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第三章
ごめん②
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しばらくして落ち着いてくると、今度は恥ずかしくて顔が上げられない。
だって、だって、私たち、抱き合ってる……!
チラッと見上げると、先輩も困っているようで、ほんのり顔が赤くなっていた。
恥ずかしい……でも、うれしい。でも、どうしよう……。
そう思っていたとき、「クゥウゥゥ……」と二人のお腹が鳴った。
「プッ……」
「ふふっ……」
思わず二人で笑ってしまった。
初めて会ったときみたい。
ひとしきり笑って、先輩が身体を離した。
その寸前、耳許を温かいものが掠めた……気がした。
「遥斗先輩、朝ごはんを食べましょうよ」
持ってきた袋からお弁当を取り出す。
「お前、また作ってきたのか。いらないって言ったのに」
「だって、趣味になっちゃったんだもん。責任取って、食べてくださいよー。それに、ちゃんと食べてましたか?」
私がじとっと見ると、先輩はムキになって言い返した。
「食べてた! ただあまり食欲がなかっただけだ」
食欲がなかったねー。お腹鳴ったのに?
疑わしげに見やると、先輩はそっぽを向いた。
そんなやり取りをしながら、机にお弁当を広げていく。
「先輩、食べましょう?」
もう一度誘うと、観念したようで先輩は向かいに座ってくれた。
うっかりまた涙が出そうになる。
そんな私を見て、先輩が怯んだ顔になる。
「もう泣くな!」
「だって……先輩が食べてくれるなら泣きません」
「わかったから、泣くな。どうしていいか、わからなくなる」
本当に困った顔になって、顔をしかめるから、私はおかしくなって笑った。
「泣いたり笑ったり、忙しいやつだな……」
先輩も笑った。
優しく綺麗な綺麗な笑みで、つい見惚れてしまう。
好きだなぁ。
そんな気持ちが溢れてしまいそうで、「いただきます」と手を合わせて、ごまかした。
先輩も手を合わせて、卵焼きに手を伸ばした。
一口食べて、首を傾げるから、なにか味が変だったかと不安になる。
私の顔を見て、先輩が慌てて言った。
「お前の卵焼きはなんでうまいんだろうと思ってた」
「それは、ありがとうございます……」
大真面目に言われると恥ずかしい。
「自分でも作ってみたが、味が違うんだ」
不思議そうに言う先輩。
なるほど、そういうわけね。
「卵焼きに出汁をちょっとと砂糖、醤油を垂らしているんです」
「なるほど、出汁か」
納得したようで、パクッと残りを口に入れた。
本当においしそうに食べてくれる。
なんだか幸せだなぁ。勇気を出して来てよかった。
さっきまでの緊張が嘘のよう。
先輩とこうしてまた和やかにご飯を食べられるなんて……。
また涙が滲んできそうになって、慌てて話題を変える。
「そういえば、売れた絵は発送したんですか?」
「あぁ、宅急便屋に持っていったら、厚紙で作った封筒みたいなのがあって、それに入れて送った。そこの人のアドバイスで、100均で透明な袋を買って、ちゃんと入れたんだ。あともう一枚売れたから、それも送った」
だって、だって、私たち、抱き合ってる……!
チラッと見上げると、先輩も困っているようで、ほんのり顔が赤くなっていた。
恥ずかしい……でも、うれしい。でも、どうしよう……。
そう思っていたとき、「クゥウゥゥ……」と二人のお腹が鳴った。
「プッ……」
「ふふっ……」
思わず二人で笑ってしまった。
初めて会ったときみたい。
ひとしきり笑って、先輩が身体を離した。
その寸前、耳許を温かいものが掠めた……気がした。
「遥斗先輩、朝ごはんを食べましょうよ」
持ってきた袋からお弁当を取り出す。
「お前、また作ってきたのか。いらないって言ったのに」
「だって、趣味になっちゃったんだもん。責任取って、食べてくださいよー。それに、ちゃんと食べてましたか?」
私がじとっと見ると、先輩はムキになって言い返した。
「食べてた! ただあまり食欲がなかっただけだ」
食欲がなかったねー。お腹鳴ったのに?
疑わしげに見やると、先輩はそっぽを向いた。
そんなやり取りをしながら、机にお弁当を広げていく。
「先輩、食べましょう?」
もう一度誘うと、観念したようで先輩は向かいに座ってくれた。
うっかりまた涙が出そうになる。
そんな私を見て、先輩が怯んだ顔になる。
「もう泣くな!」
「だって……先輩が食べてくれるなら泣きません」
「わかったから、泣くな。どうしていいか、わからなくなる」
本当に困った顔になって、顔をしかめるから、私はおかしくなって笑った。
「泣いたり笑ったり、忙しいやつだな……」
先輩も笑った。
優しく綺麗な綺麗な笑みで、つい見惚れてしまう。
好きだなぁ。
そんな気持ちが溢れてしまいそうで、「いただきます」と手を合わせて、ごまかした。
先輩も手を合わせて、卵焼きに手を伸ばした。
一口食べて、首を傾げるから、なにか味が変だったかと不安になる。
私の顔を見て、先輩が慌てて言った。
「お前の卵焼きはなんでうまいんだろうと思ってた」
「それは、ありがとうございます……」
大真面目に言われると恥ずかしい。
「自分でも作ってみたが、味が違うんだ」
不思議そうに言う先輩。
なるほど、そういうわけね。
「卵焼きに出汁をちょっとと砂糖、醤油を垂らしているんです」
「なるほど、出汁か」
納得したようで、パクッと残りを口に入れた。
本当においしそうに食べてくれる。
なんだか幸せだなぁ。勇気を出して来てよかった。
さっきまでの緊張が嘘のよう。
先輩とこうしてまた和やかにご飯を食べられるなんて……。
また涙が滲んできそうになって、慌てて話題を変える。
「そういえば、売れた絵は発送したんですか?」
「あぁ、宅急便屋に持っていったら、厚紙で作った封筒みたいなのがあって、それに入れて送った。そこの人のアドバイスで、100均で透明な袋を買って、ちゃんと入れたんだ。あともう一枚売れたから、それも送った」
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