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【番外編】
戸惑い
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レクルムの方は、今日、領主と会談したが、魔道具を作るための調査で、数日ほど帰るのが遅れそうということだった。
早ければ明後日には会えるかなと思っていたサアラはがっかりした。
「大変ですね。頑張ってください」
『早く帰りたいのになぁ。領主のやつ、こちらの弱みにつけ込んで……』
励ますサアラに不満そうなレクルム。
「弱み?」
『いや、なんでもないよ。権力を笠に着てってこと』
なぜか慌てたようにレクルムが言った。
今回の旅行に関して、彼がなにか隠しているようで、サアラは不安になった。
でも、レクルムの仕事のことでサアラが口出すことなどできない。
「そうなんですね。大変なんですね~」
『なるべく早く済ませて、帰るからね!』
「はい。待ってます」
レクルムとの通話を終えると、サアラは小さく溜め息をついた。
もともとは楽観的な彼女なのだが、このところはすぐ暗い想像をしてしまう。
夢のような生活だから、どうしてもこの夢が壊れてしまうことしか考えられない。
ひとりで暮らしてみて、あまりの自分の出来なさっぷりを痛感したからでもあった。
今日の夕食もうまく作れなかった。
(レクルムは私のどこを好きなんだろう?)
最初は絶対に同情からだと思う。
その気持ちが薄れたら、もしかして……と嫌な想像をしてしまうのだ。
(今回の旅行で素敵な人と出会ってしまうかもしれない。一緒に仕事をするうちに、やっぱりパメラさんの方がいいと思うかもしれない)
サアラはとにかく自信がなかった。
レクルムがそばにいたら、そんな気持ちも吹き飛ぶほど愛を伝えてくれるのだが、彼が数日いないだけで、こんなにもサアラは不安定になってしまう。そんな自分が彼女は不思議だった。
気を取り直して、就寝の準備をする。
睡眠不足なのも、憂鬱になる原因かもしれない。
そう思って目をつぶるけど、今日もぬくもりの足りないベッドでは、なかなか眠りは訪れてくれなかった。
翌朝、サアラが仕事に向かっていると、「あれ?」という声がした。
そちらを見ると、昨日助けてくれた人だった。
「あ、おはようございます。昨日はありがとうございました」
サアラはペコンとお辞儀をした。
「いや、大してなんもしてないし。あれからは大丈夫だったか?」
「おかげさまで大丈夫でした」
「よかったな」
ニカッと笑った顔はさわやかで親しみやすく、サアラは好感を持った。
「じゃあ、またな」
彼は曲がり角で大きな手を上げ、あっさりと去っていく。
(感じのいい人だなぁ)
なんとなくその後ろ姿を見つめる。
(レクルムと真反対のタイプね)
クスッと笑って、サアラは職場に向かった。
その日の仕事帰り、店を出るとまもなく昨日の二人組が現れた。どうやらサアラを待ち伏せしていたようだ。
「今日も彼氏はいないんだね」
「レクルムはまだ出かけたままなので」
「その間に一度くらい、俺たちに付き合ってよ」
「ごめんなさい。ダメって言われてるので」
「えぇー、なにその束縛。そんなの言うこと聞かなくていいじゃん」
「そうだよ。だいたい言わなきゃわかんないって」
サアラの行く手をニヤニヤとした二人が遮っているので、彼女は困った。
『なに、この人たち、気持ち悪いわね! サアラ、絶対についていっちゃダメよ?』
ペンダントが警戒するように言うと、サアラも頷いた。
顔は笑っているけど、なんとなく信用ならない感じがして、サアラもついていきたいとはまったく思わなかった。
「ねぇ、行こうよ。まだ明るいし、お茶ならいいでしょ?」
「なに? 俺たち不審者に見える?」
「いいえ、そんなことはありませんが……」
「じゃあ、いいじゃない!」
首を横に振り続けるサアラに業を煮やして、ひとりがサアラの腕を掴んだ。
「痛っ。いやっ!」
サアラはビクッとして、手を振りほどこうとしたが、思ったよりきつく掴まれて引っ張っていかれそうになり、悲鳴を漏らす。
「助けが必要か?」
そこに穏やかな声がサアラの後ろから聞こえた。
「またお前か!」
「またアンタたちか。女を誘うのに、いつも二人って気持ちわりーな」
「なんだと!」
さり気なくサアラの腕を掴んでいる手を外しながら、冒険者風の男はせせら笑った。
「嫌がってる女の子を無理やり引っ張っていくのはどうかと思うが? 衛兵を呼ぼうか?」
サアラを自分の背中に隠しながら、後半はサアラに問いかけてくる。
「え、衛兵だなんて、大袈裟な」
「そうだよ。ナンパしてるだけで衛兵を呼ぶのか?」
「俺は他国人だからここの法律は知らんが、強引に女の子を連れ去ろうとするのは犯罪だろ」
「べ、別にそんなつもりは……」
「そこまで嫌がってなかったし、な?」
同意を求められて、サアラはブンブンと首を横に振る。
「嫌がってるみたいだが?」
あきれたように冒険者が言うと、悔しそうに睨みつけ、二人組はプイッと去っていった。
自分より強そうな者に向かっていくつもりはないらしい。
「あいつらからは碌でもない匂いがする。気をつけた方がいい」
「あ、ありがとうございます……!」
ちょっと怖かったサアラは、彼に感謝した。
「いいや、通りかかってよかったぜ。俺は野暮用で数日この街にいるだけだが、行き帰りの時間が一緒なんだな」
「本当に助かりました。あ、お名前を聞いてもいいですか? 私はサアラです」
「俺はダーシェ。冒険者をしている。ここには依頼で来たんだ」
「そうなんですね~」
やっぱり冒険者だったんだとサアラが頷くと、ダーシェは気がかりそうに彼女を見た。
「あんた、いつもあんなふうに絡まれてるのか?」
「いつもはレク……彼が送り迎えしてくれるから……」
「なるほどな。どうりで断り慣れてないと思った。ああいうのは無視して通りすぎるのがいいぜ。ちょっと質が悪そうだ」
「無視するなんて……」
そんなことできないと首を振ったサアラに、彼は目を眇める。
「自分が襲われるかもしれなくてもか?」
「襲われ……」
絶句したサアラに、ペンダントも同意した。
『そうよ! サアラ、さっき引っ張っていかれそうになってたじゃない! なんか変よ。あの二人。私に攻撃魔法が使えたら、やっつけちゃうのに!』
過激なことを言うペンダントを撫でながら、サアラは思い返した。
確かに、他の人は一人で声をかけてくるのに、あの人たちはいつも二人サアラを囲んで、肩を抱いてきたり、今みたいに手を引っ張ったり、ちょっとしつこすぎる。
青褪めたサアラに、ダーシェが聞いた。
「彼氏が戻ってくるのはいつなんだ?」
「週明けだと思います」
「週明けか……。ちょうどいいな。一銀貨でどうだ?」
「え?」
「一銀貨で行き帰りの護衛してやるよ。彼氏が戻ってくるまで」
思いがけない申し出に、サアラは目を瞬いた。
『サアラからお金を取るつもりなの!?』
ペンダントが騒いだけど、一銀貨はサアラのお給料でも払えるレベルだし、きっと格安なのだろう。
(お金を取ってもらった方が信用できるわ)
ダーシェが好意で言ってくれていると感じたサアラは頷いた。
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
「わかった。あんた、危なっかしいからな。他人のものをこれ以上心配したくない」
「?」
「いや、こっちの話だ。俺の周りにはなんで、危うい女の子ばかり集まるんだと思ってな」
ダーシェが苦笑した。
「それなら、都合がいいところまで送っていこう」
「ありがとうございます。じゃあ、まず一銀貨を」
サアラはお財布を出して、ダーシェに支払った。
「まいどあり」
彼は笑って受け取って、無造作に懐に入れた。
ダーシェと話しながら、街外れに向かう。
