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第二章 ― 遥斗 ―

誤算①

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 と言っても、画材以外は、大した荷物はない。一番大きいものが布団だったが、俺の年季の入ったせんべい布団を見た和田先生は入学祝いに買ってあげると言って、持っていかなかった。
 手伝ってくれるだけでも有難いのに、そこまでしてもらっては申し訳ないと固辞したが、和田先生は買うと言い張ってきかなかった。
 車で生活用品店に連れていかれ、カバー付きの布団セットを買ってもらった。
 もちろん、一番安いものを選んだんだが、思ったより高くなくてほっとする。

 和田先生は他にも買いたがったが、必死で断っていると、見かねた郁人先生が和田先生をたしなめてくれた。

 二人のおかげで、新しい生活基盤が整った。
 感謝しても感謝しきれない。

 深く頭を下げると、「今度は郁人にバトンタッチね。頼んだわよ!」と和田先生は笑って、郁人先生の背中を叩いた。
 郁人先生はいてーなと笑っていた。

「いえ、郁人先生には迷惑をかけないようにします」

 ここまでお膳立てしてもらえれば十分だ。
 高校生になったらバイトもできるし、今まで貯金を切り崩していたのも補填できるだろうと思った。

 とにかく開放感でいっぱいだった。
 その頃、描いた絵はすべて明るい色で埋め尽くされていた。

 ………ずいぶん、見込みが甘かったとわかったのは夏頃だった。

 

 
 俺は高校が始まってすぐバイトを始めた。
 最初はカフェの店員だった。
 まかないもあるということで、そこに決めた。
 始めのうちは、客が増えたと喜ばれた。しかし、時間が経つにつれ、やっかいな客が増えていった。
 どうやら俺は、そういうのに好かれる体質なのか、俺がいる間中粘る客はまだしも、俺が「いらっしゃいませ」と微笑む度に、「浮気だ」「許せない」と騒ぐ見覚えのない女、勝手に俺の取り合いを始める女たち、待ち伏せしていた女もいた……。

 俺とは無関係なところでトラブル続出で、店長に「久住くんは悪くないんだけど、ごめんね」と言われ、早々に首になった。

 どこで働いても似たようなものだった。
 俺は普通に働きたいだけなのに。
 次第に、客商売でも愛想笑いをしなくなった。日常でもうんざりして、顔が強ばるようになってきた。


 そんなバイトで稼いだささやかな金は、画材代、コンクールの出品にあっさり消えていった。
 食事代やお小遣いとして、母からもらっていた金はもうもらえないから、貯金を切り崩していくしかなかった。
 あんな親でも金をくれていただけマシだったんだな。

 俺は早晩行き詰まることを感じて焦った。



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