全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第三章 

誤解しちゃうよ?

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 翌日はいたって平和だった。
 廊下を歩いているとヒソヒソ話されるのは日常になったけど、クラスのみんなは変わりなく、むしろ『大変だね……』と同情的なのが助かる。
 もちろん、菜摘ちゃんもさやちゃんも変わらずどころか、一緒になって憤慨したり、たまに暴言を吐いてくる人を撃退してくれたりと本当に心を救われている。

「この話題に飽きるのを待つしかないね……」

 菜摘ちゃんが悔しそうに言ってくれるから、「ごめんね」と言うと、「優が悪いんじゃないでしょ!」と頬を引っ張られた。
 そのままむにっと上に口角を上げられて、「優は笑ってなさいよ」と無理やり笑顔を作らされる。

「変顔~!」

 さやちゃんが笑うから、私もおかしくなって、笑いながら二人に抱きついた。

「ありがと!」




 放課後、部室に行く。
 今日もホームルームが長引いて、ちょっと遅めだ。
 トントンとノックして名乗ると、遥斗先輩がドアを開けてくれる。
 私が中に入るとすぐ、じっと見つめて「今日はなにもなかったか?」と聞いてくれる。
 それがうれしくて笑顔になる。

「はい! 全然なにもなかったです」
「そうか、よかった」
 
 溜め息をついて、先輩は絵に戻っていった。

「ここには相変わらず?」
「まぁ、来ることは来るが少し減ったかな?」
「そうですか……」

 なんとなく先輩のあとをついていって、描きかけの絵を見る。
 先輩は川辺でスケッチした絵を元に風景画を描いている。あの私が描かれていたスケッチだ。
 油絵の中にも私がいる。
 まだ茶色い線で、もにょもにょっとした塊だけど。

 あのときは楽しかったなぁ。
 遥斗先輩もすごくリラックスしてて、柔らかい表情がいっぱい見られた。
 また行きたいなぁ。

 そう思うけど、好きと自覚すると、そんなに気軽には誘えなくなってしまった。

 参考にしたいと言うから、私の撮った写真も提供している。
 役に立っているようで、なんかうれしい。

 水彩画のときも思ったけど、先輩の手は魔法みたいで、筆を動かすたびに、水面のキラメキが追加されていって、綺麗で不思議。
 特別な色を使っているわけじゃないのにね。


 穏やかな時間を過ごして、私が帰ろうとすると、また送ってくれると言う。

「大丈夫ですよ。今日は誰も来なかったし、落ち着いてきたのかも」
「散歩がてらに行くだけだ」

 日頃、散歩なんてしないくせに、そんな風に言ってくれるから、お言葉に甘えてしまう。
 一緒に帰れるのはうれしいから。

「日が長くなってきましたねー」

 18時過ぎなのにまだ明るい。
 のんびりと歩きながら、家へと向かう。

「そうだな」

 6月に入って、だんだん湿度が高くなってきたけど、今日はわりとさらっとした天気だった。

「あ、紫陽花が咲いてる! そっか、そんな季節か」
「季節の花の絵も描いた方がいいか?」
「そういえば、そうですね! 本当は季節先取りがいいのかもしれないけど」

 手作りサイトで売りに出している絵のことだ。
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