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第一章 ― 優 ―

魔法みたい①

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 誰かが自分の作ったものをおいしそうに食べてくれるのって、なんだか幸せだな。

 ニコニコと先輩を見ていたら、「そんなに見られていたら食べにくい」と先輩が文句を言った。
 私は慌てて自分のおにぎりにかぶりついた。

「あー、梅干しだった。おかかがよかったのに」
「自分の好きじゃないものを入れたのか?」
「だって、おにぎりには梅干しは一個ぐらい入ってないと……。様式美ってやつ?」
「なんだそれ」

 遥斗先輩があきれた顔をしながらも、自分の食べていたおにぎりを差し出して、私の梅干しおにぎりを奪っていった。
 先輩の一口かじったおにぎりはおかかだった。
 おかかおにぎりをもらって、じっと見る。

 先輩って、こういうの全然気にしないよね……。
 ま、いっか。

 私はおにぎりをかじった。
 やっぱりおかかはおいしい。

「そういえば、バイトの面接はどうだったんですか?」
「あぁ、採用になって、今日の昼前から行く」
「よかったですねー!」
 
 弾んだ声を上げると、先輩も頷いた。

「ちょうど土日は人手が少なくて困っていたそうだ」
「じゃあ、このお弁当は夜にでも食べてください」

 お弁当を指し示すと、遥斗先輩の眉間に皺が寄った。

「バイトも決まったし、来週はこんなことしなくていいからな」
「わかりました。でも、私のおせっかいは続きますよ?」

 一応、予告しておく。
 先輩はなんとも言えない顔で、肩をすくめた。
 



 食後に、持ってきた画材を広げる。

「まずは水彩絵の具、水彩紙、あとパステルとか油絵具もあったんで持ってきました」
「なんでそんなに持っているんだ?」
「叔父さんが画廊をやっていて、その影響で一時期絵を描こうと思い立ったんですが、いまいちで、画材を変えたらいけるかなと次々と買っちゃったんです。結局、全部向いてなかったんですが」

 私は苦笑して、先輩に画材を押しつけた。

「先輩に水彩であの花を描いてもらいたいんです。あ、花がこんなにあると時間がかかりそうだから、一輪でいいんですけど」
「別にいいが、なんでだ?」
「ふふっ、絵で稼ごうかと思って」
「稼ぐ?」

 先輩は眉をひそめる。

「具体的になったら説明しますよ。とにかく描いてください!」

 花瓶に活けた花から一輪の薔薇を取り出して、持ってきた空き瓶に活けなおした。
 それを机の上に置く。
 先輩は不満そうだったけど、水彩セットからパレットを取り出して、絵の具を出すと、準備を始めた。



 キャンバスに水彩紙を置くと、先輩の手は魔法みたいになった。
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