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10. もう二度と会えない
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今日にかぎって、ボタンの多いワンピースで、サアラはプチプチとボタンを外していく。
「早くしたまえ」
「はい、すみません」
イライラしたようにズークハイムが急かすので、サアラは焦って、余計時間がかかってしまう。
『落ち着いて、がんばって~』
ワンピースが応援してくれる。
うん、と小さく答えて、ようやくボタンを外すと、ストンとワンピースが滑り落ち、サアラは下着姿になった。
「………ッう!」
いきなり胸を鷲掴みされ、サアラは声を漏らした。
「な、に……?」
「検査だ。やせすぎだが、胸はあるんだな」
「けんさ……」
すごく嫌な感じだけど、検査なら耐えないといけないのかなと、サアラは唇を噛んだ。
ズークハイムの手は、ブラジャーの中に潜り込み、胸を揉む。
「イタッ!」
乳首をひねられて、サアラは悲鳴をあげた。
「痛いか? そのうち善くなる」
「よく?」
なにをする検査なのか、さっぱりわからなかったけど、どうせしないといけないのならレクルムにしてほしかったと彼女は思った。
人に触られるのが、こんなに不快だとは思わなかった。
「これ邪魔だな」
ブラジャーを外そうとして、うまく外れなかったようで、ズークハイムはそれを切り裂いた。
「やっ、ダメッ!」
『キャー!』
せっかくレクルムに買ってもらったのにと声をあげたサアラとブラジャーの悲鳴が重なった。
「うるさいっ!」
バシッ! ズタンッ!
頬に熱いものが当たったと思った。
殴り倒されたのだとわかったのは、床に身体を打ちつけたときだった。
脳震盪を起こしたのか、サアラは頭がクラクラした。
そこにズークハイムが馬乗りになって、彼女の身体を押さえつける。
(検査じゃない!)
ようやく鈍いサアラにも自分が襲われているのがわかった。
「いやぁっ!」
また痛いぐらいに強く胸を揉まれて、サアラは抵抗しようとした。
「黙れっ!」
パシッと頬を叩かれた。
それでも必死にサアラがもがくと、さらに数発殴られた。
「かわいがってやるだけだ。聖女だから挿れられないが、やりようはあるからな」
凶悪な嗤いを浮かべ、ズークハイムは嫌がるサアラのショーツを下ろすと、そこに自分の股間を押しつけてきた。
「まったく聖女がこんな上玉だって知っていたら、私が行って、毎晩かわいがってやったのに」
ゾッとすることをズークハイムは言い、あまりの拒否感にサアラは吐き気がした。
身体を弄ばれる不快さと恐怖と痛みで、ポロポロと涙が流れる。
(ヤダ! ヤダ! ヤダ!)
首を激しく振って、全力で拒否を示すと、それを見て、彼はますます楽しげに嗤った。
「いいねえ、その顔。ゾクゾクする。もっと啼け!」
指の跡がつくほど強く胸を掴まれ、乳首に歯を立てられる。
「うぅッ、いやっ、やめてっ!」
痛いのに、脚の間を擦られて、変な気分になってくる。
硬く熱いものが当たっていて、ヌルヌル動いた。
気持ち悪くて逃れようと暴れるけど、男の力は強く、逆に両手をひとまとめに掴まれて、頭の上に固定される。
もう一方の手は相変わらず、胸の上を這っていて、先ほど噛まれたのと反対側の乳首も噛まれて引っ張られる。
「やだっ、ヤダッ!」
パンッ!
また叩かれ、頬が熱を持った。
(やだっ! だれか……だれか、助けて……! 助けて…………レクルム……!)
サアラは泣きながら、来るはずもない彼を呼んだ。
レクルムは自分の部屋に戻ると、ソファーに座り込んだ。
彼の部屋は他の者と同様に、魔術局の建物の一角にあった。
「疲れた……」
心の重さが身体の重さと直結していて、ぐったりしていた。
久しぶりのひとりの時間に開放感を覚えるどころか、目はつい、あのあどけない笑顔を探してしまう。
『レクルム!』
うれしそうに駆け寄ってくるサアラ。
悲しげに微笑むサアラ。
すがるように彼を見たサアラ。
頭の中は彼女でいっぱいだった。
「………………」
首を振って、その幻想を追い払う。
のろのろと荷ほどきをしようとカバンを開けたとき、サアラの着替えが目に止まった。
「あ、渡すの忘れてた……」
着替えくらい王宮から支給されるかな、聖女だしね。火山に送られるまで、そんなひどい扱いは受けないだろうし。
そう思った。
(僕の役目はもう終わったんだ。彼女には二度と会うことはないだろう)
───二度と……。
(そりゃそうだよね。彼女は火山に送られて、そこで……)
レクルムはギュッと目をつぶった。
胸が痛くて潰れそうだった。息ができなくて苦しい。
(同情とか、バカじゃない! ここに連れてきたのは僕のくせに!)
