97 / 171
第二章 ― 遥斗 ―
おせっかいな優①
しおりを挟む
「おはようございます!」
あんなに怒って走り去ったくせに、翌朝、優はいつも通りニコニコとやってきた。
「……おはよう」
俺は戸惑い、ぼそっと挨拶する。
チラリと優を観察するけど、なんのわだかまりもないようだ。
「今日のお弁当は和がテーマです。ハンバーグも和風なんですよ! ひじきも入っているから、しっかり鉄分摂ってくださいね」
「ありがとう」
「いいえー、私もおかげで女子力上がりまくりですから」
「……女子力」
優の言葉選びに、知らず口角がくっと上がった。
「あっ、笑った! 今、笑ったでしょ? 失礼だなー」
優が口を尖らせる。それがさらにツボに入ってしまって、くくっという笑いから堪えきれず、ハハハッと声をあげて笑ってしまった。
昨日からなぜか笑いの沸点が低くなっている。
優は目を丸くして、俺を見ていた。
「……女子力って、お前と対極な言葉だな」
「どーせ、色気ないですよ!」
そう言う俺に頬を膨らませて、優が言った。
「そうだな、まったくない」
それがいい。
くすくす笑いながら、そう思う。
色気はないけど、とてもかわいい……。
「もー! じゃあ、私は行きますね。また夕方!」
膨れたまま、優は自分の教室に向かった。
弁当の朝食を済ましてから、スケッチブックを開く。
次になにを描こうか題材が決まらない。
窓を開けて、外を見る。
ここから見える景色も屋上から見る景色も部屋の中もすべて描いてしまった。
俺の世界はとても狭い。
優のようにどこかに出かけて行って、スケッチしてくるのもありなんだが、出かける度にトラブルに巻き込まれがちな俺は、どうしても躊躇してしまう。
溜め息をついて、静物画でも描こうかと思う。
昼に残しておいた弁当箱の中からイチゴをを取り出す。
みずみずしくうまそうに光っている。
よし、誰もが手に取って食べたくなるようなイチゴを描こう。
目的ができると、集中して、鉛筆を走らせた。
「遥斗先輩、見て見て! 桜が満開で綺麗だったんですよー。この山の緑も鮮やかでいい色でしょ?」
放課後、優はここに来ると、パソコンを操作して、どんどん写真を印刷していた。
華やかなピンクや鮮やかな緑が踊る写真に目を惹かれて、描く手を止める。
「あぁ、そうだな」
優の差し出す写真を手に取って眺めると、陽の光をそのまま取り込んだようなまぶしい情景が写っていた。
「光が明るいな」
「わかります? 一眼レフだからなんですよ。普通のカメラではこうはなりません」
「へぇー」
あんなに怒って走り去ったくせに、翌朝、優はいつも通りニコニコとやってきた。
「……おはよう」
俺は戸惑い、ぼそっと挨拶する。
チラリと優を観察するけど、なんのわだかまりもないようだ。
「今日のお弁当は和がテーマです。ハンバーグも和風なんですよ! ひじきも入っているから、しっかり鉄分摂ってくださいね」
「ありがとう」
「いいえー、私もおかげで女子力上がりまくりですから」
「……女子力」
優の言葉選びに、知らず口角がくっと上がった。
「あっ、笑った! 今、笑ったでしょ? 失礼だなー」
優が口を尖らせる。それがさらにツボに入ってしまって、くくっという笑いから堪えきれず、ハハハッと声をあげて笑ってしまった。
昨日からなぜか笑いの沸点が低くなっている。
優は目を丸くして、俺を見ていた。
「……女子力って、お前と対極な言葉だな」
「どーせ、色気ないですよ!」
そう言う俺に頬を膨らませて、優が言った。
「そうだな、まったくない」
それがいい。
くすくす笑いながら、そう思う。
色気はないけど、とてもかわいい……。
「もー! じゃあ、私は行きますね。また夕方!」
膨れたまま、優は自分の教室に向かった。
弁当の朝食を済ましてから、スケッチブックを開く。
次になにを描こうか題材が決まらない。
窓を開けて、外を見る。
ここから見える景色も屋上から見る景色も部屋の中もすべて描いてしまった。
俺の世界はとても狭い。
優のようにどこかに出かけて行って、スケッチしてくるのもありなんだが、出かける度にトラブルに巻き込まれがちな俺は、どうしても躊躇してしまう。
溜め息をついて、静物画でも描こうかと思う。
昼に残しておいた弁当箱の中からイチゴをを取り出す。
みずみずしくうまそうに光っている。
よし、誰もが手に取って食べたくなるようなイチゴを描こう。
目的ができると、集中して、鉛筆を走らせた。
「遥斗先輩、見て見て! 桜が満開で綺麗だったんですよー。この山の緑も鮮やかでいい色でしょ?」
放課後、優はここに来ると、パソコンを操作して、どんどん写真を印刷していた。
華やかなピンクや鮮やかな緑が踊る写真に目を惹かれて、描く手を止める。
「あぁ、そうだな」
優の差し出す写真を手に取って眺めると、陽の光をそのまま取り込んだようなまぶしい情景が写っていた。
「光が明るいな」
「わかります? 一眼レフだからなんですよ。普通のカメラではこうはなりません」
「へぇー」
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる