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第二章 ― 遥斗 ―
もうやめた③
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17時半になる前に彼女はやってきた。
「これ……」とカップ麺のたくさん入った紙袋を差し出す。
「あぁ、ありがとう」
それを受け取って隅に置くと、彼女を壁際のマットのところに誘導した。
彼女はぎこちなく制服を脱いでいった。
下着姿になった彼女の手を引き、座らせる。
そっと押し倒すと、ギュッと目をつぶって、身体を固くした。
その胸に手を伸ばそうとするが、どうしても手が動かない。
ダメだ………できない。
彼女の腕を引っ張って起こした。
キョトンとしている彼女に俺は頭を下げた。
「ごめん、やっぱりできない。俺が言うのもなんだが、こういうのは好きなやつとやってくれ」
ハッとした彼女の瞳がみるみる潤んでくる。
「……私に魅力がないから?」
「いや、そうじゃない。俺の方の問題だ。本当にすまない」
もう一度、頭を下げて謝る。
「……いいんです。私もいざとなったら、ちょっとどうしようと思ってて。やっぱりそうですよね。こんなのおかしいですよね……」
彼女は涙を流していたが、しばらくするとなにか吹っ切れたように微笑んだ。
そして、いきなり立ち上がり、さっさと制服を着ると立ち去ろうとした。
慌てて「これ返す」と紙袋を差し出すと、「あげます。迷惑料に」と笑った。
「迷惑をかけたのは俺だ」と言うのに、彼女は構わず去っていった。
心が軽くなった。
もう、できない。こんなこと。
これからのことは見込みは立っていない。優が言うようには絵は売れないだろう。
でも、止めると決めた。すると、全身が開放感で軽くなった。
こんなに嫌だったんだな、俺。
真奈美にも謝ろう。もう弁当はいらない。
昨日、調理室のことを郁人先生に相談するのを忘れていたけど、明日こそお願いしよう。
こないだ調べたコンクール情報を活用すれば出費も抑えられるだろう。
完成間際の絵が目に入る。
優……やっぱりお前は希望の光だ。
俺に道を教えてくれる。
その日は久しぶりに安眠できた。
翌朝、眠そうな優がやってきた。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
俺と反対で眠れなかったようだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
そう言うと優はムッとして、言い返そうと口を開いたけど、ため息をついてやめた。
こんなに元気がない優は見たことがない。
「お前、大丈夫か……?」
心配になって、そばに行き、彼女の額に手を当てた。熱はなさそうだ。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
昨日思いがけずもらってしまったカップ麺の山を指差す。
「だ、大丈夫です! お弁当はちゃんと作ります! あと、1ヵ月じゃ、先輩にモデルしてもらう時間が足りなかったから、延長しますから!」
言うだけ言って、優は弁当箱を押しつて、部屋を飛び出した。
「あ、おいっ」
延長するってなんだよ。
もうそんなことしなくていいって言ったのに。
相変わらず、優に気を遣われている俺は不甲斐ない。
「これ……」とカップ麺のたくさん入った紙袋を差し出す。
「あぁ、ありがとう」
それを受け取って隅に置くと、彼女を壁際のマットのところに誘導した。
彼女はぎこちなく制服を脱いでいった。
下着姿になった彼女の手を引き、座らせる。
そっと押し倒すと、ギュッと目をつぶって、身体を固くした。
その胸に手を伸ばそうとするが、どうしても手が動かない。
ダメだ………できない。
彼女の腕を引っ張って起こした。
キョトンとしている彼女に俺は頭を下げた。
「ごめん、やっぱりできない。俺が言うのもなんだが、こういうのは好きなやつとやってくれ」
ハッとした彼女の瞳がみるみる潤んでくる。
「……私に魅力がないから?」
「いや、そうじゃない。俺の方の問題だ。本当にすまない」
もう一度、頭を下げて謝る。
「……いいんです。私もいざとなったら、ちょっとどうしようと思ってて。やっぱりそうですよね。こんなのおかしいですよね……」
彼女は涙を流していたが、しばらくするとなにか吹っ切れたように微笑んだ。
そして、いきなり立ち上がり、さっさと制服を着ると立ち去ろうとした。
慌てて「これ返す」と紙袋を差し出すと、「あげます。迷惑料に」と笑った。
「迷惑をかけたのは俺だ」と言うのに、彼女は構わず去っていった。
心が軽くなった。
もう、できない。こんなこと。
これからのことは見込みは立っていない。優が言うようには絵は売れないだろう。
でも、止めると決めた。すると、全身が開放感で軽くなった。
こんなに嫌だったんだな、俺。
真奈美にも謝ろう。もう弁当はいらない。
昨日、調理室のことを郁人先生に相談するのを忘れていたけど、明日こそお願いしよう。
こないだ調べたコンクール情報を活用すれば出費も抑えられるだろう。
完成間際の絵が目に入る。
優……やっぱりお前は希望の光だ。
俺に道を教えてくれる。
その日は久しぶりに安眠できた。
翌朝、眠そうな優がやってきた。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
俺と反対で眠れなかったようだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
そう言うと優はムッとして、言い返そうと口を開いたけど、ため息をついてやめた。
こんなに元気がない優は見たことがない。
「お前、大丈夫か……?」
心配になって、そばに行き、彼女の額に手を当てた。熱はなさそうだ。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
昨日思いがけずもらってしまったカップ麺の山を指差す。
「だ、大丈夫です! お弁当はちゃんと作ります! あと、1ヵ月じゃ、先輩にモデルしてもらう時間が足りなかったから、延長しますから!」
言うだけ言って、優は弁当箱を押しつて、部屋を飛び出した。
「あ、おいっ」
延長するってなんだよ。
もうそんなことしなくていいって言ったのに。
相変わらず、優に気を遣われている俺は不甲斐ない。
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