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第二章 ― 遥斗 ―
新しい世界②
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「じゃあ、このお弁当は夜にでも食べてください」
続けられた優の言葉に、眉をひそめた。
こんなに優に負担をかけるわけにはいかない。
「バイトも決まったし、来週はこんなことしなくていいからな」
きっぱりと言う。
優は素直に頷いた……と思ったら、にやっと笑った。
「わかりました。でも、私のおせっかいは続きますよ?」
それに対して、なんと言ったらいいんだろう……?
喜んでいる自分がいる。
そんなのダメだと思う自分もいる。
とりあえず、思考停止して、肩をすくめた。
食後に、優は持ってきた画材を広げた。
水彩絵の具、油絵の具、パステルまである。
パステルは使ったことないな。
興味津々で見ていると、「先輩に水彩であの花を描いてもらいたいんです」と言われる。
「別にいいが、なんでだ?」
「ふふっ、絵で稼ごうかと思って」
「稼ぐ?」
なにを企んでいるんだ?
優の発想は想像もつかない。絵を売るつもりか?
「具体的になったら説明しますよ。とにかく描いてください!」
優に急かされて、パレットを手に取る。
水彩は久しぶりだから描いてみたい気はある。しかも、花を題材に選んだことはない。
水彩画はある程度思い切りが必要だ。
油絵と違ってやり直しがきかないし、ためらっていたら滲んだり線が歪んだりする。
サラサラと筆を動かして、赤い薔薇を描く。
「えっ……」
優の声に振り返った。
「なんだ?」
大興奮で目を輝かせている。
「なんだじゃないですよ! むちゃくちゃうまいじゃないですか! すっごく素敵! これ絶対売れる!」
そう言われると面映いが「そんな簡単なもんじゃないだろう」と冷静に告げた。
久々描いた水彩画は楽しかった。俺は次々と花を変えて描き続けた。
一輪だけではないものも描きたくなって、花束のまま、花瓶を持ってきて、またそれを描いた。
「水彩画を久しぶりに描いたが、油絵と違って、一瞬で描けて、これはこれでいいな」
「そうなんです。すぐ描けるから、売るのにいいかと思って。あ、ちゃんとサインを入れてくださいね」
そんなことを優が言うから、聞き返した。
「これを売るつもりなのか?」
「はい。売れるものならなんでも売っちゃおうかと思って」
にこにこと言うが、これが売れるようなクオリティーなのだろうか?
時間をかければいいというものではないが、油絵にかける時間に対して、一瞬で描ける水彩画はなんだかずるいような気がした。
俺が絵を描いている間に、優は俺の描いた絵の写真を撮っていった。そして、一番最初の薔薇の絵を持ってきて、乾いたかどうか見ているようだった。
「先輩、これもらっていっていいですか?」
「お前の持ってきた画材だ。好きにすればいい」
「ありがとうございます! そしたら、私、帰りますね。バイト頑張ってくださいね」
「あぁ」
俺の絵を大事そうに持って、優は帰っていった。
続けられた優の言葉に、眉をひそめた。
こんなに優に負担をかけるわけにはいかない。
「バイトも決まったし、来週はこんなことしなくていいからな」
きっぱりと言う。
優は素直に頷いた……と思ったら、にやっと笑った。
「わかりました。でも、私のおせっかいは続きますよ?」
それに対して、なんと言ったらいいんだろう……?
喜んでいる自分がいる。
そんなのダメだと思う自分もいる。
とりあえず、思考停止して、肩をすくめた。
食後に、優は持ってきた画材を広げた。
水彩絵の具、油絵の具、パステルまである。
パステルは使ったことないな。
興味津々で見ていると、「先輩に水彩であの花を描いてもらいたいんです」と言われる。
「別にいいが、なんでだ?」
「ふふっ、絵で稼ごうかと思って」
「稼ぐ?」
なにを企んでいるんだ?
優の発想は想像もつかない。絵を売るつもりか?
「具体的になったら説明しますよ。とにかく描いてください!」
優に急かされて、パレットを手に取る。
水彩は久しぶりだから描いてみたい気はある。しかも、花を題材に選んだことはない。
水彩画はある程度思い切りが必要だ。
油絵と違ってやり直しがきかないし、ためらっていたら滲んだり線が歪んだりする。
サラサラと筆を動かして、赤い薔薇を描く。
「えっ……」
優の声に振り返った。
「なんだ?」
大興奮で目を輝かせている。
「なんだじゃないですよ! むちゃくちゃうまいじゃないですか! すっごく素敵! これ絶対売れる!」
そう言われると面映いが「そんな簡単なもんじゃないだろう」と冷静に告げた。
久々描いた水彩画は楽しかった。俺は次々と花を変えて描き続けた。
一輪だけではないものも描きたくなって、花束のまま、花瓶を持ってきて、またそれを描いた。
「水彩画を久しぶりに描いたが、油絵と違って、一瞬で描けて、これはこれでいいな」
「そうなんです。すぐ描けるから、売るのにいいかと思って。あ、ちゃんとサインを入れてくださいね」
そんなことを優が言うから、聞き返した。
「これを売るつもりなのか?」
「はい。売れるものならなんでも売っちゃおうかと思って」
にこにこと言うが、これが売れるようなクオリティーなのだろうか?
時間をかければいいというものではないが、油絵にかける時間に対して、一瞬で描ける水彩画はなんだかずるいような気がした。
俺が絵を描いている間に、優は俺の描いた絵の写真を撮っていった。そして、一番最初の薔薇の絵を持ってきて、乾いたかどうか見ているようだった。
「先輩、これもらっていっていいですか?」
「お前の持ってきた画材だ。好きにすればいい」
「ありがとうございます! そしたら、私、帰りますね。バイト頑張ってくださいね」
「あぁ」
俺の絵を大事そうに持って、優は帰っていった。
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