行き先のない怒りに、ガンッと拳を膝に叩きつける。
(どうすればよかったんだ! 責任持って、火口に投げ入れられるまで見守る?)
彼女を慰めながら、そこまで見送るのが誠実なのかもしれない。でも、彼はどうしてもそんなところを見たくなかった。
(なにが『僕にできることない?』だ! あんなに不安そうだった彼女を置いて、途中で逃げ出したくせに!)
噛んでいた唇がプツリと破れて血の味がした。
ふいに喉の乾きを覚え、手を当てる。
いや、この乾きは喉じゃない。飢餓感のような切望。
───彼女を助けたい……。彼女を失いたくない……。
(ダメだ。なにを考えてるんだよ。自分のキャリアをドブに捨てる気なの?)
理性はそう言うものの、心はそれに従ってくれなかった。
「………………くそっ!」
なにかに突き動かされるようにレクルムは立ち上がって、小さなカバンにサアラの着替えを入れた。
(着替えを届ける。それだけだ!)
レクルムは部屋を出た。
ハァ……ハァ……ハァ……。
男がサアラの上で腰を動かしている。
彼女は泣き叫び殴られた末、ぐったりしていた。
そんな彼女の両脚で自分のイチモツを挟んで、ズークハイムは悦楽に耽っていた。
(誰も来ない……。来るはずもない……)
サアラの心は絶望に埋め尽くされていた。
ひたすら気持ち悪い行為を強制され、それがいつ終わるのかもわからない。
(やっぱり私はこういう存在なんだ。虐げられ続ける存在。この五日間が特例だったんだわ。この数日、幸せだったから、忘れてた……)
それでも、その想いは一方的で、レクルムはたった数日一緒に過ごした彼女のことなんて、すぐ忘れてしまうだろう。
彼はただ自分の仕事をしただけ。私に同情して優しくしてくれただけだから。
キリリとした痛みが胸を刺す。
(レクルム……。もう二度と会えない……)
サアラは目を閉じた。
ほろりと涙がこぼれた。
大人しくなったサアラをズークハイムはつまらなさそうに見下ろした。
「なんだ、もう啼かないのか?」
口角を上げた彼は、次の瞬間、ギリッと彼女の乳首を噛んだ。
サアラが悲鳴をあげる。
彼女の胸は噛み跡だらけで、乳首は腫れて血が滲んでいた。
「もっと啼け。どうせ誰も来ない」
またすすり泣き始めたサアラを満足げに眺めて、彼は腰を動かした。
ズークハイムの部屋の前まで来たレクルムは、躊躇していた。
ここまで来てみたものの、着替えを届けてなにになるんだと思ったのだ。
そのとき、中から悲鳴が聞こえた。
「サアラ!?」
ドアを開け放ち、彼が見たものは、裸のサアラの上でズークハイムが腰を振っている姿だった。
サアラはすすり泣き、その頬や胸には血が滲んでいた。
レクルムの目の前が真っ赤に染まった。
───僕のサアラになにしてるの!
