全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

第一章 ― 優 ―

魔法みたい②

　サラサラっと、筆が走っただけで、あっという間に雰囲気のある鮮やかな赤い薔薇が写し出された。
　それは、線を重ねていないのに繊細で、見るものを惹きつけるものだった。

「えっ……」

　あまりにびっくりして、私は声を上げてしまった。
　先輩が不思議そうに振り返る。

「なんだ？」

　固まって絵を見つめていた私は、その言葉にハッとして、我に返った。

「なんだじゃないですよ！　むちゃくちゃうまいじゃないですか！　すっごく素敵！　これ絶対売れる！」

　興奮して言い募ると、先輩は醒めた目で、「そんな簡単なもんじゃないだろう」と言う。

　冷静だなぁ。
　でも、これはいけると思うんだけど。
　来週、お兄ちゃんな友達に見せて、相談してみよう。

　先輩は水彩画を描くのが楽しくなったのか、花瓶から次々と違う花を取り出しては、さらさらと描いていく。
　見る間に、部屋に花が広がった。

　そのうち、全体を描きたくなったようで、先輩は花束を活けた花瓶を部屋の中央に持ってきて、描き始めた。

「水彩画を久しぶりに描いたが、油絵と違って、一瞬で描けて、これはこれでいいな」
「そうなんです。すぐ描けるから、売るのにいいかと思って。あ、ちゃんとサインを入れてくださいね」
「これを売るつもりなのか？」
「はい。売れるものならなんでも売っちゃおうかと思って」
　
　先輩はとても疑わしそうな表情で私を見たけど、なにも言わずに絵に戻った。

　私は先輩が絵を描いているのを横で見ていた。本当に油絵と違って、みるみる完成に近づいていく。
　この絵もため息が出るくらい素敵だった。

　私は先輩の描いた絵を一枚一枚写真を撮っていった。そして、一番最初の薔薇の絵を持って、近くで見る。

　もう乾いたかな？

「先輩、これもらっていっていいですか？」
「お前の持ってきた画材だ。好きにすればいい」
「ありがとうございます！　そしたら、私、帰りますね。バイト頑張ってくださいね」
「あぁ」

　私は大事に絵を持つと、家に帰った。