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第二章 ― 遥斗 ―
まっとうな存在②
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「この顔を見て、モデルを頼んだんじゃないのかよ」
「違います。朝焼けを撮ろうと思ってここに来たら、あなたがいて、構図がよかったから写真を撮っちゃったんです。だから…」
「ふーん。それで、どうするんだ? 俺はどっちでもいいが」
「ぜひお願いします!」
話はあっさり決まった。
彼女は佐伯優と名乗った。やっぱり入ってきたばかりの一年だった。
俺が絵に戻ると、優も俺の写真を撮ったり景色を撮ったりしていた。
そんなとき、グーッと二人のお腹が鳴った。
「く、久住先輩、パン食べます?」
赤くなりながら彼女が差し出したのはお徳用ロールパンを袋ごと。
あまりに邪気も色気もなくて、俺は吹き出した。
優は、俺が悩まされているような女たちと違って、ザ・無害というような顔をしていた。
拗ねた顔をしているかと思えば、遠方に桜を見つけて、瞳をきらめかせ、「あそこに行ってきます」とバタバタと立ち去った。
そのあっさり具合は新鮮だった。
こんな女もいるんだな。
そう思いながら、また絵に戻った。
翌朝、始業時間前に優が部屋にやってきた。
絵に集中していた俺は生返事をしていた。
ふと気が途切れて、優の方を見るとカメラのモニターをチェックしていた。
俺の視線に気づくと、ニコッと笑って「おはよーございます!」と元気に挨拶をしてくる。
「あぁ」とそっけなく返すとムッとしていた。
とてもわかりやすい。
「約束したから持ってきました」
口を尖らせたあと、優は巨大な弁当箱を差し出してきた。
これは本当に一人分か?
驚いて目を瞬かせると、恥ずかしくなったのか、優は「放課後に取りに来ますから!」と言って、走り去った。
腹が減っていた俺は、早速弁当箱を開けてみた。
おかずやおにぎりが詰め込めるだけ詰め込んであって、やっぱり色気もなにもない弁当だった。
昨日、作ると言っていたが、本当に自分で作ったんだろうな。
弁当作りに慣れていないようで、ところどころ焦げていたり、形が歪だったりしたが、美味しかった。
まるで優そのもののような素朴さだった。
腹いっぱい食べたのに、弁当はまだ十分昼飯になるくらい残っていて、これを1ヶ月食べられるなら、モデルでもなんでもしようと思った。
帰りに弁当箱を取りに来た優はにぎやかだった。
「違います。朝焼けを撮ろうと思ってここに来たら、あなたがいて、構図がよかったから写真を撮っちゃったんです。だから…」
「ふーん。それで、どうするんだ? 俺はどっちでもいいが」
「ぜひお願いします!」
話はあっさり決まった。
彼女は佐伯優と名乗った。やっぱり入ってきたばかりの一年だった。
俺が絵に戻ると、優も俺の写真を撮ったり景色を撮ったりしていた。
そんなとき、グーッと二人のお腹が鳴った。
「く、久住先輩、パン食べます?」
赤くなりながら彼女が差し出したのはお徳用ロールパンを袋ごと。
あまりに邪気も色気もなくて、俺は吹き出した。
優は、俺が悩まされているような女たちと違って、ザ・無害というような顔をしていた。
拗ねた顔をしているかと思えば、遠方に桜を見つけて、瞳をきらめかせ、「あそこに行ってきます」とバタバタと立ち去った。
そのあっさり具合は新鮮だった。
こんな女もいるんだな。
そう思いながら、また絵に戻った。
翌朝、始業時間前に優が部屋にやってきた。
絵に集中していた俺は生返事をしていた。
ふと気が途切れて、優の方を見るとカメラのモニターをチェックしていた。
俺の視線に気づくと、ニコッと笑って「おはよーございます!」と元気に挨拶をしてくる。
「あぁ」とそっけなく返すとムッとしていた。
とてもわかりやすい。
「約束したから持ってきました」
口を尖らせたあと、優は巨大な弁当箱を差し出してきた。
これは本当に一人分か?
驚いて目を瞬かせると、恥ずかしくなったのか、優は「放課後に取りに来ますから!」と言って、走り去った。
腹が減っていた俺は、早速弁当箱を開けてみた。
おかずやおにぎりが詰め込めるだけ詰め込んであって、やっぱり色気もなにもない弁当だった。
昨日、作ると言っていたが、本当に自分で作ったんだろうな。
弁当作りに慣れていないようで、ところどころ焦げていたり、形が歪だったりしたが、美味しかった。
まるで優そのもののような素朴さだった。
腹いっぱい食べたのに、弁当はまだ十分昼飯になるくらい残っていて、これを1ヶ月食べられるなら、モデルでもなんでもしようと思った。
帰りに弁当箱を取りに来た優はにぎやかだった。
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