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16. 思い知って?

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「バカじゃないの! 『好きなようにしていい』なんて、絶対男に言っちゃダメなやつでしよ!」

 脱力したレクルムは、サアラの肩口に顔をうずめた。

「ご、ごめんなさい……」

 サアラがシュンとして謝るから、「バカじゃないの……」とレクルムはもう一度つぶやいて、彼女に口づけ、髪を撫でた。
 口調の割に、そのしぐさはとても優しい。

「そんなことを言うと、どうなっちゃうのか、身をもって思い知って?」

 そう言うと、レクルムはゆっくり腰を動かし始めた。

「えっ………あっ、ん………んっ……」

 そこにはもう痛みはなく、とてつもない快感が生まれて、サアラは喘いだ。
 その様子に安心したレクルムは動きを早める。

(中が擦られるだけで、なんでこんなに気持ちがいいんだろう)

 サアラは揺さぶられながら、不思議に思う。
 彼にしがみついているので、合わさった胸が擦れてそこからも刺激を受ける。
 全身でレクルムのことを感じて、サアラは幸せだった。
 でも、それだけじゃない。

 こうして繋がって、レクルムが自分に夢中になってくれている。それがうれしくて愛しくてたまらない。
 そう思うだけで、サアラの中はキュッと締まって、レクルムは呻き声をあげた。

「ちょっと、サアラ、気持ちよすぎるよ……」

 ハァ……と色っぽい吐息を漏らし、レクルムが言う。

「ご、ごめ……」
「謝る必要ないって!」

 そう言って、彼女の唇を自分のもので塞ぎ、胸を弄り始める。
 両手で捏ねるように揉まれ、乳首を摘まれながら、腰を打ちつけられると、一気に快感が増して、サアラの背筋をゾワゾワと甘い痺れが走る。

「ん~~! んっ………んんっ………ん~~~っ」

 身体中が熱くて、なにかが爆発しそうっと思ったとき、ビクビクビクッと身体が震え、弾けた。

 レクルムは唇を離し、荒い息をつくサアラを楽しげに眺めた。
 サアラが果てたというのに、彼の手は相変わらず彼女の胸をもて遊び、腰は動きを止めない。

「あぁん、レク……ルム、はっ、あん……だめ、今、だめ……」

 いやいやをするようにサアラは首を振るけど、レクルムは「そんなに気持ちいい?」と笑って、彼女を追い立てる。
 それどころか、彼女の脚を持ち上げ、パンパンと深くまで突き立てた。

「あっ………はぁ……ん、あっ、やっ、あ~~~っ」

 サアラは目の前がチカチカしてきて、続けて盛大にイってしまった。
 そのタイミングでお腹の奥で熱いものが迸るのを感じる。

「ハァ……、サアラがあまりに気持ちいいから出ちゃった」

 レクルムが苦笑して、サアラの乱れた髪を掻き上げる。
 放心状態の彼女は、ほけ~っとその美しい顔を見上げた。

「でた?」
「うん。僕の子種。この中にたっぷりと出た」

 レクルムは彼女の手を取って、未だに彼のものが入ったままのお腹を撫でさせる。そこはまだピクピク痙攣していた。
 目を瞬いたサアラはようやく意味が頭に伝わったようで、「じゃあ、赤ちゃん、できちゃうんですか!?」と慌てた。

「さすがに今はまずいから、できないようにしとくよ」

 レクルムはそう言って、なにやらつぶやいた。
 ほっとして力を抜いたサアラは、のん気に感心して言った。

「そんなこともできるんですねー。魔法ってすごいです」

 そんなサアラの頬を撫でて、レクルムは艶然と笑って彼女を流し見た。

「うん、だから、安心して抱かれて?」 
「えっ?」
「思い知ってって言ったでしょ? 一度で終わるわけがないよ」
「えぇ?」

 宣言通り、レクルムはまた腰を打ちつけ始めた。今度は最初からトップスピードで。



 ハッ……ハッ……

 短い息を吐いて、レクルムが腰を動かす。
 もう何度達したのだろう。
 サアラは快楽で脳が蕩けてしまいそうになっていた。
 それなのに、中が擦れるたびに新たな快感がとめどもなく湧いてきて、サアラは甘い吐息を漏らした。

「レクルム……」

 彼の名を呼ぶと、甘く蕩けた瞳が彼女を見下ろし、ついばむようなキスが落ちてくる。
 なんて幸せな時間なんだろうとサアラはぼんやり思った。
 
(私をたすけるために始めたんだとわかってるけど、こんなに優しくされたら勘違いしちゃうわ……)

 サアラは未だにレクルムが彼女を生け贄にしないためだけに抱いていると思っていた。
 彼の想いは全然伝わっていなかった。



 二人一緒に達したあと、サアラは「そろそろテントに戻らないと」とつぶやいた。
 いつまでもこうしていたいけど、もうすぐ夜明けだった。
 しぶしぶ彼女から出たレクルムは、「もう戻る必要なくない?」と不満そうだった。

「そういう訳にはいきません。約束したから」

 散らばっていた服を取り上げながら、サアラは言う。
 彼女は意外と頑固だった。

 立った彼女の内腿をつぅーっと白濁したものが伝ってきて、レクルムが慌てて布で拭いてくれる。そこに血が混じっているのを見て、「ごめん。今さらだけど、身体大丈夫?」とサアラを案じた。

「大丈夫ですよ」

 本当は腰がだるくて、股関節が痛かったけど、それも幸せの名残りだとサアラはにっこりした。

(これからどうなるかわからないけど、この幸福な記憶だけで生きていけるわ……)

 身支度を整えると、サアラはペコンとお辞儀をした。

「…………とても幸せでした。ありがとうございました。あ、ペンダント返しますね。よかった。返せて」

 潤んだ瞳でにっこり微笑み、ペンダントを渡してきた彼女に、レクルムは唖然とした。

「ちょっと待って。なにそれ。なんで過去形なの?」
「え、だって、ここでお別れなんじゃ……」
「なんで! 君は僕のことが好きなんでしょ!?」

 そう聞かれて、サアラは頬を染める。
 その様子はとてもかわいい。しかも、事後の物憂げな様子と腫れた唇が色気を醸し出していた。
 でも、彼女は首を振った。

「そんなこと、気にしないでください」
「気にするよ!」
「レクルムは優しいですね。心配しなくても私は大丈夫ですから……」

 これ以上、自分に付き合わせるのは申し訳ないとサアラは思っていた。彼女のために職を追われてしまった彼にこれ以上の負担をかけたくないと思ったのだ。

「ちょっと待って。僕のこと、嫌いになったの? やりすぎた? だから、嫌になったの?」

 レクルムは焦っていた。想いが通じたと思っていたのに、自分は振られようとしているのかと。
 しかし、サアラはキョトンとして、否定する。

「そんなわけありません。あなたを嫌いになることなんてあり得ません」
「じゃあ、なんで!」

 決定的にすれ違っている二人に、ペンダントがあきれたようにつぶやいた。

『あなたたち、バカね……。レクルムの気持ちを聞いてみたら?』
「レクルムの気持ち?」

 ペンダントの言葉を繰り返したサアラの声に、レクルムは「そっか、今後の計画を話してなかったね」と意気込んで言う。

「このまま隣国に抜けていこう。隣国には災害が及んでいないみたいだし、サアラは海が気に入ってたみたいだから、カルームみたいな海辺の街に住もうよ。海辺が嫌なら他のところでもいい。お金ならそれなりにあるから気にしないで。僕は魔道具を作れるから、普通に稼げるだろうし」
「えっ?」

 やけに早口なレクルムの言い方だと『二人で』というように聞こえる。
 海辺の街でレクルムと二人で暮らそうと。

(そんな素敵なこと、きっと気のせいよ。勘違いだわ)

 サアラは、他の解釈があるはずだと考え込んだ。
 反応の悪いサアラに、とうとうレクルムは暗い瞳になって、切なそうに彼女を見つめた。

「それとも……君は、僕と一緒にいるのは嫌なの?」
「違う! そんなことありません! 一緒にいてくれるんですか……?」

 信じられないとばかりに彼を見つめるサアラに、レクルムは彼女の二の腕を掴んで顔を近づける。

「僕は一緒にいたいよ!」
「どうして? どうしてレクルムは私と一緒にいようとしてくれてるんですか?」

 口にして、それが一番の疑問だったのに思い当たる。

「どうしてって、好きな子と一緒にいたいなんて当たり前じゃない?」
「好きな子?」

 びっくり顔のサアラに、サーッとレクルムは青褪める。

「ちょっと待って! そこから? え、だって、じゃあ、さっきまでのは? 僕が君をなんとも思ってないのに抱いてたと思ってたの?」
「え、だって、たすけるって、それでだと思って……違うんですか?」
「ちょっと待ってよ……」

