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【番外編】
サアラの初出勤
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結局、レクルムが厳選に厳選を重ねて、サアラの働き先は、女性ものの服屋になった。
サアラは働けたらどこでもよかったので、就職先が決まって、素直に喜んだ。
働きたいと言ってみたものの、自分を雇ってくれるところがあるか不安だったのだ。
この海辺の街は、色素の薄い者が多いので、サアラの容姿は取り立てて目立たず、気にする者はいなかった。それがわかって、サアラはほっとした。
そうした意味でも、気が楽でうれしかった。
「いらっしゃいませ~」
初出勤の日、ざっと仕事を説明された後、サアラはいきなり店頭に立たされていた。
緊張して立っていると、二人連れの女の子たちが店に入ってくる。
くすくす笑い合って楽しげで、サアラはうらやましく思った。
(そういえば、お友達いないなぁ)
今まで人と対等に交流したことがなかったサアラは、そんな関係に憧れの目を向ける。
「これ、かわいい!」
「ほんとだ! コニーに似合う!」
そんなサアラに構うことなく、一段と華やかな声を上げた二人に、取り上げられたブラウスは『そうでしょうとも! 私に目をつけるなんて、やるわね』と得意げだった。
「でも、これってどんなのが合うと思う?」
「んー、これとか?」
「う~ん」
女の子たちはあーでもないこーでもないと服を合わせていた。
『はいっ、は~い! 私よ、私! そのブラウスに合うのは、わ・た・し』
元気よく叫んだのはサアラの近くに置いてあったスカートだった。
サアラはそのスカートとブラウスを見比べると、おずおずとスカートを手に彼女たちに話しかけた。
「このスカートなんて、いかがでしょう?」
バッと二人の目線を集めて、緊張で手が震えてしまう。
真剣に吟味していた二人は、にぱっと笑った。
「いいじゃん!」
「お姉さん、センスある~!」
『ふ~ん、まぁまぁじゃない?』
『なによ、バッチリじゃない!』
女の子たちとブラウスにも認めてもらえたようで、サアラはほっと息をついた。
「ねぇねー、私にはどんなのが似合うと思う? かわいいワンピースを探してるんだけど」
小柄な女の子が話しかけてきた。
(この子に似合うのはどれかしら?)
サアラはぐるっと店を見回した。
『わたしよ!』
『私の方が似合うわよ!』
『絶対、私!』
あちこちから立候補されて、サアラは目をパチパチさせた。
騒いでるワンピースたち──中にはワンピースでないのもあった──を彼女と見比べて、二着選ぶと見せてみた。
「こちらなんて、いかがですか?」
コニーと呼ばれていた子の方が同意を示すように頷いて、当の本人は首を傾げた。
「そういう色とか形のワンピースは着たことないかも」
「でも、ノーマに似合いそうだよ?」
「そうかな?」
『似合うに決まってるわよ!』
「よかったら試着されますか?」
サアラが言うと、二人は顔を見合わせると「着てみる!」と声を揃えた。
結局、キャッキャッと試着をした二人は、それぞれ一着ずつ買っていってくれて、サアラは喜んだ。
黙って見ていた店主のセイレンが「やるじゃないか」と褒めてくれる。
魔道具を通じてその様子を見ていたレクルムもほっとした。
夕方になり、仕事が終えたサアラが店を出ると、レクルムが待っていた。
「お疲れさま」
「レクルム!」
サアラが彼に駆け寄り、「服たちがみんな助けてくれて、お客さんもいい人ばかりで、楽しかったの!」とうれしそうに報告する。
目を輝かせて彼を見上げるサアラがかわいすぎて、レクルムは彼女を抱きしめた。
「それでね、困っちゃった私がどうしようと思ってたらね、シャツがね……」
楽しげに今日の出来事を報告してくれるサアラと手を繋いで、レクルムたちは街外れに向かった。レクルムは魔道具でつぶさに見ていたが、当然初めて知ったような顔で、彼女の話を聞いていた。
魔法陣に着いたら、一瞬で帰宅だ。
帰り着いたら、疲れているだろうからとサアラをソファーに座らせて、レクルムがお茶を用意してくれる。
レクルムは二人分のカップをテーブルに置くと、サアラの横に座り、彼女を引き寄せた。
「改めて、サアラ、お疲れさま。楽しそうでよかったよ」
「うん、楽しかった」
「ずっと立ちっぱなしだったでしょ? 足は大丈夫?」
心配するレクルムに、サアラはにっこり笑う。
「こんなの全然大丈夫ですよ? 孤児院にいたときは、朝から晩まで下水の掃除とか家畜の世話とか身体を動かしていたから、こう見えて、体力はあるんですよ?」
さらりとハードなことを言うサアラにレクルムは言葉に詰まる。自分と会う前のサアラのことは孤児院の職員から聞いた話と、彼女がたまに漏らすエピソードのことしか知らない。
それだけでも十分過酷な状況だったと思われ、考えても詮無いことだが、レクルムは当時のサアラをたすけたいと思ってしまう。
微かに眉を下げたレクルムの様子を見て、サアラが慌てて、言葉を重ねる。
「気にしないでください。体を動かすのは好きなんで、そんなに苦ではなかったんですよ」
健気なサアラを抱きしめて、もう絶対につらい思いはさせないと心に誓うレクルムだった。
サアラのコーディネートはなかなか評判がよく、彼女は読み書き、計算もできるので、そういう面でも重宝された。
毎日、ほんのちょっとの距離なのに、レクルムは送り迎えをしてくれた。
そして、休みの日には二人でのんびりと過ごす。
