37 / 171
第一章 ― 優 ―
なにそれっ!①
しおりを挟む
連休明け、ひさびさのお弁当を用意して、学校に向かった。
「おはよーございます!」
元気いっぱい部室のドアを開けると、遥斗先輩がいない。
「おはよう」
声がした方を見ると、先輩は以前うたた寝していた隅の方に座ってスケッチをしていた。
いつもに増してアンニュイな表情で儚げな美しさ……っていうか、げっそりしてない?
体調が悪いのかと慌てて駆け寄って、しゃがむと、先輩は明らかに顔色が悪くて頬が痩けている。
もしかして食べてないの?
「……遥斗先輩、連休はバイトって言ってませんでした?」
「初日にクビになった」
投げやりな口調で先輩は言う。
「え、どうして?」
「俺目当ての女同士でトラブルがあったんだ。もう何度も同じようなことがあるから、店としても限界だと言われて」
「そんな…! 遥斗先輩は悪くないじゃないですか!」
「店長も謝ってくれたけどな。まぁ、よくあることだ」
理不尽に慣れたような先輩が悲しい。
ふつふつ怒りが込み上げる。
トラブルを起こした女の人に、バイト先に、のん気に旅行に行っていた私に。
連休の間のことが気になっていたはずなのに、あのことがあって、頭から抜けて落ちていた。
せめて、昨日様子を見に来たらよかった。
「俺も油断していたのが悪い。いつもはもっと対策を立てていたのに」
ぽつりと先輩が言った。
なんとも言えない表情で私を見る。
なんだろう……?
読めない顔の遥斗先輩にお弁当を渡した。
「先輩、お弁当です。食べてください」
「ありがとう」
吸い寄せられるようにお弁当を見た遥斗先輩に胸が痛くなる。
「あと、おみやげです。デザートに食べてくださいね」
私は意識して明るい声を出して、ラスクと追加で買ったゼリーも渡した。
そして、立ち上がって、暇を告げる。
私がいたら食べにくいだろうから。
「じゃあまた帰りに来ますね」
教室に着くと、連休明けの今日はおみやげ話でいっぱいでにぎやかだった。
私もさっきまでそのテンションだった。
ひもじい思いをしている人がいるなんて想像もせずに。
「おはよー、優。なんか元気なくない?」
「おはよう、菜摘ちゃん……」
親友の顔見たら、涙腺が緩んでしまって、ぐっと瞳に力を入れる。
「ど、どうしたの、優?」
「う……ん……」
ダメ、今話しかけないで。泣いてしまいそうだから。
関係ない私が泣くのは変だ。一番つらいのは先輩なのに。
菜摘ちゃんになんでもないと首を振る。
込み上げてくる嗚咽をなんとか呑み込んだ。
「おはよーございます!」
元気いっぱい部室のドアを開けると、遥斗先輩がいない。
「おはよう」
声がした方を見ると、先輩は以前うたた寝していた隅の方に座ってスケッチをしていた。
いつもに増してアンニュイな表情で儚げな美しさ……っていうか、げっそりしてない?
体調が悪いのかと慌てて駆け寄って、しゃがむと、先輩は明らかに顔色が悪くて頬が痩けている。
もしかして食べてないの?
「……遥斗先輩、連休はバイトって言ってませんでした?」
「初日にクビになった」
投げやりな口調で先輩は言う。
「え、どうして?」
「俺目当ての女同士でトラブルがあったんだ。もう何度も同じようなことがあるから、店としても限界だと言われて」
「そんな…! 遥斗先輩は悪くないじゃないですか!」
「店長も謝ってくれたけどな。まぁ、よくあることだ」
理不尽に慣れたような先輩が悲しい。
ふつふつ怒りが込み上げる。
トラブルを起こした女の人に、バイト先に、のん気に旅行に行っていた私に。
連休の間のことが気になっていたはずなのに、あのことがあって、頭から抜けて落ちていた。
せめて、昨日様子を見に来たらよかった。
「俺も油断していたのが悪い。いつもはもっと対策を立てていたのに」
ぽつりと先輩が言った。
なんとも言えない表情で私を見る。
なんだろう……?
読めない顔の遥斗先輩にお弁当を渡した。
「先輩、お弁当です。食べてください」
「ありがとう」
吸い寄せられるようにお弁当を見た遥斗先輩に胸が痛くなる。
「あと、おみやげです。デザートに食べてくださいね」
私は意識して明るい声を出して、ラスクと追加で買ったゼリーも渡した。
そして、立ち上がって、暇を告げる。
私がいたら食べにくいだろうから。
「じゃあまた帰りに来ますね」
教室に着くと、連休明けの今日はおみやげ話でいっぱいでにぎやかだった。
私もさっきまでそのテンションだった。
ひもじい思いをしている人がいるなんて想像もせずに。
「おはよー、優。なんか元気なくない?」
「おはよう、菜摘ちゃん……」
親友の顔見たら、涙腺が緩んでしまって、ぐっと瞳に力を入れる。
「ど、どうしたの、優?」
「う……ん……」
ダメ、今話しかけないで。泣いてしまいそうだから。
関係ない私が泣くのは変だ。一番つらいのは先輩なのに。
菜摘ちゃんになんでもないと首を振る。
込み上げてくる嗚咽をなんとか呑み込んだ。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる