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第一章 ― 優 ―
胸が痛い①
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家に帰りついたのは7時前だった。
お母さんに怒られた。
遅くなるなら連絡しなさいって。心配するじゃないって。
「ごめんなさい」
私は素直に謝った。
スマホをカバンに入れていてお母さんからのメッセージにも着信にも全然気づかなかった。
でも、真奈美先輩から聞いたことで頭がいっぱいで、ぼんやりする。帰りながら、その話がじわじわと頭に浸透してくると、冷静ではいられなくなった。
遥斗先輩は今日、あの子と……。
二人が抱き合っている姿をうっかり想像してしまって、首をぶんぶん振った。
やだ! やだやだ!
真奈美先輩には平気なフリをしたけれど、やっぱり嫌で嫌でしょうがない気持ちが湧いてくる。
私、そんなに潔癖症だっけ?
「どうかしたの?」
お母さんが心配そうに聞いてくるけど、さすがにこんな話は伝えられない。
「ちょっと先輩にショックな話を聞いちゃって。言えないけど」
「遥斗先輩に?」
「ううん、また別の先輩」
「そう……」
私が言えないと言うとお母さんは追求しないでくれた。まぁ、頑固な私がそう言ったら、意地でも言わないことを知っているせいでもあるけど。
「お父さんは遅くなるそうだから、二人でご飯にしましょう。手を洗ってきて」
気分を変えるように、お母さんが言った。
「はーい」
その夜は、とりとめもないことが次々頭に浮かんできて、なかなか眠れなかった。
翌日、眠い目を擦りながら、部室に行く。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
遥斗先輩はいたって普通にしていた。
そりゃあ、私相手に挙動不審になんかならないか。そもそも、昨日のことは私は知らないことになっているし。
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
そう言いながら、なんとなく部室の様子を窺ってしまう。
特に変化はない。
あ、紙袋がひとつ増えている。
ズクンと胸が痛んだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
誰のせいだと……。
だいたい無駄にってなによ!
遥斗先輩の言いぐさにムッとして、言い返そうと口を開いたけど、今朝はそんなエネルギーもなくて、ため息をついた。
「お前、大丈夫か……?」
先輩が筆を置いて、近寄ってくる。
額に手を当てられて、目をぱちくりさせる。
節ばった大きい男の人の手。
ふれたのは一瞬だったのに、その感触がおでこにいつまでも残っている気がした。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
本気で心配してくれているらしい先輩に、動揺してしまう。
先輩が非常食と指したのは、ポットの横に置かれたカップラーメンの山。
それって、昨日の子が持ってきたの?
変な想像をしないように、ギュッと目をつぶって、それを視界から追いやる。
お母さんに怒られた。
遅くなるなら連絡しなさいって。心配するじゃないって。
「ごめんなさい」
私は素直に謝った。
スマホをカバンに入れていてお母さんからのメッセージにも着信にも全然気づかなかった。
でも、真奈美先輩から聞いたことで頭がいっぱいで、ぼんやりする。帰りながら、その話がじわじわと頭に浸透してくると、冷静ではいられなくなった。
遥斗先輩は今日、あの子と……。
二人が抱き合っている姿をうっかり想像してしまって、首をぶんぶん振った。
やだ! やだやだ!
真奈美先輩には平気なフリをしたけれど、やっぱり嫌で嫌でしょうがない気持ちが湧いてくる。
私、そんなに潔癖症だっけ?
「どうかしたの?」
お母さんが心配そうに聞いてくるけど、さすがにこんな話は伝えられない。
「ちょっと先輩にショックな話を聞いちゃって。言えないけど」
「遥斗先輩に?」
「ううん、また別の先輩」
「そう……」
私が言えないと言うとお母さんは追求しないでくれた。まぁ、頑固な私がそう言ったら、意地でも言わないことを知っているせいでもあるけど。
「お父さんは遅くなるそうだから、二人でご飯にしましょう。手を洗ってきて」
気分を変えるように、お母さんが言った。
「はーい」
その夜は、とりとめもないことが次々頭に浮かんできて、なかなか眠れなかった。
翌日、眠い目を擦りながら、部室に行く。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
遥斗先輩はいたって普通にしていた。
そりゃあ、私相手に挙動不審になんかならないか。そもそも、昨日のことは私は知らないことになっているし。
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
そう言いながら、なんとなく部室の様子を窺ってしまう。
特に変化はない。
あ、紙袋がひとつ増えている。
ズクンと胸が痛んだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
誰のせいだと……。
だいたい無駄にってなによ!
遥斗先輩の言いぐさにムッとして、言い返そうと口を開いたけど、今朝はそんなエネルギーもなくて、ため息をついた。
「お前、大丈夫か……?」
先輩が筆を置いて、近寄ってくる。
額に手を当てられて、目をぱちくりさせる。
節ばった大きい男の人の手。
ふれたのは一瞬だったのに、その感触がおでこにいつまでも残っている気がした。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
本気で心配してくれているらしい先輩に、動揺してしまう。
先輩が非常食と指したのは、ポットの横に置かれたカップラーメンの山。
それって、昨日の子が持ってきたの?
変な想像をしないように、ギュッと目をつぶって、それを視界から追いやる。
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