2 / 9
02 かたつむりさん
しおりを挟む
かたつむりさんと言えば、どのようなかたつむりを思い浮かべるだろうか。
でんでんむしむしかたつむり~♪ の童謡に添えられるイラストはたいてい、つぶ貝タイプのかたつむりさんではなく、アンモナイトタイプ(アンモナイトさんたちも絶滅寸前にはめちゃくちゃになっていたが)の丸い殻を載せたかたつむりさんだと思う。直径1.5センチから、大きくて5センチほどのやつ。6月ごろになると雨の日にワラワラとコンクリートに登ってきて、晴れの日にそのまま張り付いて休眠してるアレ。
さて、ある日のこと。
私はなんだか忘れたが庭の砂を掘っていた。たぶん鉢植えに何か植えたかったんだと思う。掘っていると、何かがころんと砂の中から転がり出て来た。巻き貝……。
5ミリほどの巻き貝。なぜ? ここは山奥で海に行こうと思ったら二時間は車を走らせなければならない。いやいや。巻き貝じゃなくてムカデの小さいのが丸まっているのかも知れない。
今に巻きが解けるんじゃないかとじっと見ていると、なんと小さな頭が貝殻から顔を出し、さらにツノが出てきた。頭も1ミリあるかないか。ツノに至っては針の先にも満たない細さ。老眼でもないのに虫眼鏡を使いたくなるような、スケール感がおかしくなる眺め。
かたつむりだ。こんなに小さい!
生まれたばかりのかたつむりかと思ったが、それにしては巻きが入りすぎている。かたつむりの貝殻の巻きというのは、年を経るごとに増えていく。生まれたばかりなら巻きは少ないはずなのに、このかたつむりは数えきれないくらいに何重にも巻いている。これで大人なんじゃないのか。
そのころ私は雑草の寄せ植えに凝っており(変態)、ちょっとお高いヨーグルトやプリンが入って売られていることでお馴染みの丸っこいガラスビンに土と雑草の種を入れて、今時の言い方で言うテラリウムを作っていた。ちょうど春にカタバミとハコベの種を撒いていたビンの中で花が咲いていたので、その中にその極小のかたつむりさんを入れてみた。飼ってみようと思ったのである。大きくなったら普通のかたつむりの子供。大きくならなかったら……。
かたつむりさんはそのガラスビンの中で、頭とツノを出して暮らし始めてくれた。
この極小のかたつむりさんは本当に可愛らしかった。なにしろ小さい。1/6フィギュアの世界のかたつむりみたいな感じなのだ。どういうわけか、小さなビンの中のハコベとカタバミも、外で生えるほどには大きく育たなかった。まるで自分の閉じ込められた空間の広さをあらかじめ把握してるみたいに、葉っぱも花も小ぶりに育った。それがまた、かたつむりさんの世界にしっくりきた。かたつむりさんはたいてい、ビンの真ん中に立てかけた細くて小さな枝の上にいた。
飼い始めて一月たち、二月たち、案の定、かたつむりさんは全く大きくならなかった。いくら越冬できて長命なかたつむりさんでも、全く大きくならないというのはやはりこれで育ちきった状態なのだ。でも図鑑をいくらめくっても、これほど小さなかたつむりさんのことは載っていない。このかたつむりさんは何なのか? 新種じゃなかろうか。
そんなある秋の日、物凄い暴風雨が吹いた。そして私はうっかりかたつむりさんの小さな家を出しっぱなしにしてしまった。翌日、この小瓶がひっくり返っているのを見て狼狽した。かたつむりさんが溺れて死んでしまったかも!!!
このかたつむりさんの家だが、フタは普通植木鉢の一番下に敷く網目状のアレを置いておくだけだったので、ひっくり返った小瓶からは砂がこぼれ、カタバミも根っこが丸出しになっていた。かたつむりさんの姿は見えない。
カタバミを退け、ハコベを取り出してみる。かたつむりさんを見つけられない。
また砂に埋まってしまったのかと砂も全部ビンから出してほぐしてみる。かたつむりさんは影も形もない。
このようにして、極小のかたつむりさんは嵐に紛れてどこかに消えてしまったのだった。
大人になってもこのかたつむりさんのことは凄く気になっていた。私以外にそんなちいさなかたつむりさんを見たことがある人に会ったことがない。Google先生に聞いてみても、「小さなカタツムリと言えば『オナジマイマイ』」。オナジマイマイさんは1センチから2センチほど。極小さんに比べればでかいのだ。また、極小さんはかなり平べったかったが、オナジマイマイさんはふっくらしている。
それでも調べていると、私が見たのと同じと思われる「5ミリくらいの黒っぽいかたつむりさん」の写真や目撃情報がちらほらあるので、おそらく新種ではないのだろう。新種だったら「カミカクシナミニミウシナウマイマイ」とか付けてやったのに。略してカミカミウシマイマイ。
ということで、カミカミウシマイマイの詳細にお心当たりがある方はぜひご一報ください。
でんでんむしむしかたつむり~♪ の童謡に添えられるイラストはたいてい、つぶ貝タイプのかたつむりさんではなく、アンモナイトタイプ(アンモナイトさんたちも絶滅寸前にはめちゃくちゃになっていたが)の丸い殻を載せたかたつむりさんだと思う。直径1.5センチから、大きくて5センチほどのやつ。6月ごろになると雨の日にワラワラとコンクリートに登ってきて、晴れの日にそのまま張り付いて休眠してるアレ。
さて、ある日のこと。
私はなんだか忘れたが庭の砂を掘っていた。たぶん鉢植えに何か植えたかったんだと思う。掘っていると、何かがころんと砂の中から転がり出て来た。巻き貝……。
5ミリほどの巻き貝。なぜ? ここは山奥で海に行こうと思ったら二時間は車を走らせなければならない。いやいや。巻き貝じゃなくてムカデの小さいのが丸まっているのかも知れない。
今に巻きが解けるんじゃないかとじっと見ていると、なんと小さな頭が貝殻から顔を出し、さらにツノが出てきた。頭も1ミリあるかないか。ツノに至っては針の先にも満たない細さ。老眼でもないのに虫眼鏡を使いたくなるような、スケール感がおかしくなる眺め。
かたつむりだ。こんなに小さい!
生まれたばかりのかたつむりかと思ったが、それにしては巻きが入りすぎている。かたつむりの貝殻の巻きというのは、年を経るごとに増えていく。生まれたばかりなら巻きは少ないはずなのに、このかたつむりは数えきれないくらいに何重にも巻いている。これで大人なんじゃないのか。
そのころ私は雑草の寄せ植えに凝っており(変態)、ちょっとお高いヨーグルトやプリンが入って売られていることでお馴染みの丸っこいガラスビンに土と雑草の種を入れて、今時の言い方で言うテラリウムを作っていた。ちょうど春にカタバミとハコベの種を撒いていたビンの中で花が咲いていたので、その中にその極小のかたつむりさんを入れてみた。飼ってみようと思ったのである。大きくなったら普通のかたつむりの子供。大きくならなかったら……。
かたつむりさんはそのガラスビンの中で、頭とツノを出して暮らし始めてくれた。
この極小のかたつむりさんは本当に可愛らしかった。なにしろ小さい。1/6フィギュアの世界のかたつむりみたいな感じなのだ。どういうわけか、小さなビンの中のハコベとカタバミも、外で生えるほどには大きく育たなかった。まるで自分の閉じ込められた空間の広さをあらかじめ把握してるみたいに、葉っぱも花も小ぶりに育った。それがまた、かたつむりさんの世界にしっくりきた。かたつむりさんはたいてい、ビンの真ん中に立てかけた細くて小さな枝の上にいた。
飼い始めて一月たち、二月たち、案の定、かたつむりさんは全く大きくならなかった。いくら越冬できて長命なかたつむりさんでも、全く大きくならないというのはやはりこれで育ちきった状態なのだ。でも図鑑をいくらめくっても、これほど小さなかたつむりさんのことは載っていない。このかたつむりさんは何なのか? 新種じゃなかろうか。
そんなある秋の日、物凄い暴風雨が吹いた。そして私はうっかりかたつむりさんの小さな家を出しっぱなしにしてしまった。翌日、この小瓶がひっくり返っているのを見て狼狽した。かたつむりさんが溺れて死んでしまったかも!!!
このかたつむりさんの家だが、フタは普通植木鉢の一番下に敷く網目状のアレを置いておくだけだったので、ひっくり返った小瓶からは砂がこぼれ、カタバミも根っこが丸出しになっていた。かたつむりさんの姿は見えない。
カタバミを退け、ハコベを取り出してみる。かたつむりさんを見つけられない。
また砂に埋まってしまったのかと砂も全部ビンから出してほぐしてみる。かたつむりさんは影も形もない。
このようにして、極小のかたつむりさんは嵐に紛れてどこかに消えてしまったのだった。
大人になってもこのかたつむりさんのことは凄く気になっていた。私以外にそんなちいさなかたつむりさんを見たことがある人に会ったことがない。Google先生に聞いてみても、「小さなカタツムリと言えば『オナジマイマイ』」。オナジマイマイさんは1センチから2センチほど。極小さんに比べればでかいのだ。また、極小さんはかなり平べったかったが、オナジマイマイさんはふっくらしている。
それでも調べていると、私が見たのと同じと思われる「5ミリくらいの黒っぽいかたつむりさん」の写真や目撃情報がちらほらあるので、おそらく新種ではないのだろう。新種だったら「カミカクシナミニミウシナウマイマイ」とか付けてやったのに。略してカミカミウシマイマイ。
ということで、カミカミウシマイマイの詳細にお心当たりがある方はぜひご一報ください。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
虚像のヘルパー
メカ
エッセイ・ノンフィクション
ある介護士のお話
この物語は、筆者である私「メカ」の経験を元に
語られる介護士の裏側の物語。
ノンフィクション(経験)であり、フィクション(登場人物は仮名)。
そんな矛盾を抱えるお話。
貴方に映るこの「介護士」は
果たして、理想的な介護士でしょうか?
それとも、単なる理想郷を求めた若者の寝言でしょうか?
徹夜明けの社畜 ヤンキー姉さんと海へ行く
マナ
青春
IT土方で今日も徹夜している社畜のボクは、
朝方栄養ドリンクを買いに会社からコンビニへ行く。
そこで出会ったいかにもヤンキーという感じの女の人に声を掛けられ、
気付いたら一緒に海へと向かっているのだった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
本当に体験した怖い話と不思議な話
呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)
エッセイ・ノンフィクション
一部を除き、私が本当に体験した怖い話と不思議な話です。
尚、特にお祓いなどは行っておりません。
また、私が話したことで、誰かになにかが起こったことはありませんが、万が一何かが起こりましても自己責任でお願い致します。
※表紙の画像はhttps://www.pixiv.net/artworks/82600009よりお借りしました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる