全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第二章 ― 遥斗 ―

まだ子どもだった②

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 そうか、俺はまだ子どもか……。

「ついでに、服いらないか? 知り合いの子が一人暮らしを始めるからともらったんだ」

 先生は紙袋いっぱいの服を見せてくれた。
 正直、服にまで金が回らなかった。ラフな格好ができるのは非常に助かる。

「着られるかどうか、一枚試してくれないか?」

 先生がそう言うので、袋の中からTシャツを取り出して着てみる。
 ちょっと大きいが、許容範囲だ。
 半袖もあり、これから暑くなるからこれはいい。
 
「ありがとうございます。助かります」

 思わず頬が緩む。対照的に郁人先生の顔が歪んでいた。泣きそうな顔をしている。大人の先生がそんな顔をすることに衝撃を受ける。

「なにか……?」
「いや、悪い。自分の不甲斐なさに自己嫌悪していただけだ」
「先生がそんな風に思う必要はありませんよ」

 親はあんなだけど、俺は恵まれていると思った。

 調理室の使用許可を家庭科の先生に取ってくれると郁人先生は確約してくれて、俺は服の入った紙袋を持って、部屋に帰った。

 優に話したい。
 きっと一緒になって喜んでくれるだろう。
 それにこうして状況が変わるなら、優に心配をかけなくて済む。

 それなのに、夕方、優は来なかった。
 なにか用事があるということで、友達二人が弁当箱を取りに来た。
 その子たちに聞くと具合が悪いわけではないらしく、ほっとするが、今朝も様子がおかしかったから気になった。





 翌日、優はいたって普通の様子でやってきた。つまり、元気いっぱいだ。相変わらず、表情が豊かだった。

「今日はいつも通りのテンションなんだな」

 そう言うと、ニコニコ笑ってテンション高く言った。

「今日は手づくりサイトに登録しましょうね! 和田先生に許可を取ったんで」

 郁人先生に? いつの間に……。

「また、お前は突っ走るな……」
「え、だって、登録するならタダだし。嫌ですか?」
「嫌ではないが、お前が来てからの変化についていけないっていうか……」

 はぁとため息をついて、髪をかきあげた。
 なんだか優には敵わない。

「でも、お前はいつも希望をくれるな」

 ボソッとつぶやいた。
 聞き取れなかったようで、優が聞き返したが、繰り返すなどできない。俺はなんでもないと首を振った。
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