 二人で混乱して互いを見つめ合う。
 はぁぁぁとレクルムは深い溜め息をついて、頭を抱えた。

「えっ、本当に伝わってなかったの? ウソでしょ!? いっぱいしたでしょ? たすけるだけなら、一度でいいはずでしょ?」

 そう言われてサアラはぱっと赤くなる。
 その頬を両手で挟んで、レクルムは目を合わせた。

「君がいない世界は意味がないって言ったでしょ? あれ、言ってなかったっけ? でも、君が世界一かわいいと思うとか、君は綺麗でかわいくて愛しいとか……君を離したくないとか……言ってないね……。マジか……。思ったより、僕は言葉を口に出してないみたいだ……」

 自分の行動を振り返って、レクルムはショックを受けた。
 
(独りよがりに行動して、サアラに誤解させたまま抱いていたなんて、本当にバカじゃないの!) 

「ごめん。今度からもっと口にするように心がけるよ」
「い、いえ、もうそのくらいで……」

 真顔で告げられるレクルムの甘く熱烈な言葉に、サアラは頭がパンクしそうだった。

(レクルムが私を好き? 本当に?)

 そんな幸せなことってあるのかしらとサアラは現実を疑った。でも、ひたっと熱く彼女を見つめる菫色の瞳には嘘はなかった。

「でも、考えてみてよ。好きな子のためじゃなかったら、僕がこんなに必死になるわけないでしょ?」

 『好きな子』……。ジーンとして、サアラは胸を押さえた。
 その反応に、「ん?」とレクルムが彼女の顔をまた覗き込む。
 今のどこが気に入ったんだろうと思ったのだ。
 顔が近くて、サアラは頬を染める。

「かわいい」

 そうつぶやいて、彼はサアラを抱き寄せた。
 タガが外れた彼はナチュラルに甘すぎて、サアラは心臓が壊れそうだった。

(でも、普通に好きって言ってくれたらいいのに……)

 どことなく不満げなのがレクルムに伝わって、「なに?」と聞かれる。
 なんでもないと首を振るけど、彼は逃してくれず、指で頬をくすぐりながら、顔を近づけてきた。
 
 チュッ……。

「言って? 言ってくれるまでキスをやめないよ? 僕はそれでもいいけど」

 艶っぽい瞳で見られて、ボンとサアラの顔が沸騰する。
 
 チュッ……チュッ……。

 宣言通り、キスを続けるレクルムに、「ま、待って、言うから! ちゃんと言います!」と彼の口を両手で塞ぐ。
 レクルムはその手を掴んで、手のひらにまで口づける。

「そう? ちなみに、今はサアラがかわいすぎて、もう一度抱きたいと思ってる」
「そんなことは言わなくて大丈夫です!」
「じゃあ、なにを言ってほしいの?」

 そう言われて、サアラは真っ赤なままモジモジとつぶやいた。

「好きって……言って、ほしいです……」

 彼女の言葉にレクルムは額に手を当てた。

(バカじゃない!? それも言ってなかったの? 頭の中では何度も言ってたのに……)

 自分はなんて不誠実な男なんだと目眩がして、サアラに申し訳なく思う。
 そして、気を取り直した彼は、改めて彼女の瞳を見つめて、言った。
 
「好きだよ、サアラ。君のすべてが愛しい」

 朝焼け色の瞳が潤んで、決壊した。
 レクルムは彼女を抱き寄せ、唇でその涙を拭った。

「レクルム、好き……」

 涙ながらにサアラが訴えると、彼は本当に幸せそうな顔をして微笑んだ。

「僕も好きだよ、サアラ」




 二人が何度もキスを交わしていると、グラッと地面が揺れた。
 レクルムはとっさにサアラをかばい、結界を張る。

 ドンッ、ガラガラガラ……。

 洞窟の奥の方で、なにかが崩れる音がした。

『たすけて……』

 なにかの声が聞こえた気がして、サアラは耳を澄ませた。

「どうしたの?」

 レクルムが腕の中のサアラを見る。

「今、なにかが聞こえた気がして……」

『たすけて……だれか……』

 小さな女の子のような声がした。

「あ、ほら!」
「なにも聞こえないけど……」
「じゃあ、物の声なのかしら?」

 サアラが首を傾げて、洞窟の奥へ向かう。

「サアラ、あまり奥に行くと危ないよ」
「でも……。誰かいるんですか?」

『たすけて……!』

 サアラの呼びかけに女の子の声が答えた。

「レクルム! 誰かが助けを求めてます!」

 振り返ったサアラの手をレクルムが握る。

「行ってみよう」

 二人は手を取り合って、洞窟の奥へ進んだ。


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