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なんでもできる人②

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「お風呂に入りたいです……」
「風呂か!」

 言ったとたん、彼がニヤリと笑った。やけにうれしそうだ。
 嫌な予感がして、慌てて言う。

「一人でゆっくり入りたいんです!」
「遠慮するな。しっかり洗ってやるから」
「け、結構です!」
「まぁまぁ」

 結局、強引に風呂場へ連れ込まれ、隅々まで洗われた。
 洗髪は美容院のように気持ちよかったけど、それからは不埒な手に翻弄されて、お風呂を出るときには息があがっていた。
 ベッドにもつれ込むように倒れる。
 黒瀬さんと目が合うと、磁力が発生しているかのように惹きつけられ、唇が近づいた。
 優しいキスから深いキス。

(黒瀬さんのキス、好きだな)

 唇を食まれるたびにジンとした快感が生まれ、私の官能を目覚めさせる。こんなの初めてだ。
 キスがうますぎる。
 経験値の違いを感じて、少し落ち込みそうになる。
 本気になったらいけない人じゃないかと思った。私には手に負えない人……。

「瑞希……俺に集中しろ」

 気が逸れたのを感じたのか、黒瀬さんは私の頬に手を当て、目を覗き込んでくる。
 すると、さっきの自戒など吹っ飛んで、心が彼にからめとられる。
 彼の舌がペロリと私の唇を舐めた。口を開けと催促するように。
 おずおずと口もとを緩めたら、ねじ込むように彼の舌が侵入してきた。
 それからはもう彼を感じることしかできなかった。

 ***
 
 翌朝、目覚めた私はぼんやり見慣れない部屋を見回した。黒瀬さんの部屋だと思い出す。
 本人はいなくて、私はひとりベッドに寝ていた。
 窓から明るい日差しが差し込み、日が高くなっているのがわかった。
 時計に目を遣ると、十時過ぎだ。

「もうこんな時間!」
 
 慌てて起き上がった私は、また黒瀬さんのTシャツ一枚という姿なのに気づく。しかも、まだ身体中に彼の感触が残っている。
 思い出すだけで身体が熱くなってくる。

(私たちってどういう関係? 付き合うの? 黒瀬さんとこんなことになるなんて!)
 
 でも、好きだって言ってくれた。ふと思い出して、頬がゆるんでしまう。
 ううん、『好きな子』と言われただけよ。
 それもどんな温度感で言われたものなのかわからない。
 弄ばれているだけかもしれない。
 一生懸命に落ち着こうとしたけれど、浮かれてしまっている自分がいた。

 黒瀬さんが置いてくれたらしい服を見つけ、着替える。
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