまうのかもしれない。とにかくわかりやすくてよかった。

 夏、カマキはすっかり堂々としたオオカマキリになった。そして秋を迎えようとしていた。

 それは何を意味するのかと言うと、お別れである。

 カマキリは越冬しない。春に生まれ、夏を迎え、そして秋に死んでしまう。ほんの半年の生を誇り高く生きる生き物だ。それはわかっていた。だから秋が深まるにつれ、私はカマキが今日もいてくれるだろうか、まだ死んでいないだろうかと不安を抱えながら声をかけ続けた。

 そしてある日、昨日と同じように声をかけた。

「カマキ」

 いつもなら、声をかけるとどこかの葉が揺れて、ひょいと三角の顔が現れる。でもその日は、カマキは最初から、私の当時の身長より少し高い葉の上にいた。私は彼を見つけた。

「カマキ!」

 カマキはこちらを見下ろしていた。鎌をきゅっと胸元に寄せ、長い脚を踏ん張って、横からメスのカマキリに食べられていた。

 ああ。

 私はすべてを理解した。その日が来たんだな、と思った。

 カマキはまだ生きているようだった。でも逃げることもなく、鎌を振り上げてメスのカマキリさんを追い払おうとするでもない。これが自分の役目だと言うように、ただ静かにこちらを見ていた。

 いのちが繋がるんだね。

 




 翌年、うちの庭では沢山のオオカマキリの子どもたちが孵化した。いまもあの家の庭に、何世代目かのカマキの孫たちがいるかも知れない。




 




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