61 / 171
第一章 ― 優 ―
胸が痛い①
しおりを挟む
家に帰りついたのは7時前だった。
お母さんに怒られた。
遅くなるなら連絡しなさいって。心配するじゃないって。
「ごめんなさい」
私は素直に謝った。
スマホをカバンに入れていてお母さんからのメッセージにも着信にも全然気づかなかった。
でも、真奈美先輩から聞いたことで頭がいっぱいで、ぼんやりする。帰りながら、その話がじわじわと頭に浸透してくると、冷静ではいられなくなった。
遥斗先輩は今日、あの子と……。
二人が抱き合っている姿をうっかり想像してしまって、首をぶんぶん振った。
やだ! やだやだ!
真奈美先輩には平気なフリをしたけれど、やっぱり嫌で嫌でしょうがない気持ちが湧いてくる。
私、そんなに潔癖症だっけ?
「どうかしたの?」
お母さんが心配そうに聞いてくるけど、さすがにこんな話は伝えられない。
「ちょっと先輩にショックな話を聞いちゃって。言えないけど」
「遥斗先輩に?」
「ううん、また別の先輩」
「そう……」
私が言えないと言うとお母さんは追求しないでくれた。まぁ、頑固な私がそう言ったら、意地でも言わないことを知っているせいでもあるけど。
「お父さんは遅くなるそうだから、二人でご飯にしましょう。手を洗ってきて」
気分を変えるように、お母さんが言った。
「はーい」
その夜は、とりとめもないことが次々頭に浮かんできて、なかなか眠れなかった。
翌日、眠い目を擦りながら、部室に行く。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
遥斗先輩はいたって普通にしていた。
そりゃあ、私相手に挙動不審になんかならないか。そもそも、昨日のことは私は知らないことになっているし。
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
そう言いながら、なんとなく部室の様子を窺ってしまう。
特に変化はない。
あ、紙袋がひとつ増えている。
ズクンと胸が痛んだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
誰のせいだと……。
だいたい無駄にってなによ!
遥斗先輩の言いぐさにムッとして、言い返そうと口を開いたけど、今朝はそんなエネルギーもなくて、ため息をついた。
「お前、大丈夫か……?」
先輩が筆を置いて、近寄ってくる。
額に手を当てられて、目をぱちくりさせる。
節ばった大きい男の人の手。
ふれたのは一瞬だったのに、その感触がおでこにいつまでも残っている気がした。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
本気で心配してくれているらしい先輩に、動揺してしまう。
先輩が非常食と指したのは、ポットの横に置かれたカップラーメンの山。
それって、昨日の子が持ってきたの?
変な想像をしないように、ギュッと目をつぶって、それを視界から追いやる。
お母さんに怒られた。
遅くなるなら連絡しなさいって。心配するじゃないって。
「ごめんなさい」
私は素直に謝った。
スマホをカバンに入れていてお母さんからのメッセージにも着信にも全然気づかなかった。
でも、真奈美先輩から聞いたことで頭がいっぱいで、ぼんやりする。帰りながら、その話がじわじわと頭に浸透してくると、冷静ではいられなくなった。
遥斗先輩は今日、あの子と……。
二人が抱き合っている姿をうっかり想像してしまって、首をぶんぶん振った。
やだ! やだやだ!
真奈美先輩には平気なフリをしたけれど、やっぱり嫌で嫌でしょうがない気持ちが湧いてくる。
私、そんなに潔癖症だっけ?
「どうかしたの?」
お母さんが心配そうに聞いてくるけど、さすがにこんな話は伝えられない。
「ちょっと先輩にショックな話を聞いちゃって。言えないけど」
「遥斗先輩に?」
「ううん、また別の先輩」
「そう……」
私が言えないと言うとお母さんは追求しないでくれた。まぁ、頑固な私がそう言ったら、意地でも言わないことを知っているせいでもあるけど。
「お父さんは遅くなるそうだから、二人でご飯にしましょう。手を洗ってきて」
気分を変えるように、お母さんが言った。
「はーい」
その夜は、とりとめもないことが次々頭に浮かんできて、なかなか眠れなかった。
翌日、眠い目を擦りながら、部室に行く。
「おはよーございます……」
「おはよう。めずらしくテンション低いな」
遥斗先輩はいたって普通にしていた。
そりゃあ、私相手に挙動不審になんかならないか。そもそも、昨日のことは私は知らないことになっているし。
「昨日、なぜか寝つけなくて、ちょっと寝不足なんです」
そう言いながら、なんとなく部室の様子を窺ってしまう。
特に変化はない。
あ、紙袋がひとつ増えている。
ズクンと胸が痛んだ。
「いつも快眠してそうなイメージだけどな。朝から無駄に元気いっぱいで」
誰のせいだと……。
だいたい無駄にってなによ!
遥斗先輩の言いぐさにムッとして、言い返そうと口を開いたけど、今朝はそんなエネルギーもなくて、ため息をついた。
「お前、大丈夫か……?」
先輩が筆を置いて、近寄ってくる。
額に手を当てられて、目をぱちくりさせる。
節ばった大きい男の人の手。
ふれたのは一瞬だったのに、その感触がおでこにいつまでも残っている気がした。
「熱ではないか……。疲れてるなら、弁当休んでもいいんだぞ? お前がポットを持ってきてくれたから非常食も食べられるようになったし」
本気で心配してくれているらしい先輩に、動揺してしまう。
先輩が非常食と指したのは、ポットの横に置かれたカップラーメンの山。
それって、昨日の子が持ってきたの?
変な想像をしないように、ギュッと目をつぶって、それを視界から追いやる。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい
おもちDX
BL
社畜のサラリーマン柊(ひいらぎ)はある日、ヘッドマッサージの勧誘にあう。怪しいマッサージかと疑いながらもついて行くと、待っていたのは――極上の癒し体験だった。柊は担当であるイケメンセラピスト夕里(ゆり)の技術に惚れ込むが、彼はもう店を辞めるという。柊はなんとか夕里を引き止めたいが、通ううちに自分の痴態を知ってしまった。ただのマッサージなのに敏感体質で喘ぐ柊に、夕里の様子がおかしくなってきて……?
敏感すぎるリーマンが、大型犬属性のセラピストを癒し、癒され、懐かれ、蕩かされるお話。
心に傷を抱えたセラピスト(27)×疲れてボロボロのサラリーマン(30)
現代物。年下攻め。ノンケ受け。
※表紙のイラスト(攻め)はPicrewの「人間(男)メーカー(仮)」で作成しました。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる