上 下
3 / 36

黒い噂②

しおりを挟む
 帰社する道すがら、山田主任がぼそっとつぶやく。

「あいつは勝つためなら手段を選ばないからなぁ」
「え? どういうことですか?」

 含みのある主任の言葉に、私は聞き返した。

「黒瀬はいつも施主側の女性に近づいては、情報を引き出したり自分のところを優遇するよう働きかけたりしてるんだ。枕営業みたいなものだな。神野リゾートの社長令嬢とも深い仲らしい。今日のコンペは最初から結果が決まってたのかもな」
「なんですか、それ! こっちは一生懸命に準備したのに!」

 主任は黒瀬さんが独立する前に働いていた設計事務所の同期だったから、彼のことに詳しい。たまに、こうして彼のことを話す。やっかみが入っているのは否めないが、それが本当だとしたら腹立たしい。
 そう言われてみれば、神野リゾートの女性と黒瀬さんはやけに親しげだった。あれが社長令嬢だったのかしら? 前のコンペのときも施主側の女性がやたらと彼に話しかけていた。
 施主の希望を細かく知っていたら、コンペに有利だろう。それどころか、審査する側に根回しされていたとすれば、勝てるはずがない。
 やっぱり悪い男だ。
 もともと黒瀬さんには苦手意識があったけど、それを聞いてますます嫌いになる。

(設計と人格は別物なのね)
 
 少なくとも、設計に対しては真摯だと思っていたので見損なった。
 それなのに、その翌週、部長に呼ばれて驚いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲

ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」 現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった   雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身 「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」 私の目の前に現れた彼の突然の申し出   冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身 突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが 彼の独占欲はエスカレートしていく 冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・ 雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。 そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。 だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。 愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。  

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

夫が私以外を愛しているとうるさいので、夫の愛した存在を抹殺してみた~これぞ平和な解決方法~

荷居人(にいと)
恋愛
「ああ、マリア……!愛してるよ………!」 マリア、それは妻の私ではない名前。 「なんて可愛いんだ!」 夫は堂々と家の中で愛を叫び、可愛いと私以外に言う。寧ろ外では決してしない。 私は夫だけを愛しているのに………あまりにうるさく、腹が立った私はあらゆる権力を使ってその存在を抹殺することに決めた。 「ミスティー!それだけは………それだけはやめてくれ!」 「やっと名前を呼んでくれたのね。でももう遅いわ」 これはその存在の首を私が折るまでのお話。 あらすじこそこんなんですが、全然グロテスクじゃないことは保証します。あくまでラブコメディ。何がどうしてそうなる?とタイトルに釣られた読者様方、是非謎を解明してください。謎と言うほどではありませんが。 すっと始まってすっと終わります。暇潰しにどうぞ。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

処理中です...