全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子

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第一章 ― 優 ―

胸が痛い③

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 私は廊下を全力で走った。
 何事かと途中で友達が声をかけてきたけど、「緊急事態!」とスピードを緩めず駆け抜ける。


 ドンドンッ

 歴史教官室のドアを叩く。

「和田先生ッ!」

 中から返事が聞こえると、ドアを開けて、ズンズン入っていく。驚いた表情で和田先生が私を見つめた。

「先生は先生でしょ! 大人でしょ! 遥斗先輩の事情も知ってて、なんであんなになるまで放っておくんですか!!」

 さっきの先輩の痩せ細った身体を思い出して、とうとう涙腺が決壊してしまい、滂沱の涙が流れた。
 詰め寄る私に和田先生は「なんだ、遥斗のことか」と力を抜いた。

「なんだじゃありません! 先生は遥斗先輩の身体を見たことないんですか! あんな…あんな…ひどい……」

 私は泣き崩れて話せなくなった。
 遥斗先輩は同情してもらいたいとは思っていないだろう。だから、必死で隠していたのかもしれない。でも、それでも、周りの大人達の仕打ちに血が逆流するかのような怒りを覚えていた。こんなに怒ったのは初めてかもしれない。

 あんなことをしてご飯を手に入れないといけないなんて! それでも、足りてないなんて!

 私の剣幕にいつもとは違うものを感じたらしく、和田先生はハンカチを差し出して、頭をポンポン叩いた。

「なにがあったんだ? 落ち着いて言ってみろ」

 無理やり嗚咽を呑み込んで、私は一生懸命説明した。

「……さっき、たまたま遥斗先輩が着替えているところを見ちゃったんです。ガリガリに痩せてました。病的なくらい。考えてみれば当たり前なんです。ここに住んで、ご飯は平日にもらったものだけ。それで高校生の男の子が足りるはずないんです」

 今はお弁当を2食分のつもりで持ってきているから、ようやく3食食べられるようになったんじゃないかな? 

『あんなに腹いっぱい食べたの初めてだ』

 そう言って笑った遥斗先輩が切ない。

 涙ながらに語ると、先生は不思議そうな顔をした。

「もらったものだけ? バイトをしていただろ?」
「でも、画材は?」
「画材?」

 聞き返すってことはなにも知らないんだ。私は唇を噛んだ。私もこないだ気づいた。バイトをしているのに、あそこまで食べ物に困っているのはおかしいと思って。

「前にコンクールで賞を獲らないといけないって言われていましたよね? 画材はどうしているんですか? 油絵具もコンクールに出すような大きいキャンバスもかなり高いですけど」
「そうなのか?」
「そうです! キャンバスだけで最低5、6000円はします。大きいサイズはそれ以上。そもそも出品料を取るコンクールも多いし。しかも、出品料って1万円くらいするのがざらなんですよ? 搬入にもお金がかかります。額が必要なものもあります。もしかして、全部自費なんですか?」
「………そんなにかかるのか?」
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