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12. めずらしい聡太
しおりを挟む「アンドリュー……おかえりなさい!」
まだ酒を飲んでいないのに顔が熱い。それを誤魔化すためにやけに砕けた乾杯になってしまった。不安になってグラスを掲げた先を見つめると、アンドリューが困ったように笑っている。
2人、静かにワインを煽って再び目が合うと、どうしたらいいかわからなくなって料理に視線を落とす。我ながら立派な料理になった。荘園内の増税をすることもなく、困窮していることを使用人に悟られることなく、うまく乗り越えるには苦労の連続だった。うまい理由をつけて最近は1日1食で節約していたから、なおのこと料理が輝いて見える。
「知っている顔はカルロだけになってしまったな。やけに女が多いのはリノの趣味か?」
思ってもみないアンドリューの質問に、ついカルロを見てしまう。
「元来、女性の方が希望者は多いのです。先代がご存命の時には私の一存で男性を多く採用しておりました」
なるほどね。そう含みのある笑みを浮かべて俺を見やる。それが責められているようで視線を外してしまった。
「ぁ……アンドリュー、馬上槍試合に何度も出場していると聞き及びました」
「なぜ、今それが関係ある?」
失敗したと思った。俺とアンドリューとでは立場が違うのだ。それはたった3日違いの長男と次男といった立場ではない。
「気になる……貴婦人でもいるのかと……」
「なるほど。領地持ちの未亡人の気を引くために試合に臨んでいるとでも?」
隠せなていない怒気で空気が凍る。その冷気でせっかくの料理が冷めてしまうのが心苦しかった。嫉妬心を隠しアンドリューの本心を探りたかったが、これ以上深入りしても拗らせるだけだと観念する。
「いいえ。昔よく、馬上槍試合ごっこをしたのを覚えていますか?」
俺の本心を隠したまま今日というこの日を最良にしたい、その一心で童心に呼びかける。その唐突さからだろう、彼は不可解といった顔で呆然とした。
「よく荘園の子らも混じって本番さながらで試合をして……。俺はアンドリューと戦いたかったのに、いつもシーバルに邪魔をされて。覚えていますか? シーバル」
「あ、ああ……」
「父上が亡くなった頃から見かけなくなって、もう5年も連絡がつかない。今日、アンドリューが帰省するとなった段でもう一度探してみたのですが、ついぞ見つかりませんでした」
カトラリーが投げ出された音に驚き、テーブルの先を見る。
「く、口に合わないものでもありましたか……?」
「いいや、リノ。随分と痩せ細っていたから心配したが、いい暮らしをしているようでなによりだ。少なくとも俺は祝杯ですらこんな料理を食べたことはない」
アンドリューの後ろから声をかけようとした使用人カルロを、俺は睨みつけそれを制した。
「シーバル? 今更そんな小僧を呼び出してどうしたかったのだ? 俺が一度も勝てなかったシーバルとともに、次男の凋落を見て嘲笑いたかったか?」
「いいえ。シーバルはアンドリューを慕っていました。だから、きっとこの日を一緒に喜んでもらえると……」
「喜ぶ……? 相も変わらず、めでたい奴だ!」
乱暴に椅子を倒しながら立ち上がり、アンドリューはそのまま部屋を後にした。
その一部始終をどこか他人事のように眺めていたのは、自身の防衛本能かもしれない。それを証拠に、俺はナイフとフォークをテーブルに突き立てたまま動けなかった。
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