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第一章 ― 優 ―

おせっかいは迷惑なものです③

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「あ、先輩、パン屋さんは? パン屋さんなら居座られることもないし、パンをもらえるし、いいんじゃない? おにぎり屋さんっていうのもありますよ?」
「それはいいな。ここから近いし。あ、でも、電話かweb登録か……」
「電話かけるなら貸しますよ?」

 私はスマホを取り出した。 

「ありがとう」

 先輩は他のバイト先の情報を見たあと、やっぱりおにぎり屋さんがよかったようで、そこに決めたようだ。
 私はスマホのロックを解除して、電話ボタンを押して、先輩に渡した。たどたどしい手つきで先輩は番号を入れていく。
 スマホを使ったことがないみたいに。


 電話すると、今日の午後に面接に来てほしいと言われたらしい。履歴書を持って。

「履歴書だったら、ここでダウンロードできるみたいです。ついでに入力しちゃえば? あ、写真撮ってあげる」

 スマホで写真撮って、データをパソコンに読み込ませようとして、はたと止まった。
 送れない。

「遥斗先輩、ついでだから、メールアドレス取っちゃいましょう」

 遥斗先輩の名前でwebメールを登録する。

「先輩、パスワードを入れてください。なんでもいいけど、ちゃんと覚えておいてくださいね」

 遥斗先輩が入力する間、目を逸らす。

「よし、メールアドレスできた! これを履歴書にコピーして……」

 早速、できたてのメールアドレスに写真を送る。

「先輩、ここをこうするとメールが見れますから。ほら、私のメールが来た」

 私は、写真をダウンロードすると、ソフトで加工して、履歴書に貼り付けた。

「はい、じゃあ、履歴書に入力してください」

 そう言って、席を替わる。

「お前って本当に行動力すごいな……」

 気がつくと、あっけにとられた先輩がいた。

 あー、また突っ走っちゃった……。

「すみません。猪突猛進って、よく言われます」
「お前のための言葉みたいだな」

 遥斗先輩が吹き出した。

 あ、ウケた。
 今日はよく笑うね、先輩。



 先輩が入力した履歴書をプリントアウトする。

「便利だな」
「そうですよ。せっかくあるんだから、使わなきゃ」
「そうだな」

 これで面接の準備はバッチリだ。
 私は満足げに頷いた。

「あ、そうだ。先輩って、水彩画描けますか?」
「そりゃ描けるが、今度はなにを企んでいるんだ?」

 疑わしそうに先輩は私を睨めつけた。
 それに答えずに、さらに質問する。

「得意?」
「まぁまぁな」
「じゃあ、水彩画描いてください!」
「画材がない。だいたいなんで……」
「じゃあ、明日持ってきますから!」
「明日も来るんかよ」

 先輩が顔を顰める。
 そんな顔しても無駄ですよー。

「お弁当持ってくるから、描いてくださいね! あ、これ、今日のお弁当。それじゃあ、私はもうそろそろ行きますね。面接頑張ってください」

 言いたいことだけ言って、私は荷物をまとめると、「ちょっと待て」とか言っている先輩に手を振り、家に帰った。
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