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【番外編】
理人⑯
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「お嬢様は出かけておいでです」
急いで葉月の家に行くと、何度か顔を合わせたことのある執事が応対してくれた。
「病院に行ってるのですか?」
「病院? いいえ、違います」
息せき切って尋ねると、柔和な顔の執事は意外そうな表情をした。
「具合が悪いんじゃないのですか?」
「特にそのようなことは伺っておりませんが」
(よかった。病気じゃないのか)
ほっと胸をなでおろした。だが、それならなんで婚約解消するのかがわからない。
「葉月はいつ頃帰ってくるか、わかりますか?」
「お嬢様は当分お戻りにはなりません」
「当分?」
意味がわからず、聞き返す。それと同時に、マイルドな表情を浮かべながらも、彼が俺を観察するように見ているのに気づいた。
「いつ帰られるか、決められていないようです」
「なんだって? いったいどこに行ってるんですか?」
いつ帰るか決めていないって、旅行にでも行ったのか?
そう思い、尋ねてみるが、慇懃無礼に返される。
「それはお答えできかねます」
日頃、この執事はなんとなく好意的に俺に接してくれていた気がするのだが、今日はなぜか俺を責めるような雰囲気を漂わせている。
やはり俺が原因なのか?
だが、なにかした覚えもないし、どう考えても心当たりがない。
プロポーズしたのに、指輪もないし、あれから数回しか連絡していないのがよくなかったのか?
いや、葉月はそういうタイプじゃない。
(とにかく葉月を捕まえなくては!)
「電話が繋がらないのですが、どうしても葉月と連絡を取りたいんです」
「お嬢様が電話にお出になられないということは、それが答えではないでしょうか?」
笑顔で残酷なことを告げる執事を睨みつける。
「なにか誤解があるはずなんだ! 話せばわかるはずだ!」
苛立って叫ぶと、執事はわざとらしい溜め息をついた。
「お嬢様はあなたに送られて来た時はいつもとてもお幸せそうでした。でも、今日はひどく悲しそうで、そんなお顔をさせられるのもあなたしかいないと思っています」
(葉月が悲しそう? なぜだ? なにがあった?)
本格的に葉月になにかが起こったことを知って、気が焦る。悲しんでいる葉月を放ってはおけない。
「本当に身に覚えがないんだ! 教えてくれ! 葉月はどこにいる?」
「それではお教えすることはできません」
冷たく返されるが、ここで引くわけにはいかない。引けるくらいなら、ここまで躍起にならない。葉月と結婚を考えるはずもない。
「絶対に誤解だ。俺は葉月を悲しませるようなことはしていない!」
「あなたがそう思っているだけかもしれませんよ?」
「絶対だ! むしろ、葉月をあらゆるものから守ってやりたいと思ってる!」
必死で食い下がると、執事はおやっというように、表情を緩めた。
ここぞとばかりに畳みかける。
「頼む! 絶対に誤解があるはずなんだ。あんただって、葉月を悲しませたままにしておきたくないだろ? 誤解を解きたいんだ。教えてくれ。葉月はどこに行った?」
俺の訴えに、執事は思案するように見て、ふいににんまり笑った。
「行き先を聞いて、どうされるおつもりですか?」
「追いかけるに決まってる!」
「お嬢様はパリに行かれました。それでも、追いかけるのですか?」
「パリ? パリでもどこでも行くに決まってる!」
俺の言葉に、執事は今度は合格というように微笑んだ。
詳しく聞くと、葉月は夕方の便でパリに飛び立ったらしい。
宿泊ホテルの名前を聞き出し、急いで俺は家に戻った。
移動中にスマホで調べると、最終便にギリギリ飛び乗れそうだった。
すぐさまチケットを買って、Webチェックインする。チェックインしてしまえば、多少は待ってもらえる。
家に着き、パスポートを引っ掴むと、すぐ成田空港に向かった。
急いで葉月の家に行くと、何度か顔を合わせたことのある執事が応対してくれた。
「病院に行ってるのですか?」
「病院? いいえ、違います」
息せき切って尋ねると、柔和な顔の執事は意外そうな表情をした。
「具合が悪いんじゃないのですか?」
「特にそのようなことは伺っておりませんが」
(よかった。病気じゃないのか)
ほっと胸をなでおろした。だが、それならなんで婚約解消するのかがわからない。
「葉月はいつ頃帰ってくるか、わかりますか?」
「お嬢様は当分お戻りにはなりません」
「当分?」
意味がわからず、聞き返す。それと同時に、マイルドな表情を浮かべながらも、彼が俺を観察するように見ているのに気づいた。
「いつ帰られるか、決められていないようです」
「なんだって? いったいどこに行ってるんですか?」
いつ帰るか決めていないって、旅行にでも行ったのか?
そう思い、尋ねてみるが、慇懃無礼に返される。
「それはお答えできかねます」
日頃、この執事はなんとなく好意的に俺に接してくれていた気がするのだが、今日はなぜか俺を責めるような雰囲気を漂わせている。
やはり俺が原因なのか?
だが、なにかした覚えもないし、どう考えても心当たりがない。
プロポーズしたのに、指輪もないし、あれから数回しか連絡していないのがよくなかったのか?
いや、葉月はそういうタイプじゃない。
(とにかく葉月を捕まえなくては!)
「電話が繋がらないのですが、どうしても葉月と連絡を取りたいんです」
「お嬢様が電話にお出になられないということは、それが答えではないでしょうか?」
笑顔で残酷なことを告げる執事を睨みつける。
「なにか誤解があるはずなんだ! 話せばわかるはずだ!」
苛立って叫ぶと、執事はわざとらしい溜め息をついた。
「お嬢様はあなたに送られて来た時はいつもとてもお幸せそうでした。でも、今日はひどく悲しそうで、そんなお顔をさせられるのもあなたしかいないと思っています」
(葉月が悲しそう? なぜだ? なにがあった?)
本格的に葉月になにかが起こったことを知って、気が焦る。悲しんでいる葉月を放ってはおけない。
「本当に身に覚えがないんだ! 教えてくれ! 葉月はどこにいる?」
「それではお教えすることはできません」
冷たく返されるが、ここで引くわけにはいかない。引けるくらいなら、ここまで躍起にならない。葉月と結婚を考えるはずもない。
「絶対に誤解だ。俺は葉月を悲しませるようなことはしていない!」
「あなたがそう思っているだけかもしれませんよ?」
「絶対だ! むしろ、葉月をあらゆるものから守ってやりたいと思ってる!」
必死で食い下がると、執事はおやっというように、表情を緩めた。
ここぞとばかりに畳みかける。
「頼む! 絶対に誤解があるはずなんだ。あんただって、葉月を悲しませたままにしておきたくないだろ? 誤解を解きたいんだ。教えてくれ。葉月はどこに行った?」
俺の訴えに、執事は思案するように見て、ふいににんまり笑った。
「行き先を聞いて、どうされるおつもりですか?」
「追いかけるに決まってる!」
「お嬢様はパリに行かれました。それでも、追いかけるのですか?」
「パリ? パリでもどこでも行くに決まってる!」
俺の言葉に、執事は今度は合格というように微笑んだ。
詳しく聞くと、葉月は夕方の便でパリに飛び立ったらしい。
宿泊ホテルの名前を聞き出し、急いで俺は家に戻った。
移動中にスマホで調べると、最終便にギリギリ飛び乗れそうだった。
すぐさまチケットを買って、Webチェックインする。チェックインしてしまえば、多少は待ってもらえる。
家に着き、パスポートを引っ掴むと、すぐ成田空港に向かった。
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