バチバチッと稲妻が走り、ズークハイムを弾き飛ばす。
レクルムはサアラに駆け寄り、抱き起こした。
白い彼女の肌は指の跡の鬱血、噛み跡でいっぱいだった。
(なんてひどい……)
レクルムは激しい怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「レク……ル、ム……?」
信じられないとばかりにサアラが目を見開き、彼を見つめた。
その瞳からブワッと新たな涙があふれる。
「ごめん……こんな目に合わせて。ごめん……」
レクルムは彼女を抱きしめた。サアラは首を振りながら必死で彼にしがみついてきた。
「レクルム! レクルム……!」
(あぁ、もうダメだ。もう抑えきれない……)
大切な彼女を慰めるように、背中を撫でながら、レクルムは腹をくくった。
「なっ、お、お前! こんなことをして、ただで済むと思ってるのかっ!」
尻もちをついて驚愕の表情を浮かべていたズークハイムは、凶悪な顔になってレクルムを睨んだ。
さすが相手も魔術師で、ズークハイムはとっさに張った防御魔法で吹き飛ばされただけだった。
「衛兵、衛兵っ、来い!」
拡声魔法で、衛兵を呼ぶ。
「うるさいな」
レクルムは彼に手をかざすと、そちらを見もせずに魔法を放った。魔力量の違うズークハイムは防ぎきれず、バタンと後ろに倒れた。
そこに衛兵が数人駆けつけてくる。
「なにかありましたか!」
中に入って、その惨状を見た衛兵たちは戸惑った。
「ズークハイムが伝承の聖女を襲ったから、意識を奪ったんだ。君たち、証人になってくれる?」
サアラに自分のローブを着せかけ、彼女の顔と胸のギリギリのところまで見せる。
ズークハイムは局部を剥き出しで倒れていたので、弁解の余地はなかった。
衛兵たちが頷いたのを見ると、「治療するから」とサアラの顔に手を当てた。
「ズークハイムを拘束しろ。こいつは前々から侍女や平民を連れ込んでは無理やり暴行していると、被害届が出てるんだ。今までは貴族だというので見逃されていたが、聖女に手を出したということなら厳罰がくだるだろう」
衛兵のリーダーが吐き捨てるように言った。
(それを知っていたら、絶対にひとりにしなかったのに)
レクルムは激しく後悔した。
彼にしがみついて震えているサアラの治療をしてやると、また抱きしめて背中を撫でてやる。
衛兵が申し訳なさそうに、彼に声をかけてきた。
「悪いが、貴族に害をなしたので、お前も拘束させてもらう」
腕の中のサアラが驚いて顔をあげた。
「どうして……!」
「しょうがないよ。平民が貴族に歯向かったのを放置しておくことはできないんでしょ」
「でも、レクルムは私を助けてくれただけなのに!」
「申し訳ない……」
「君も仕事なんだから、仕方ないよ」
むしろ、真っ当な衛兵が来てくれてよかったとレクルムは思った。
「ただ、その前に彼女の身なりを整えさせて。彼女の荷物が僕の部屋にあるんだ。監視してていいから」
気の毒そうにサアラを見た衛兵は頷いた。
「君の部屋まで護送させてもらおう」
「ありがとう」
レクルムはそう言うと、サアラに「立てる?」と聞いて、手を差し出した。
彼に掴まりながら立ち上がったサアラだったが、ブルブルと脚が震えていた。
そんな様子を切なげに眺めて、レクルムは彼女の肩を抱き、自分の部屋へ誘導した。
「彼女にシャワーを浴びさせてやりたいから、ここで待っててもらえる?」
レクルムが衛兵に言うと、彼らは頷いた。
「あと、伝承の聖女が見つかったと上に報告を。本当はあいつがするはずだったんだ……」
「わかった」
「聖女がこれ以上危害を加えられないように、警備もしてくれる?」
「承った」
衛兵は力強く頷いた。
レクルムは軽く頭を下げて、サアラを部屋の中に招き入れた。
「サアラ、まずシャワーにしようか?」
中に入るなり、彼にへばりついたサアラにレクルムは声をかける。彼女は頷いたが、彼から離れるつもりはないらしい。
(どうせケガの具合も見たいから仕方ないか……)
サアラを風呂場に連れていき、服を脱いで下着姿になる。
彼女に着せていたローブを取ると、噛み跡や鬱血が目に入った。
(クソッ)
また頭に血が上るが、レクルムは必死で自分をなだめて、シャワーをかけながら、治療していった。
最初に出会った日と違い、眼鏡をかけているので、彼女の身体が隈なく見えてしまう。しかも、この眼鏡は曇り止めの魔法がかかっているので、視界はクリアだ。
レクルムは治療魔法がそんなに得意ではないので、触れながらでないと治せない。
かと言って、他の者に任せるつもりは毛頭もなく、彼女の柔らかい胸の膨らみに、かわいい尖りに触れながら、彼は理性を総動員した。
幸い、サアラはレクルムが触れることに拒否感はないらしく、大人しくされるがままになっていた。むしろ、レクルムから離れるのを嫌がって、彼の左腕にしがみついていた。
胸の治療が終わって、手を下へ滑らせる。
