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11. この腕の中にいれば安心
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サアラはレクルムに抱きしめられて、ほぉっと肩の力を抜いて身を預けた。
もう怖くない、もう痛くない。
この腕の中にいれば、安心。
悲しい想いも嫌だったことも全部消えていく。そう思えた。
サアラは不思議だった。
先ほどはあんなに触られるのが不快だったのに、相手がレクルムだと全然嫌じゃない、むしろ、もっと触れられたいと思ってしまう。
あの男に変なもので擦られていたところがジンと疼いた。初めての感覚にサアラは戸惑った。
(男の人はアレを擦りつけると気持ちいいのかな? レクルムも?)
ベッドに教わった子づくりの話を思い出す。
(穴に入れなくても、擦るだけで気持ちいいのかしら?)
あの人ほど硬くも大きくもなかったが、熱い塊が下着越しにお腹に当たっていた。
(レクルムのだったら、擦りつけられてもいいわ)
彼の胸に頬をすり寄せながら、サアラは思った。
彼女がそんなことを考えているとは露知らず、レクルムは優しくその髪を撫でた。
離れがたくて二人はしばらく抱き合っていたが、先にレクルムが我に返った。
「…………時間がないんだった。出よう」
彼は身を離し、サアラの傷ひとつなくなった綺麗な身体をチラッと見て、顔をそむけた。
耳が赤くなっている。
それでも、彼女の手は離さず、風呂場を出る。脱衣場で身体を拭いてやり、タオルで彼女を包んだ。
レクルムはサアラに着替えを持ってくると、自分も着替えて、二人はソファーに落ち着いた。
ソファーに横並びに座っても、サアラはぺったりとレクルムにひっついていた。それを彼も許してくれている。
(本当に優しいよね)
顔を彼の胸にうずめていると、トクントクンと落ち着く鼓動が聞こえて、彼の匂いに包まれる。
(ずっとこうしていられたらいいのに……)
できるはずのないことをサアラは願ってしまった。
そんなかわいいサアラをレクルムは押し倒したくて仕方がなかった。それに彼女を助けるのには一番手っ取り早い方法だった。
───彼女を奪ってしまえば生け贄の価値はなくなる。
(でも、彼女は僕に懐いてるだけだ。そんなことをしたらズークハイムと一緒になってしまう……)
結局、レクルムはありったけの理性を掻き集めるしかなかった。
そして、すっかり落ち着いたサアラの首に、彼は自分のペンダントをかけた。
「このペンダントをつけてて。防御魔法が入れ込んであるから、さっきみたいなときに自動で発動するよ」
『そんな! だめよ! わたしはあなたのご両親の形見なのに!』
ペンダントが驚いたように叫んだ。
それを聞いたサアラも慌てて、首を振る。
「ダメです! この子はご両親の形見なんでしょ? そんな大切なもの!」
「形見? 確かに赤ん坊の頃から持ってるけど、形見かどうかはわからない。僕は拾われた子だったから。どうして君が知ってるの?」
『あなたが生まれたとき、その紫の瞳を見て、同じ色のわたしをご両親が贈ったのよ』
「ペンダントが言ってるんです。あなたが生まれたときに、その瞳に合わせてご両親が贈ったんだって」
「ペンダントが?」
レクルムが初めてサアラの能力について触れ、彼女が初めて答えた。
「はい。私、物の言葉が聞こえるんです。…………気持ち、悪い、ですか?」
彼は違うと思うものの、サアラの声は震えた。
「別に」
言葉はそっけないものの、レクルムはサアラの頬をなだめるように撫でた。
ほっと息を吐いて、サアラはペンダントの語る言葉を伝えた。
『わたし、レクルムのご両親のことも知ってるわ!』
「あなたのご両親のこと、知ってるそうです」
「そう、なんだ……」
顔も知らない両親のことをこんな形で知るとは、とレクルムは感慨深く思う。
「それは興味深いけど、今は時間がないから、今度ゆっくり聞かせて」
『ずっと言いたかったの。伝えてくれて、ありがとう』
ペンダントがうれしそうにきらめいた。
同じ色の瞳をきらめかせて、レクルムが言った。
「それにしても、君は本当に聖女だったんだね」
「聖女かどうかはわかりませんが、あの伝承にはかなり当てはまると思います。だから……」
サアラがすべてを受け入れているように言うので、レクルムは冗談じゃないと反論しようとした。
「そうだとしても……!」
そのとき、コンコンとノックの音がした。
衛兵が痺れを切らして、早く出てくるように言っているようだった。
ハッと二人は顔を見合わせて、見つめ合った。
「レクルム、私のせいで捕まっちゃうんですか?」
「僕は大丈夫。それより、このペンダントを肌身離さず持っててね」
「でも……」
「じゃあ、取りに行くまで預かってて。その間、それが君を守ってくれるから。わかった?」
それなら……と頷きかけて、「取りに来てくれるの?」と目を見開く。
「どうやって?」
にこりと笑ったレクルムはそれに答える代わりに、サアラの額にキスをした。
ドンドンッ
ノックの音が強くなって、レクルムは扉を開けた。
「お待たせ」
レクルムが出ていくと、衛兵はほっとした顔をして、彼を拘束した。魔術師専用の拘束具に囚われたのにもかかわらず、彼は口角を上げた。
「レクルム!」
サアラがその背中に抱きつくと、「聖女はこちらに」とやんわり衛兵に引き剥がされる。
「彼女の警備を頼んだよ?」
「わかってる」
瞳いっぱいに涙を溜めたサアラを残して、レクルムは連れていかれた。
もう怖くない、もう痛くない。
この腕の中にいれば、安心。
悲しい想いも嫌だったことも全部消えていく。そう思えた。
サアラは不思議だった。
先ほどはあんなに触られるのが不快だったのに、相手がレクルムだと全然嫌じゃない、むしろ、もっと触れられたいと思ってしまう。
あの男に変なもので擦られていたところがジンと疼いた。初めての感覚にサアラは戸惑った。
(男の人はアレを擦りつけると気持ちいいのかな? レクルムも?)
ベッドに教わった子づくりの話を思い出す。
(穴に入れなくても、擦るだけで気持ちいいのかしら?)
あの人ほど硬くも大きくもなかったが、熱い塊が下着越しにお腹に当たっていた。
(レクルムのだったら、擦りつけられてもいいわ)
彼の胸に頬をすり寄せながら、サアラは思った。
彼女がそんなことを考えているとは露知らず、レクルムは優しくその髪を撫でた。
離れがたくて二人はしばらく抱き合っていたが、先にレクルムが我に返った。
「…………時間がないんだった。出よう」
彼は身を離し、サアラの傷ひとつなくなった綺麗な身体をチラッと見て、顔をそむけた。
耳が赤くなっている。
それでも、彼女の手は離さず、風呂場を出る。脱衣場で身体を拭いてやり、タオルで彼女を包んだ。
レクルムはサアラに着替えを持ってくると、自分も着替えて、二人はソファーに落ち着いた。
ソファーに横並びに座っても、サアラはぺったりとレクルムにひっついていた。それを彼も許してくれている。
(本当に優しいよね)
顔を彼の胸にうずめていると、トクントクンと落ち着く鼓動が聞こえて、彼の匂いに包まれる。
(ずっとこうしていられたらいいのに……)
できるはずのないことをサアラは願ってしまった。
そんなかわいいサアラをレクルムは押し倒したくて仕方がなかった。それに彼女を助けるのには一番手っ取り早い方法だった。
───彼女を奪ってしまえば生け贄の価値はなくなる。
(でも、彼女は僕に懐いてるだけだ。そんなことをしたらズークハイムと一緒になってしまう……)
結局、レクルムはありったけの理性を掻き集めるしかなかった。
そして、すっかり落ち着いたサアラの首に、彼は自分のペンダントをかけた。
「このペンダントをつけてて。防御魔法が入れ込んであるから、さっきみたいなときに自動で発動するよ」
『そんな! だめよ! わたしはあなたのご両親の形見なのに!』
ペンダントが驚いたように叫んだ。
それを聞いたサアラも慌てて、首を振る。
「ダメです! この子はご両親の形見なんでしょ? そんな大切なもの!」
「形見? 確かに赤ん坊の頃から持ってるけど、形見かどうかはわからない。僕は拾われた子だったから。どうして君が知ってるの?」
『あなたが生まれたとき、その紫の瞳を見て、同じ色のわたしをご両親が贈ったのよ』
「ペンダントが言ってるんです。あなたが生まれたときに、その瞳に合わせてご両親が贈ったんだって」
「ペンダントが?」
レクルムが初めてサアラの能力について触れ、彼女が初めて答えた。
「はい。私、物の言葉が聞こえるんです。…………気持ち、悪い、ですか?」
彼は違うと思うものの、サアラの声は震えた。
「別に」
言葉はそっけないものの、レクルムはサアラの頬をなだめるように撫でた。
ほっと息を吐いて、サアラはペンダントの語る言葉を伝えた。
『わたし、レクルムのご両親のことも知ってるわ!』
「あなたのご両親のこと、知ってるそうです」
「そう、なんだ……」
顔も知らない両親のことをこんな形で知るとは、とレクルムは感慨深く思う。
「それは興味深いけど、今は時間がないから、今度ゆっくり聞かせて」
『ずっと言いたかったの。伝えてくれて、ありがとう』
ペンダントがうれしそうにきらめいた。
同じ色の瞳をきらめかせて、レクルムが言った。
「それにしても、君は本当に聖女だったんだね」
「聖女かどうかはわかりませんが、あの伝承にはかなり当てはまると思います。だから……」
サアラがすべてを受け入れているように言うので、レクルムは冗談じゃないと反論しようとした。
「そうだとしても……!」
そのとき、コンコンとノックの音がした。
衛兵が痺れを切らして、早く出てくるように言っているようだった。
ハッと二人は顔を見合わせて、見つめ合った。
「レクルム、私のせいで捕まっちゃうんですか?」
「僕は大丈夫。それより、このペンダントを肌身離さず持っててね」
「でも……」
「じゃあ、取りに行くまで預かってて。その間、それが君を守ってくれるから。わかった?」
それなら……と頷きかけて、「取りに来てくれるの?」と目を見開く。
「どうやって?」
にこりと笑ったレクルムはそれに答える代わりに、サアラの額にキスをした。
ドンドンッ
ノックの音が強くなって、レクルムは扉を開けた。
「お待たせ」
レクルムが出ていくと、衛兵はほっとした顔をして、彼を拘束した。魔術師専用の拘束具に囚われたのにもかかわらず、彼は口角を上げた。
「レクルム!」
サアラがその背中に抱きつくと、「聖女はこちらに」とやんわり衛兵に引き剥がされる。
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「わかってる」
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