全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第二章 ― 遥斗 ―

希望⑥

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 残った野球部員は優の知り合いらしく、頭をなでて、慰めている。
 俺はその様子を拳を握りしめたまま、見つめていた。
 ふとそいつがこっちを見た。
 一瞬見つめ合う。

 優は気づいていない。

 俺は軽く頭を下げて、ドアを閉じた。



 まさか噂になっているのか?
 優が俺のところに通っていると?
 
 事実としてはその通りだが、さっきのやつらが言っていたように思われているとしたらたまらない。

 ダンッ

 拳を机に叩きつけた。

 そんなわけないのに!
 誰よりも健全で純真な優を汚された気がした。
 そして、汚したのは……俺だ。
 俺なんかに関わらなければ……。

 くそっ、もう優をここに来させないようにしなくては!

 どうしたら、優は納得するだろう?
 それとも、俺がここを出ればいいのか? いや、そうしても、俺がここにいないことを知らしめないと意味がない。
 
 ギリギリと歯軋りをして、考え込む。

 優……すまない。

 頭が沸騰して、なにも考えが浮かばなかった。


 トントン

 ノックの音がして、真奈美が顔を出した。
 俺の顔を見て、息を呑む。

「怖い顔をして、どうしたの?」
「……優は噂になっているのか? ここに来てると」

 質問に答えずに聞くと、真奈美は首を傾げて、「1年が通ってるらしいってぐらいにはね」とあっさり言う。

「でも、それくらいのこと、優ちゃんは承知の上よ、きっと」

 ダンッ

「そんなこと、承知するなよっ!」

 俺はまた机を叩いて叫んだ。

 なんだよ、それ! 一方的に優が不利じゃないか! そんな噂になってまで俺に関わるなよ! 健全の塊のくせに!

 苛ついてしょうがない。

「怖いわねー。お弁当でも食べて落ち着きなさいよ」

 そう言われて、もう一つの用事を思い出した。

「真奈美、弁当はもういらない。今までありがとう」

 突如言い出した俺の言葉に、真奈美は唖然とした。

「え、なに、他にあてができたの?」
「違う。もうこういうのはやめにしようと思ったんだ」
「……大丈夫なの?」
「あぁ、なんとかなるさ」

 真奈美は俺をじっと見つめた。

「もう私を抱きたくないなら、無理にしなくてもいいのよ? こうなったのもきっかけは私だったし、それなりに責任を感じているの。だから……」

 そう言う真奈美の言葉を遮って、微笑んでみせる。

「ありがとう。でも、お前が責任を感じる必要はない。選んだのは俺だ。助かっていたのも事実だし」
「遥斗……」

 真奈美の唇が震えた。
 その唇を開いたけど、言葉にならず、また閉じた。
 しばらく俺を見つめていた真奈美は、ふぅっと溜め息をつく。

「わかったわ。私も助かってた。ひとりじゃないと思えて。ありがとう」
「……真奈美は戦友みたいだった」

 不思議な関係だった。好きでもないし嫌いでもない。でも、真奈美の言うように、ひとりじゃないと思える日もあった。

「なにそれ」

 ふふっと真奈美が笑った。

「それじゃあ、私、行くね。バイバイ」

 手を振ると、真奈美は部屋を出ていった。



 それから俺は絵を描いた。
 優に約束した絵を。

 朝焼け。希望の光。優の笑顔。焦がれる想い。手を伸ばしても掴めない明るい光、幸せの象徴……。

 気がつくと夜が明けていた。

 イーゼルに置かれた絵と同じ朝焼けが窓から見えていた。




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