彼は普段は北の国に住んでいて、ここへは豪商の一人娘の話し相手に呼ばれたそうだ。
「まったく困った話で、護衛したときに、ちょっと遊んでやったら、気に入ったとか言われて、こんなところまで呼び出されたんだ」
どうやら相手は七歳の病弱な女の子で、豪商がダーシェを口説き落として、一週間だけ相手をすることになったらしい。
眉尻を落として話すダーシェに、ふふっとサアラは笑った。
「よっぽど懐かれたんですね~」
「七歳の女の子なんか、なにを話せばいいかわからんよ」
(きっと格好よくて優しいお兄さんが好きになっちゃったのね)
困ったと言いつつ、ちゃんと相手をしてやっていそうなダーシェを想像して、サアラはほんわかした。
でも、ダーシェは自分の話はいいと言うように表情を改めて、サアラを見た。
「それはそうと、彼氏が帰ってきたら、ちゃんとあの二人組のことを言うんだぞ?」
「は……い……」
歯切れ悪く返事をしたサアラを鋭い目で見て、ダーシェが言葉を重ねる。
「ちゃんと彼氏に対応してもらえ。なにかあってからじゃ遅いんだぞ? しかも、なにも知らされてなかった彼氏の気持ちを考えろ」
「あっ……」
サアラになにかあったら、レクルムが悲しむだろう。自分を責めるかもしれない。しかも、サアラからなにも聞いていなかったとしたら、どう思うだろう。
そう思い至って、サアラは俯いた。
「そう……ですね。ちゃんと話します」
頷いたサアラの頭をなだめるように、ポンポンとダーシェが叩いた。
「あ、ここでいいです。この先に魔法陣があるから」
「そういうことは言わない方がいい。悪用されたらどうするんだ」
「でも、このペンダントにしか反応しないから大丈夫です」
「だから、そんな余計なことは言うなって。俺が悪人かもしれないだろ」
「あ……。でも、いい人ですよね?」
『そうそう、むちゃくちゃいい人よ~』
サアラが言うと、ダーシェの服が答えて、本人は苦笑いを浮かべる。
「おせっかいなだけだ。それにしても、トーコといい、あんたといい、俺にすぐ気を許しすぎだ」
「だって、いい人なのが滲み出てますから」
「俺は別にいい人じゃないけどな」
不本意そうにつぶやいて、ダーシェは手を上げた。
「それじゃあな。明日も今朝と同じくらいにここに来たらいいか?」
「はい。それでお願いします。今日はありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして、サアラは魔法陣に向かった。
その夜、ダーシェには言われたけど、サアラはレクルムに伝えられなかった。
『もう、サアラ! レクルムに言うんじゃなかったの?』
「だって、今言うと、レクルムが仕事を放り出して、帰ってくるって言いそうなんだもん」
『確かにね~』
「だから、レクルムが帰ってきたら言うわ」
『絶対言うのよ?』
「うん」
ペンダントに約束させられて、サアラは素直に頷いた。
早ければ明後日には会えるかなと思っていたサアラはがっかりした。
「大変ですね。頑張ってください」
『早く帰りたいのになぁ。領主のやつ、こちらの弱みにつけ込んで……』
励ますサアラに不満そうなレクルム。
「弱み?」
『いや、なんでもないよ。権力を笠に着てってこと』
なぜか慌てたようにレクルムが言った。
今回の旅行に関して、彼がなにか隠しているようで、サアラは不安になった。
でも、レクルムの仕事のことでサアラが口出すことなどできない。
「そうなんですね。大変なんですね~」
『なるべく早く済ませて、帰るからね!』
「はい。待ってます」
レクルムとの通話を終えると、サアラは小さく溜め息をついた。
もともとは楽観的な彼女なのだが、このところはすぐ暗い想像をしてしまう。
夢のような生活だから、どうしてもこの夢が壊れてしまうことしか考えられない。
ひとりで暮らしてみて、あまりの自分の出来なさっぷりを痛感したからでもあった。
今日の夕食もうまく作れなかった。
(レクルムは私のどこを好きなんだろう?)
最初は絶対に同情からだと思う。
その気持ちが薄れたら、もしかして……と嫌な想像をしてしまうのだ。
(今回の旅行で素敵な人と出会ってしまうかもしれない。一緒に仕事をするうちに、やっぱりパメラさんの方がいいと思うかもしれない)
サアラはとにかく自信がなかった。
レクルムがそばにいたら、そんな気持ちも吹き飛ぶほど愛を伝えてくれるのだが、彼が数日いないだけで、こんなにもサアラは不安定になってしまう。そんな自分が彼女は不思議だった。
気を取り直して、就寝の準備をする。
睡眠不足なのも、憂鬱になる原因かもしれない。
そう思って目をつぶるけど、今日もぬくもりの足りないベッドでは、なかなか眠りは訪れてくれなかった。
翌朝、サアラが仕事に向かっていると、「あれ?」という声がした。
そちらを見ると、昨日助けてくれた人だった。
「あ、おはようございます。昨日はありがとうございました」
サアラはペコンとお辞儀をした。
「いや、大してなんもしてないし。あれからは大丈夫だったか?」
「おかげさまで大丈夫でした」
「よかったな」
ニカッと笑った顔はさわやかで親しみやすく、サアラは好感を持った。
「じゃあ、またな」
彼は曲がり角で大きな手を上げ、あっさりと去っていく。
(感じのいい人だなぁ)
なんとなくその後ろ姿を見つめる。
(レクルムと真反対のタイプね)
クスッと笑って、サアラは職場に向かった。
その日の仕事帰り、店を出るとまもなく昨日の二人組が現れた。どうやらサアラを待ち伏せしていたようだ。
「今日も彼氏はいないんだね」
「レクルムはまだ出かけたままなので」
「その間に一度くらい、俺たちに付き合ってよ」
「ごめんなさい。ダメって言われてるので」
「えぇー、なにその束縛。そんなの言うこと聞かなくていいじゃん」
「そうだよ。だいたい言わなきゃわかんないって」
サアラの行く手をニヤニヤとした二人が遮っているので、彼女は困った。
『なに、この人たち、気持ち悪いわね! サアラ、絶対についていっちゃダメよ?』
ペンダントが警戒するように言うと、サアラも頷いた。
顔は笑っているけど、なんとなく信用ならない感じがして、サアラもついていきたいとはまったく思わなかった。
「ねぇ、行こうよ。まだ明るいし、お茶ならいいでしょ?」
「なに? 俺たち不審者に見える?」
「いいえ、そんなことはありませんが……」
「じゃあ、いいじゃない!」
首を横に振り続けるサアラに業を煮やして、ひとりがサアラの腕を掴んだ。
「痛っ。いやっ!」
サアラはビクッとして、手を振りほどこうとしたが、思ったよりきつく掴まれて引っ張っていかれそうになり、悲鳴を漏らす。
「助けが必要か?」
そこに穏やかな声がサアラの後ろから聞こえた。
「またお前か!」
「またアンタたちか。女を誘うのに、いつも二人って気持ちわりーな」
「なんだと!」
さり気なくサアラの腕を掴んでいる手を外しながら、冒険者風の男はせせら笑った。
「嫌がってる女の子を無理やり引っ張っていくのはどうかと思うが? 衛兵を呼ぼうか?」
サアラを自分の背中に隠しながら、後半はサアラに問いかけてくる。
「え、衛兵だなんて、大袈裟な」
「そうだよ。ナンパしてるだけで衛兵を呼ぶのか?」
「俺は他国人だからここの法律は知らんが、強引に女の子を連れ去ろうとするのは犯罪だろ」
「べ、別にそんなつもりは……」
「そこまで嫌がってなかったし、な?」
同意を求められて、サアラはブンブンと首を横に振る。
「嫌がってるみたいだが?」
あきれたように冒険者が言うと、悔しそうに睨みつけ、二人組はプイッと去っていった。
自分より強そうな者に向かっていくつもりはないらしい。
「あいつらからは碌でもない匂いがする。気をつけた方がいい」
「あ、ありがとうございます……!」
ちょっと怖かったサアラは、彼に感謝した。
「いいや、通りかかってよかったぜ。俺は野暮用で数日この街にいるだけだが、行き帰りの時間が一緒なんだな」
「本当に助かりました。あ、お名前を聞いてもいいですか? 私はサアラです」
「俺はダーシェ。冒険者をしている。ここには依頼で来たんだ」
「そうなんですね~」
やっぱり冒険者だったんだとサアラが頷くと、ダーシェは気がかりそうに彼女を見た。
「あんた、いつもあんなふうに絡まれてるのか?」
「いつもはレク……彼が送り迎えしてくれるから……」
「なるほどな。どうりで断り慣れてないと思った。ああいうのは無視して通りすぎるのがいいぜ。ちょっと質が悪そうだ」
「無視するなんて……」
そんなことできないと首を振ったサアラに、彼は目を眇める。
「自分が襲われるかもしれなくてもか?」
「襲われ……」