彼女の下腹部辺りがぬるぬるしていて、あいつの先走りかと類推して吐き気が込み上げる。
そこを洗ってやって、さらにその先に手を伸ばした。
「ねぇ、ここ痛いことされなかった?」
「ここを?」
脚の間にシャワーをかけながら、レクルムが恐る恐る聞くと、サアラはキョトンとした顔で聞き返した。
この様子なら大丈夫だったみたいだと、彼はほっとした。
さすがにズークハイムも聖女を犯すことはしなかったようだ。
「されてないならいいんだよ」
レクルムは彼女を抱きしめた。
「早くしたまえ」
「はい、すみません」
イライラしたようにズークハイムが急かすので、サアラは焦って、余計時間がかかってしまう。
『落ち着いて、がんばって~』
ワンピースが応援してくれる。
うん、と小さく答えて、ようやくボタンを外すと、ストンとワンピースが滑り落ち、サアラは下着姿になった。
「………ッう!」
いきなり胸を鷲掴みされ、サアラは声を漏らした。
「な、に……?」
「検査だ。やせすぎだが、胸はあるんだな」
「けんさ……」
すごく嫌な感じだけど、検査なら耐えないといけないのかなと、サアラは唇を噛んだ。
ズークハイムの手は、ブラジャーの中に潜り込み、胸を揉む。
「イタッ!」
乳首をひねられて、サアラは悲鳴をあげた。
「痛いか? そのうち善くなる」
「よく?」
なにをする検査なのか、さっぱりわからなかったけど、どうせしないといけないのならレクルムにしてほしかったと彼女は思った。
人に触られるのが、こんなに不快だとは思わなかった。
「これ邪魔だな」
ブラジャーを外そうとして、うまく外れなかったようで、ズークハイムはそれを切り裂いた。
「やっ、ダメッ!」
『キャー!』
せっかくレクルムに買ってもらったのにと声をあげたサアラとブラジャーの悲鳴が重なった。
「うるさいっ!」
バシッ! ズタンッ!
頬に熱いものが当たったと思った。
殴り倒されたのだとわかったのは、床に身体を打ちつけたときだった。
脳震盪を起こしたのか、サアラは頭がクラクラした。
そこにズークハイムが馬乗りになって、彼女の身体を押さえつける。
(検査じゃない!)
ようやく鈍いサアラにも自分が襲われているのがわかった。
「いやぁっ!」
また痛いぐらいに強く胸を揉まれて、サアラは抵抗しようとした。
「黙れっ!」
パシッと頬を叩かれた。
それでも必死にサアラがもがくと、さらに数発殴られた。
「かわいがってやるだけだ。聖女だから挿れられないが、やりようはあるからな」
凶悪な嗤いを浮かべ、ズークハイムは嫌がるサアラのショーツを下ろすと、そこに自分の股間を押しつけてきた。
「まったく聖女がこんな上玉だって知っていたら、私が行って、毎晩かわいがってやったのに」
ゾッとすることをズークハイムは言い、あまりの拒否感にサアラは吐き気がした。
身体を弄ばれる不快さと恐怖と痛みで、ポロポロと涙が流れる。
(ヤダ! ヤダ! ヤダ!)
首を激しく振って、全力で拒否を示すと、それを見て、彼はますます楽しげに嗤った。
「いいねえ、その顔。ゾクゾクする。もっと啼け!」
指の跡がつくほど強く胸を掴まれ、乳首に歯を立てられる。
「うぅッ、いやっ、やめてっ!」
痛いのに、脚の間を擦られて、変な気分になってくる。
硬く熱いものが当たっていて、ヌルヌル動いた。
気持ち悪くて逃れようと暴れるけど、男の力は強く、逆に両手をひとまとめに掴まれて、頭の上に固定される。
もう一方の手は相変わらず、胸の上を這っていて、先ほど噛まれたのと反対側の乳首も噛まれて引っ張られる。
「やだっ、ヤダッ!」
パンッ!
また叩かれ、頬が熱を持った。
(やだっ! だれか……だれか、助けて……! 助けて…………レクルム……!)
サアラは泣きながら、来るはずもない彼を呼んだ。
レクルムは自分の部屋に戻ると、ソファーに座り込んだ。
彼の部屋は他の者と同様に、魔術局の建物の一角にあった。
「疲れた……」
心の重さが身体の重さと直結していて、ぐったりしていた。
久しぶりのひとりの時間に開放感を覚えるどころか、目はつい、あのあどけない笑顔を探してしまう。
『レクルム!』
うれしそうに駆け寄ってくるサアラ。
悲しげに微笑むサアラ。
すがるように彼を見たサアラ。
頭の中は彼女でいっぱいだった。
「………………」
首を振って、その幻想を追い払う。
のろのろと荷ほどきをしようとカバンを開けたとき、サアラの着替えが目に止まった。
「あ、渡すの忘れてた……」
着替えくらい王宮から支給されるかな、聖女だしね。火山に送られるまで、そんなひどい扱いは受けないだろうし。
そう思った。
(僕の役目はもう終わったんだ。彼女には二度と会うことはないだろう)
───二度と……。
(そりゃそうだよね。彼女は火山に送られて、そこで……)
レクルムはギュッと目をつぶった。
胸が痛くて潰れそうだった。息ができなくて苦しい。
(同情とか、バカじゃない! ここに連れてきたのは僕のくせに!)
