全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第二章 ― 遥斗 ―

災難①

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 初日、バイト先に行き、給仕していると、耳障りな甲高い声が聞こえた。

「どきなさいよ! そこは私の席よ!」
「なに言ってるんですか。予約席じゃないですよね?」

 そちらを見やると、俺がバイトに入っているといつも朝から晩まで粘り続ける女がいた。
 一応、定期的に注文をするから、店としても追い出すわけにはいかないけど、あきらかに様子がおかしく帰りにつけられていないか、後ろを確認して帰るほどだった。

 今日はいつもの席にすでに他の女性客が座っていて、強引にそこに座ろうとしているようだ。

「お客様、こちらの席へどうぞ」

 店長が別の席に誘導しようとするが、「イヤよ!」と彼女は叫んで、あろうことか、座っていた女性の髪を引っ掴んで椅子から引きずり下ろそうとした。

「きゃあ!」

 思いっきり引っ張られたようで、女性が悲鳴をあげる。

「お客様!」

 店長がその手を掴んで、髪を離そうとする。
 女は暴れまくって、ようやく手を離させたときには女性のお客さんは床に座り込んでいた。

「大丈夫ですか?」

 手を差し出して立たせようとすると、「「久住くん!」」と二人が目を輝かせた。

「うれしい! 私のために来てくれたの?」
「なに言ってるのよ! 久住くんは私に会いに来たのよ!」

 どっちもやっかいなやつだった……。

「どちらでもありません。俺はここでバイトしているだけで……」

 なるべくそっけなく言うと、「店長の前だからって隠さなくていいのよ?」「照れなくてもいいのに」とまったく話が噛み合わない。

 店長に目線で外せと言われて、奥に引っ込む。
 すると、また騒ぎがエスカレートしたようで、結局店長は警察を呼んだ。

 俺は事態が落ち着くまで、厨房に留められた。
 料理人が同情して、ジュースを出してくれる。
 それを飲みながら、また首になるんだろうなと落ち込んだ。
 ゴールデンウィークはここのまかないを期待していたのに、計画が崩れた。
 あとで金を下ろさないとさすがに189円では5日も過ごせない。
 今日バイト代が振り込まれているはずだ。
 手数料が痛いけど、帰りに下ろしていこう。

 店長が戻ってきて、案の定、「久住くんが悪いわけではないと重々わかっているんだけど……」とやっぱり首になった。
 「わかりました。お世話になりました」と頭を下げて、店を出る。

 求人の貼り紙はないか見ながら歩くが、こういうときに限って、なかなかない。
 ATMを見つけて、金を下ろそうとすると、残高が189円のままだった。
 どういうことだ?
 まじまじと画面を見つめてフリーズする。

 気まずいけど、さっきのバイト先に戻って店長に確認した。

「バイト代? 昨日ちゃんと振り込んだよ。あー、久住くんの銀行は確かゴールデンウィーク中はメンテナンスで反映するのがゴールデンウィーク明けになるんじゃなかった? CMで何度も流れてたよね?」

 そう言われて、目の前が真っ暗になる。
 呆然としたまま、そこを辞した。

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