ずっと一緒にいるのも幸せだけど、こうして離れている時間もあると、また会えたときに幸福感が増すことをサアラは発見した。
サアラは働けたらどこでもよかったので、就職先が決まって、素直に喜んだ。
働きたいと言ってみたものの、自分を雇ってくれるところがあるか不安だったのだ。
この海辺の街は、色素の薄い者が多いので、サアラの容姿は取り立てて目立たず、気にする者はいなかった。それがわかって、サアラはほっとした。
そうした意味でも、気が楽でうれしかった。
「いらっしゃいませ~」
初出勤の日、ざっと仕事を説明された後、サアラはいきなり店頭に立たされていた。
緊張して立っていると、二人連れの女の子たちが店に入ってくる。
くすくす笑い合って楽しげで、サアラはうらやましく思った。
(そういえば、お友達いないなぁ)
今まで人と対等に交流したことがなかったサアラは、そんな関係に憧れの目を向ける。
「これ、かわいい!」
「ほんとだ! コニーに似合う!」
そんなサアラに構うことなく、一段と華やかな声を上げた二人に、取り上げられたブラウスは『そうでしょうとも! 私に目をつけるなんて、やるわね』と得意げだった。
「でも、これってどんなのが合うと思う?」
「んー、これとか?」
「う~ん」
女の子たちはあーでもないこーでもないと服を合わせていた。
『はいっ、は~い! 私よ、私! そのブラウスに合うのは、わ・た・し』
元気よく叫んだのはサアラの近くに置いてあったスカートだった。
サアラはそのスカートとブラウスを見比べると、おずおずとスカートを手に彼女たちに話しかけた。
「このスカートなんて、いかがでしょう?」
バッと二人の目線を集めて、緊張で手が震えてしまう。
真剣に吟味していた二人は、にぱっと笑った。
「いいじゃん!」
「お姉さん、センスある~!」
『ふ~ん、まぁまぁじゃない?』
『なによ、バッチリじゃない!』
女の子たちとブラウスにも認めてもらえたようで、サアラはほっと息をついた。
「ねぇねー、私にはどんなのが似合うと思う? かわいいワンピースを探してるんだけど」
小柄な女の子が話しかけてきた。
(この子に似合うのはどれかしら?)
サアラはぐるっと店を見回した。
『わたしよ!』
『私の方が似合うわよ!』
『絶対、私!』
あちこちから立候補されて、サアラは目をパチパチさせた。
騒いでるワンピースたち──中にはワンピースでないのもあった──を彼女と見比べて、二着選ぶと見せてみた。
「こちらなんて、いかがですか?」
コニーと呼ばれていた子の方が同意を示すように頷いて、当の本人は首を傾げた。
「そういう色とか形のワンピースは着たことないかも」
「でも、ノーマに似合いそうだよ?」
「そうかな?」
『似合うに決まってるわよ!』
「よかったら試着されますか?」
サアラが言うと、二人は顔を見合わせると「着てみる!」と声を揃えた。
結局、キャッキャッと試着をした二人は、それぞれ一着ずつ買っていってくれて、サアラは喜んだ。
黙って見ていた店主のセイレンが「やるじゃないか」と褒めてくれる。
魔道具を通じてその様子を見ていたレクルムもほっとした。
夕方になり、仕事が終えたサアラが店を出ると、レクルムが待っていた。
「お疲れさま」
「レクルム!」
サアラが彼に駆け寄り、「服たちがみんな助けてくれて、お客さんもいい人ばかりで、楽しかったの!」とうれしそうに報告する。
目を輝かせて彼を見上げるサアラがかわいすぎて、レクルムは彼女を抱きしめた。
「それでね、困っちゃった私がどうしようと思ってたらね、シャツがね……」
楽しげに今日の出来事を報告してくれるサアラと手を繋いで、レクルムたちは街外れに向かった。レクルムは魔道具でつぶさに見ていたが、当然初めて知ったような顔で、彼女の話を聞いていた。
魔法陣に着いたら、一瞬で帰宅だ。
帰り着いたら、疲れているだろうからとサアラをソファーに座らせて、レクルムがお茶を用意してくれる。
レクルムは二人分のカップをテーブルに置くと、サアラの横に座り、彼女を引き寄せた。
「改めて、サアラ、お疲れさま。楽しそうでよかったよ」
「うん、楽しかった」
「ずっと立ちっぱなしだったでしょ? 足は大丈夫?」
心配するレクルムに、サアラはにっこり笑う。
「こんなの全然大丈夫ですよ? 孤児院にいたときは、朝から晩まで下水の掃除とか家畜の世話とか身体を動かしていたから、こう見えて、体力はあるんですよ?」
さらりとハードなことを言うサアラにレクルムは言葉に詰まる。自分と会う前のサアラのことは孤児院の職員から聞いた話と、彼女がたまに漏らすエピソードのことしか知らない。
それだけでも十分過酷な状況だったと思われ、考えても詮無いことだが、レクルムは当時のサアラをたすけたいと思ってしまう。
微かに眉を下げたレクルムの様子を見て、サアラが慌てて、言葉を重ねる。
「気にしないでください。体を動かすのは好きなんで、そんなに苦ではなかったんですよ」
健気なサアラを抱きしめて、もう絶対につらい思いはさせないと心に誓うレクルムだった。
サアラのコーディネートはなかなか評判がよく、彼女は読み書き、計算もできるので、そういう面でも重宝された。
毎日、ほんのちょっとの距離なのに、レクルムは送り迎えをしてくれた。
そして、休みの日には二人でのんびりと過ごす。
ずっと一緒にいるのも幸せだけど、こうして離れている時間もあると、また会えたときに幸福感が増すことをサアラは発見した。
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