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第一章 ― 優 ―
なにそれっ!①
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連休明け、ひさびさのお弁当を用意して、学校に向かった。
「おはよーございます!」
元気いっぱい部室のドアを開けると、遥斗先輩がいない。
「おはよう」
声がした方を見ると、先輩は以前うたた寝していた隅の方に座ってスケッチをしていた。
いつもに増してアンニュイな表情で儚げな美しさ……っていうか、げっそりしてない?
体調が悪いのかと慌てて駆け寄って、しゃがむと、先輩は明らかに顔色が悪くて頬が痩けている。
もしかして食べてないの?
「……遥斗先輩、連休はバイトって言ってませんでした?」
「初日にクビになった」
投げやりな口調で先輩は言う。
「え、どうして?」
「俺目当ての女同士でトラブルがあったんだ。もう何度も同じようなことがあるから、店としても限界だと言われて」
「そんな…! 遥斗先輩は悪くないじゃないですか!」
「店長も謝ってくれたけどな。まぁ、よくあることだ」
理不尽に慣れたような先輩が悲しい。
ふつふつ怒りが込み上げる。
トラブルを起こした女の人に、バイト先に、のん気に旅行に行っていた私に。
連休の間のことが気になっていたはずなのに、あのことがあって、頭から抜けて落ちていた。
せめて、昨日様子を見に来たらよかった。
「俺も油断していたのが悪い。いつもはもっと対策を立てていたのに」
ぽつりと先輩が言った。
なんとも言えない表情で私を見る。
なんだろう……?
読めない顔の遥斗先輩にお弁当を渡した。
「先輩、お弁当です。食べてください」
「ありがとう」
吸い寄せられるようにお弁当を見た遥斗先輩に胸が痛くなる。
「あと、おみやげです。デザートに食べてくださいね」
私は意識して明るい声を出して、ラスクと追加で買ったゼリーも渡した。
そして、立ち上がって、暇を告げる。
私がいたら食べにくいだろうから。
「じゃあまた帰りに来ますね」
教室に着くと、連休明けの今日はおみやげ話でいっぱいでにぎやかだった。
私もさっきまでそのテンションだった。
ひもじい思いをしている人がいるなんて想像もせずに。
「おはよー、優。なんか元気なくない?」
「おはよう、菜摘ちゃん……」
親友の顔見たら、涙腺が緩んでしまって、ぐっと瞳に力を入れる。
「ど、どうしたの、優?」
「う……ん……」
ダメ、今話しかけないで。泣いてしまいそうだから。
関係ない私が泣くのは変だ。一番つらいのは先輩なのに。
菜摘ちゃんになんでもないと首を振る。
込み上げてくる嗚咽をなんとか呑み込んだ。
「おはよーございます!」
元気いっぱい部室のドアを開けると、遥斗先輩がいない。
「おはよう」
声がした方を見ると、先輩は以前うたた寝していた隅の方に座ってスケッチをしていた。
いつもに増してアンニュイな表情で儚げな美しさ……っていうか、げっそりしてない?
体調が悪いのかと慌てて駆け寄って、しゃがむと、先輩は明らかに顔色が悪くて頬が痩けている。
もしかして食べてないの?
「……遥斗先輩、連休はバイトって言ってませんでした?」
「初日にクビになった」
投げやりな口調で先輩は言う。
「え、どうして?」
「俺目当ての女同士でトラブルがあったんだ。もう何度も同じようなことがあるから、店としても限界だと言われて」
「そんな…! 遥斗先輩は悪くないじゃないですか!」
「店長も謝ってくれたけどな。まぁ、よくあることだ」
理不尽に慣れたような先輩が悲しい。
ふつふつ怒りが込み上げる。
トラブルを起こした女の人に、バイト先に、のん気に旅行に行っていた私に。
連休の間のことが気になっていたはずなのに、あのことがあって、頭から抜けて落ちていた。
せめて、昨日様子を見に来たらよかった。
「俺も油断していたのが悪い。いつもはもっと対策を立てていたのに」
ぽつりと先輩が言った。
なんとも言えない表情で私を見る。
なんだろう……?
読めない顔の遥斗先輩にお弁当を渡した。
「先輩、お弁当です。食べてください」
「ありがとう」
吸い寄せられるようにお弁当を見た遥斗先輩に胸が痛くなる。
「あと、おみやげです。デザートに食べてくださいね」
私は意識して明るい声を出して、ラスクと追加で買ったゼリーも渡した。
そして、立ち上がって、暇を告げる。
私がいたら食べにくいだろうから。
「じゃあまた帰りに来ますね」
教室に着くと、連休明けの今日はおみやげ話でいっぱいでにぎやかだった。
私もさっきまでそのテンションだった。
ひもじい思いをしている人がいるなんて想像もせずに。
「おはよー、優。なんか元気なくない?」
「おはよう、菜摘ちゃん……」
親友の顔見たら、涙腺が緩んでしまって、ぐっと瞳に力を入れる。
「ど、どうしたの、優?」
「う……ん……」
ダメ、今話しかけないで。泣いてしまいそうだから。
関係ない私が泣くのは変だ。一番つらいのは先輩なのに。
菜摘ちゃんになんでもないと首を振る。
込み上げてくる嗚咽をなんとか呑み込んだ。
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