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20 作戦

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 次々にプレイヤーたちが初期位置に現れる。2、30人はいるだろうか。あらかじめ誘っておいたピュグマリオンがビームで攻撃を始める。人が多すぎるのか、状況を把握できなかったやつが怪我をして倒れていく。何人かは慌ただしくフィールドから出て行くようだ。思った通り、軍隊みたいに統制が取れているわけではない。基本的には烏合の衆なんだ。

 ピュグマリオンにはほとんどの攻撃が効かない。勇者が「英雄の閃光」を放つが、ヒビひとつ入らないらしい。魔法を打とうとしたのか、ギリギリまで引きつけていた魔法使いは石像の指先で首をへし折られた。

 悪いな、という思いと、敵が減ったという安心感が混在する。あの場でメテオレインは打てないし、白魔法使いの霧も役に立たない。魔法使いたちの通常攻撃で削るしかないだろうが、魔法使いになれる奴らは忍者になっているはずだから絶対数が少ない。

 見ていると湧いて来た20人強のうち、8人ほどが忍者だ。手裏剣を投げたり後ろに回り込んで太刀で切り掛かったりしているようだが、全く戦力にはなっていない。マゾ職。

「散れ!! エネミーの相手をするな!」

 誰かが叫ぶ。残ったプレイヤーたちが散り散りに逃げ出していく。ピュグマリオンは最後にロックオンしていたやつに付いてビームを打ちまくっている。

 背中には今はサタンはいない。ハイレベルの忍者を探さなければ。レベルはパーティになっていないとわからない。忍者のやつを、少なくとも「飛天」を覚えているやつだけは、なんとかしなくちゃいけない。俺にできるか、だけど。戦意喪失させて、何か別な手を考えようと思ってくれればいいんだが。

「いたぞ! あの忍者だ! この辺にいるやつはあいつを追え!」

 俺の・・号令に人が集まってくる。俺の・・指差す方へ。パーティメンバーには頭の上にマークが出るが、白い小さなマークなので、気をつけていないと見逃してしまう。お互い動きながらならなおさらだ。

「違う!! 俺は……」
「『烈火の弾丸』」

 断末魔が響く。自分が誘導したとは言え、即座に仲間たちが殺しにかかるとは思っていなかったのでぞっとする。俺の考えが甘いかも知れない。

「あっ! これリアンだ……」
「いけにえと一緒にいる忍者はトンボみたいなインフォマだ! 間違えるな!」

 そのインフォマはお前らが壊してくれたんで今いねえよ。でもよく見てるやつがいる。人のインフォマなんて気にしていなかったな。

「こっちに生贄がいるぞ! この辺の白魔法使いは霧を張れ! みんなここに集まるんだ」

 俺の声に面白いようにプレイヤーたちが集まってくる。俺はその場をそっと離れる。

「『白夜の霧』」
「あっ! ちょっと待て、エネミーがいる……」

 遠目から様子を見ると、霧の中で戦っているのがわかる。ピュグマリオンのビームが青く光っている。今、多くの忍者と白魔法使いがピュグマリオンと一緒に霧に閉じ込められているということになる。かわいそうだが、これで相当数の足止めにはなるだろう。

 まるで本当にただのゲームのようだ。

「おい! 誰だよ指示出ししてるやつは!」

 気づいたやつがいる。撹乱はこのくらいにしておこう。ハイレベルの忍者はどこにいる。遺跡の上を飛び回りながら探す。同じように軽々と飛び回っているやつが忍者のはずだ。

「いっ……」

 ふくらはぎに突然激痛が走った。思わず振り向いて足を見る。手裏剣が突き刺さっている。毒付き……。

 いる。忍者のやつが。手裏剣を引き抜いて捨てる。毒で死ぬ前になんとかしないといけない。辺りを見回す。後ろに人の気配が降る。

「うわっ」

 とっさに適当に抜いた太刀が相手の太刀とぶつかり火花が散る。

「ござるさん」
「ルイさん?」
「あんたがなんで生贄の味方をするんです?」

 ギッと刃が離れる。少し茶色がかった髪。弓師だった頃と印象は違うが、たしかにルイだ。前のフィールドで切り掛かって来たのもこいつで間違いない。

「こっち側に来ましょうよ。クリアできればこのゲームから出られるんです」
「たった一人を追い詰めてクリアなんて馬鹿な話があるかよ」
「それは製作者に言ってください。俺たちはゲームの外に出なきゃいけないんだ。命の水ももう残り少ない」
「命の水が尽きたら死ぬって決まったわけでもない!」
「死んだらあなたが責任取ってくれるんですか?」
「サタンが死んだら誰が責任を取るんだよ? いやあ良かった良かったって終わる気かよ」

 ルイが太刀を切り上げる。鍔の近くで受ける。毒の付いたふくらはぎが震えるのがわかる。

「『影下跳梁』」

 いきなり力を込めて受けていた太刀がなくなってぐらりと前のめりに倒れそうになる。まずい!

「ぐっ」

 背中を刃が冷たく走って行く。自分の血飛沫が目の端に映る。

「……弓師だった時から思ってたんですよね。あなた、どんくさい人でしょ。対人センスないね」

 次の瞬間、ぱっくり傷口の開いた背中を蹴り飛ばされた。何もできない。ただ無様に地面に落ちる。

「ゔっ」
「対人てね、頭じゃないんですよね。ああしてこうしてって考えるタイプでしょ? それじゃ遅いんですよ」

 胸を上から太刀が貫いた。

「は……が……ッ」
「さて。いけにえを探さないとな」

 ルイがずるりと太刀を引き抜き、ひらっと飛び上がって去っていく。傷口が燃えるように熱いのに、寒さで体が震えている。これは……だめかも知れないな。

「ござる!」

 土の中に穴を掘って隠れていたサタンの声が聞こえる。だめだ。来るな。

「……さ……ごめ……」
「いやだ!! ござる!!」

 大声出すな。逃げろ……。

 目の前が暗くなる。サタンを守れない。サタンが俺の体を抱き寄せた。あらら。役得……。そうなんだよ。俺は対人が……。

 やってみてよくわかったんだ。PKして単純に楽しくなかったってのは確かにあったけど、一番の理由は、俺に対人のセンスがなかったことだった。

 理詰め。相手の思考を考えて・・・しまう。反射で行動することが、どうしてもできない……。とっさに選ぶ攻撃がいつもベストじゃない。削りきれなくて、その隙に逃げられたり、返り討ちに遭ったり。チャンスを活かすことができない。

 それはゲーム全般に言える。レベルが低くても、技術でカバーするやつはいくらでもいる。俺はそれができない。レベルで武装して、装備を揃えて、勝てて当たり前にならないと勝てない。センス……そうなんだ。センスがないんだよな。

 俺は弱い。

「に、げ……ろ」
「いやだ……」

 俺がもう少し強かったらなぁー……。

 風が頬を打っていく。気持ちいい風だ。痛みがなくなる。ああ。死ぬんだな。ごめんな、サタン……。

「………」 

 あれ。痛みは無くなったが死んだ気がしない。試しに目を開けてみる。サタンの黒髪と、全くない胸がほおに押しつけられている感触……。

[どうも]

 どっかで聞いたちょっと無機質な感じの声。

 意識がはっきりしてきた。目の端にニドがいる。

「おっ!」

 レベルアップか!

 
 

 

 


 

 
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