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【番外編】
理人 ⑪
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会長との会談の後、金曜日から出社を許可された。
会社に着くと、総務部長が来て、冤罪を発表し、謝罪してくれた。
葉月も律儀に頭を下げる。
俺は気にしていないと微笑んだが、やはり葉月は罪悪感を覚えているらしい。
その頭をポンと叩いて言った。
「葉月と社長は別人格だ。お前が責任を感じる必要はない」
「でも……!」
それでも気に病んでいる葉月に、俺はニヤッと笑い、その耳許でささやいた。
「どうしても気が済まないというなら……今夜付き合え」
「え?」
驚いた顔の葉月が瞬いた。
一瞬、喜色が走ったように思えたのは願望か?
葉月はなぜか俺を婚約者から外した。
それが彼女の意志なのか、なんなのかわからない。
だが、そんなことはいい。
俺はもう決めた。
葉月をもらう。
そのために、葉月を口説き落とす。
障害があるなら、壊せばいい。
そう考えた。
仕事帰り、葉月を部屋に連れ込み、食事の用意をする。
準備は予めしてあったから、材料を電気圧力鍋に入れるだけだ。
リビングに戻ってくると、葉月が緊張した面持ちで待っていた。
「なあ、葉月……」
ともすれば抱きしめてしまいそうな心を抑えて、葉月の髪を撫で下ろし、一房手に取った。
ひたっと葉月が俺を見つめる。
想い焦がれるような目。俺を切望するような眼差し。
その瞳の磁力に逆らえず、口づけた。
(なにやってるんだ、俺は。まず、話だろう?)
唇を離すと、俺は髪を掻き上げ、ぼやいた。
「あぁー! そんな目で見るなよ! 話ができなくなるだろ! まいったな」
大きく目を見開き、葉月が俺を見つめる。
キスを嫌がる素振りはなく、だた驚いているだけのようだ。
それに気をよくして、頬を撫で、髪に触れる。
「なあ、葉月。なんで婚約を解消してないんだ?」
「それは、この状況で解消なんてしたら……」
「その前のことだよ。時間はあったはずだろ?」
葉月が俺に終わりを告げた日から、情報漏洩の疑いをかけられるまで、ほぼ一週間あった。結婚相手が決まっていたのなら、会長に告げる時間は十分あっただろう。
「それは……お祖父様に言うのを忘れていただけで……」
「ふ~ん、忘れていた、ね」
忘れる話ではないだろう。
事情を言いたくないのか、葉月がうつむいた。
「こら、うつむくな」
顎を持ち上げ、葉月を見つめる。
「なあ、お前はどうしたい?」
部屋に戻る前には、葉月がどう考えているのであれ、とにかく口説こうと思っていた。
でも、その前に葉月の口から事情を聞きたくなった。彼女の意志を。
葉月は目を逸らし、ぽつりと言った。
「お父様とお祖父様の対立が激化していると聞いて、私はもうわがままを止めて、誰でもいいからお父様の命ずる方と結婚しようと決めたんです」
(父親のためか……)
葉月が悲痛な顔をしていたわけだ。
「なるほどね。そういうことか……」
結婚相手を自分で決めるなんて、わがままなはずがないのに、そんな決断をしていたのかと、胸をつかれた。
「誰でも? 一柳でもか?」
俺の言葉に、葉月がためらいつつもうなずくので、耐えきれず、引き寄せて抱きしめた。
「それは許容できないな」
そんなの許せるはずがない。
一柳であろうと誰であろうと。
会社に着くと、総務部長が来て、冤罪を発表し、謝罪してくれた。
葉月も律儀に頭を下げる。
俺は気にしていないと微笑んだが、やはり葉月は罪悪感を覚えているらしい。
その頭をポンと叩いて言った。
「葉月と社長は別人格だ。お前が責任を感じる必要はない」
「でも……!」
それでも気に病んでいる葉月に、俺はニヤッと笑い、その耳許でささやいた。
「どうしても気が済まないというなら……今夜付き合え」
「え?」
驚いた顔の葉月が瞬いた。
一瞬、喜色が走ったように思えたのは願望か?
葉月はなぜか俺を婚約者から外した。
それが彼女の意志なのか、なんなのかわからない。
だが、そんなことはいい。
俺はもう決めた。
葉月をもらう。
そのために、葉月を口説き落とす。
障害があるなら、壊せばいい。
そう考えた。
仕事帰り、葉月を部屋に連れ込み、食事の用意をする。
準備は予めしてあったから、材料を電気圧力鍋に入れるだけだ。
リビングに戻ってくると、葉月が緊張した面持ちで待っていた。
「なあ、葉月……」
ともすれば抱きしめてしまいそうな心を抑えて、葉月の髪を撫で下ろし、一房手に取った。
ひたっと葉月が俺を見つめる。
想い焦がれるような目。俺を切望するような眼差し。
その瞳の磁力に逆らえず、口づけた。
(なにやってるんだ、俺は。まず、話だろう?)
唇を離すと、俺は髪を掻き上げ、ぼやいた。
「あぁー! そんな目で見るなよ! 話ができなくなるだろ! まいったな」
大きく目を見開き、葉月が俺を見つめる。
キスを嫌がる素振りはなく、だた驚いているだけのようだ。
それに気をよくして、頬を撫で、髪に触れる。
「なあ、葉月。なんで婚約を解消してないんだ?」
「それは、この状況で解消なんてしたら……」
「その前のことだよ。時間はあったはずだろ?」
葉月が俺に終わりを告げた日から、情報漏洩の疑いをかけられるまで、ほぼ一週間あった。結婚相手が決まっていたのなら、会長に告げる時間は十分あっただろう。
「それは……お祖父様に言うのを忘れていただけで……」
「ふ~ん、忘れていた、ね」
忘れる話ではないだろう。
事情を言いたくないのか、葉月がうつむいた。
「こら、うつむくな」
顎を持ち上げ、葉月を見つめる。
「なあ、お前はどうしたい?」
部屋に戻る前には、葉月がどう考えているのであれ、とにかく口説こうと思っていた。
でも、その前に葉月の口から事情を聞きたくなった。彼女の意志を。
葉月は目を逸らし、ぽつりと言った。
「お父様とお祖父様の対立が激化していると聞いて、私はもうわがままを止めて、誰でもいいからお父様の命ずる方と結婚しようと決めたんです」
(父親のためか……)
葉月が悲痛な顔をしていたわけだ。
「なるほどね。そういうことか……」
結婚相手を自分で決めるなんて、わがままなはずがないのに、そんな決断をしていたのかと、胸をつかれた。
「誰でも? 一柳でもか?」
俺の言葉に、葉月がためらいつつもうなずくので、耐えきれず、引き寄せて抱きしめた。
「それは許容できないな」
そんなの許せるはずがない。
一柳であろうと誰であろうと。
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