一夜限りのつもりだったのに、癒やし系イケメンに捕まりました。

入海月子

文字の大きさ
上 下
12 / 18

12. めずらしい聡太

しおりを挟む


「アンドリュー……おかえりなさい!」


まだ酒を飲んでいないのに顔が熱い。それを誤魔化すためにやけに砕けた乾杯になってしまった。不安になってグラスを掲げた先を見つめると、アンドリューが困ったように笑っている。

2人、静かにワインを煽って再び目が合うと、どうしたらいいかわからなくなって料理に視線を落とす。我ながら立派な料理になった。荘園内の増税をすることもなく、困窮していることを使用人に悟られることなく、うまく乗り越えるには苦労の連続だった。うまい理由をつけて最近は1日1食で節約していたから、なおのこと料理が輝いて見える。


「知っている顔はカルロだけになってしまったな。やけに女が多いのはリノの趣味か?」


思ってもみないアンドリューの質問に、ついカルロを見てしまう。


「元来、女性の方が希望者は多いのです。先代がご存命の時には私の一存で男性を多く採用しておりました」


なるほどね。そう含みのある笑みを浮かべて俺を見やる。それが責められているようで視線を外してしまった。


「ぁ……アンドリュー、馬上槍試合に何度も出場していると聞き及びました」

「なぜ、今それが関係ある?」


失敗したと思った。俺とアンドリューとでは立場が違うのだ。それはたった3日違いの長男と次男といった立場ではない。


「気になる……貴婦人でもいるのかと……」

「なるほど。領地持ちの未亡人の気を引くために試合に臨んでいるとでも?」


隠せなていない怒気で空気が凍る。その冷気でせっかくの料理が冷めてしまうのが心苦しかった。嫉妬心を隠しアンドリューの本心を探りたかったが、これ以上深入りしても拗らせるだけだと観念する。


「いいえ。昔よく、馬上槍試合ごっこをしたのを覚えていますか?」


俺の本心を隠したまま今日というこの日を最良にしたい、その一心で童心に呼びかける。その唐突さからだろう、彼は不可解といった顔で呆然とした。


「よく荘園の子らも混じって本番さながらで試合をして……。俺はアンドリューと戦いたかったのに、いつもシーバルに邪魔をされて。覚えていますか? シーバル」

「あ、ああ……」

「父上が亡くなった頃から見かけなくなって、もう5年も連絡がつかない。今日、アンドリューが帰省するとなった段でもう一度探してみたのですが、ついぞ見つかりませんでした」


カトラリーが投げ出された音に驚き、テーブルの先を見る。


「く、口に合わないものでもありましたか……?」

「いいや、リノ。随分と痩せ細っていたから心配したが、いい暮らしをしているようでなによりだ。少なくとも俺は祝杯ですらこんな料理を食べたことはない」


アンドリューの後ろから声をかけようとした使用人カルロを、俺は睨みつけそれを制した。


「シーバル? 今更そんな小僧を呼び出してどうしたかったのだ? 俺が一度も勝てなかったシーバルとともに、次男の凋落を見て嘲笑いたかったか?」

「いいえ。シーバルはアンドリューを慕っていました。だから、きっとこの日を一緒に喜んでもらえると……」

「喜ぶ……? 相も変わらず、めでたい奴だ!」


乱暴に椅子を倒しながら立ち上がり、アンドリューはそのまま部屋を後にした。

その一部始終をどこか他人事のように眺めていたのは、自身の防衛本能かもしれない。それを証拠に、俺はナイフとフォークをテーブルに突き立てたまま動けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...