絶句したサアラに、ペンダントも同意した。
『そうよ! サアラ、さっき引っ張っていかれそうになってたじゃない! なんか変よ。あの二人。私に攻撃魔法が使えたら、やっつけちゃうのに!』
過激なことを言うペンダントを撫でながら、サアラは思い返した。
確かに、他の人は一人で声をかけてくるのに、あの人たちはいつも二人サアラを囲んで、肩を抱いてきたり、今みたいに手を引っ張ったり、ちょっとしつこすぎる。
青褪めたサアラに、ダーシェが聞いた。
「彼氏が戻ってくるのはいつなんだ?」
「週明けだと思います」
「週明けか……。ちょうどいいな。一銀貨でどうだ?」
「え?」
「一銀貨で行き帰りの護衛してやるよ。彼氏が戻ってくるまで」
思いがけない申し出に、サアラは目を瞬いた。
『サアラからお金を取るつもりなの!?』
ペンダントが騒いだけど、一銀貨はサアラのお給料でも払えるレベルだし、きっと格安なのだろう。
(お金を取ってもらった方が信用できるわ)
ダーシェが好意で言ってくれていると感じたサアラは頷いた。
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
「わかった。あんた、危なっかしいからな。他人のものをこれ以上心配したくない」
「?」
「いや、こっちの話だ。俺の周りにはなんで、危うい女の子ばかり集まるんだと思ってな」
ダーシェが苦笑した。
「それなら、都合がいいところまで送っていこう」
「ありがとうございます。じゃあ、まず一銀貨を」
サアラはお財布を出して、ダーシェに支払った。
「まいどあり」
彼は笑って受け取って、無造作に懐に入れた。
ダーシェと話しながら、街外れに向かう。
彼は普段は北の国に住んでいて、ここへは豪商の一人娘の話し相手に呼ばれたそうだ。
「まったく困った話で、護衛したときに、ちょっと遊んでやったら、気に入ったとか言われて、こんなところまで呼び出されたんだ」
どうやら相手は七歳の病弱な女の子で、豪商がダーシェを口説き落として、一週間だけ相手をすることになったらしい。
眉尻を落として話すダーシェに、ふふっとサアラは笑った。
「よっぽど懐かれたんですね~」
「七歳の女の子なんか、なにを話せばいいかわからんよ」
(きっと格好よくて優しいお兄さんが好きになっちゃったのね)
困ったと言いつつ、ちゃんと相手をしてやっていそうなダーシェを想像して、サアラはほんわかした。
でも、ダーシェは自分の話はいいと言うように表情を改めて、サアラを見た。
「それはそうと、彼氏が帰ってきたら、ちゃんとあの二人組のことを言うんだぞ?」
「は……い……」
歯切れ悪く返事をしたサアラを鋭い目で見て、ダーシェが言葉を重ねる。
「ちゃんと彼氏に対応してもらえ。なにかあってからじゃ遅いんだぞ? しかも、なにも知らされてなかった彼氏の気持ちを考えろ」
「あっ……」
サアラになにかあったら、レクルムが悲しむだろう。自分を責めるかもしれない。しかも、サアラからなにも聞いていなかったとしたら、どう思うだろう。
そう思い至って、サアラは俯いた。
「そう……ですね。ちゃんと話します」
頷いたサアラの頭をなだめるように、ポンポンとダーシェが叩いた。
「あ、ここでいいです。この先に魔法陣があるから」
「そういうことは言わない方がいい。悪用されたらどうするんだ」
「でも、このペンダントにしか反応しないから大丈夫です」
「だから、そんな余計なことは言うなって。俺が悪人かもしれないだろ」
「あ……。でも、いい人ですよね?」
『そうそう、むちゃくちゃいい人よ~』
サアラが言うと、ダーシェの服が答えて、本人は苦笑いを浮かべる。
「おせっかいなだけだ。それにしても、トーコといい、あんたといい、俺にすぐ気を許しすぎだ」
「だって、いい人なのが滲み出てますから」
「俺は別にいい人じゃないけどな」
不本意そうにつぶやいて、ダーシェは手を上げた。
「それじゃあな。明日も今朝と同じくらいにここに来たらいいか?」
「はい。それでお願いします。今日はありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして、サアラは魔法陣に向かった。
その夜、ダーシェには言われたけど、サアラはレクルムに伝えられなかった。
『もう、サアラ! レクルムに言うんじゃなかったの?』
「だって、今言うと、レクルムが仕事を放り出して、帰ってくるって言いそうなんだもん」
『確かにね~』
「だから、レクルムが帰ってきたら言うわ」
『絶対言うのよ?』
「うん」
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