全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第三章 

おせっかいはもういい③

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 まったく読めない遥斗先輩の整った顔を見上げる。

「俺は……」

 意を決したように先輩が話し出した。

「お前のおかげで、朝昼食べられるようになって、食べ物の味がわかるようになった。出品料も気にしなくて済むようになったし、バイトも順調で、絵も売れるようになって、まともな生活ができるようになった。俺はもう不幸じゃない。お前には感謝しているんだ」

 改めて言われると面映ゆい。
 そっか、よかったなぁ。順調なんだ。

「そんな……。私はただおせっかいなだけで……」

 私が照れて笑うと、反対に遥斗先輩が顔を歪めた。

「俺はもう不幸じゃない」

 遥斗先輩が繰り返した。
 まっすぐに見つめてくる。

「だから、お前のおせっかいはもういらない。必要ないんだ、優」

 目の前が真っ暗になった。
 
 もういらない? 必要ない?

 明確な拒否。こないだ以上に直接的で明快な拒絶の言葉。

 それが言いたかったの? わざわざ教室まで来て?

「そう、ですか……」

 ふらっと揺れて、そばの机に手をつくと、うなだれた。

「違うんだ、優! 最後まで聞いてくれ!」

 その腕を掴まれた。
 熱い手の感触に、思わず顔を上げると、すぐ近くに綺麗な顔が迫っていた。

「せ、ん……ぱ、い……?」

 熱く狂わしい瞳で見つめられて、目が離せない。

「同情もおせっかいもいらない。そうじゃなくて、それを取っ払った上で、そばにいてほしいんだ」
「え?」
「俺のそばにいてくれ、優!」

 ねだるような乞い願うような必死な目をして先輩が言った。

 そばに? おせっかいじゃなく?

「お前がいない日々には耐えられない」

 先輩が深い溜め息をつく。

「ひとりでよかったはずなのに、お前を知ってしまったら、お前がいないとすべてが色褪せて見えて、絵さえも描けない」

 遥斗先輩の情熱的な言葉が続いた。
 こんなにいっぱいしゃべっている先輩は初めてかも。
 どうでもいいことが頭をよぎる。

 だって、私に言われている言葉だなんて信じられない。
 これ以上聞いていると、勘違いをしてしまう。
 まるで、遥斗先輩が私を……。

「好きだ、優」

 ストレートな言葉が耳を打つ。

「好きなんだ。あいつの方が優を幸せにできるとわかっていても、渡したくないんだ」

 続いた言葉に、ぐっと拳を握りしめる。

「遥斗先輩! なんで勝手に決めつけるんですか! なんで森さんの方が私を幸せにできるってわかるんですか! 私は先輩じゃないと意味ないのに。遥斗先輩じゃないと嫌なのに!」

 そう叫ぶと、先輩は目をこれ以上ないほど見開いた。
 驚愕する先輩を見上げて、私は続けた。

「私も好きです。遥斗先輩のことが好きです!」

 ようやく言えた。言いたくて言いたくて仕方なかった言葉を。
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