行き先のない怒りに、ガンッと拳を膝に叩きつける。
(どうすればよかったんだ! 責任持って、火口に投げ入れられるまで見守る?)
彼女を慰めながら、そこまで見送るのが誠実なのかもしれない。でも、彼はどうしてもそんなところを見たくなかった。
(なにが『僕にできることない?』だ! あんなに不安そうだった彼女を置いて、途中で逃げ出したくせに!)
噛んでいた唇がプツリと破れて血の味がした。
ふいに喉の乾きを覚え、手を当てる。
いや、この乾きは喉じゃない。飢餓感のような切望。
───彼女を助けたい……。彼女を失いたくない……。
(ダメだ。なにを考えてるんだよ。自分のキャリアをドブに捨てる気なの?)
理性はそう言うものの、心はそれに従ってくれなかった。
「………………くそっ!」
なにかに突き動かされるようにレクルムは立ち上がって、小さなカバンにサアラの着替えを入れた。
(着替えを届ける。それだけだ!)
レクルムは部屋を出た。
ハァ……ハァ……ハァ……。
男がサアラの上で腰を動かしている。
彼女は泣き叫び殴られた末、ぐったりしていた。
そんな彼女の両脚で自分のイチモツを挟んで、ズークハイムは悦楽に耽っていた。
(誰も来ない……。来るはずもない……)
サアラの心は絶望に埋め尽くされていた。
ひたすら気持ち悪い行為を強制され、それがいつ終わるのかもわからない。
(やっぱり私はこういう存在なんだ。虐げられ続ける存在。この五日間が特例だったんだわ。この数日、幸せだったから、忘れてた……)
それでも、その想いは一方的で、レクルムはたった数日一緒に過ごした彼女のことなんて、すぐ忘れてしまうだろう。
彼はただ自分の仕事をしただけ。私に同情して優しくしてくれただけだから。
キリリとした痛みが胸を刺す。
(レクルム……。もう二度と会えない……)
サアラは目を閉じた。
ほろりと涙がこぼれた。
大人しくなったサアラをズークハイムはつまらなさそうに見下ろした。
「なんだ、もう啼かないのか?」
口角を上げた彼は、次の瞬間、ギリッと彼女の乳首を噛んだ。
サアラが悲鳴をあげる。
彼女の胸は噛み跡だらけで、乳首は腫れて血が滲んでいた。
「もっと啼け。どうせ誰も来ない」
またすすり泣き始めたサアラを満足げに眺めて、彼は腰を動かした。
ズークハイムの部屋の前まで来たレクルムは、躊躇していた。
ここまで来てみたものの、着替えを届けてなにになるんだと思ったのだ。
そのとき、中から悲鳴が聞こえた。
「サアラ!?」
ドアを開け放ち、彼が見たものは、裸のサアラの上でズークハイムが腰を振っている姿だった。
サアラはすすり泣き、その頬や胸には血が滲んでいた。
レクルムの目の前が真っ赤に染まった。
───僕のサアラになにしてるの!
バチバチッと稲妻が走り、ズークハイムを弾き飛ばす。
レクルムはサアラに駆け寄り、抱き起こした。
白い彼女の肌は指の跡の鬱血、噛み跡でいっぱいだった。
(なんてひどい……)
レクルムは激しい怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「レク……ル、ム……?」
信じられないとばかりにサアラが目を見開き、彼を見つめた。
その瞳からブワッと新たな涙があふれる。
「ごめん……こんな目に合わせて。ごめん……」
レクルムは彼女を抱きしめた。サアラは首を振りながら必死で彼にしがみついてきた。
「レクルム! レクルム……!」
(あぁ、もうダメだ。もう抑えきれない……)
大切な彼女を慰めるように、背中を撫でながら、レクルムは腹をくくった。
「なっ、お、お前! こんなことをして、ただで済むと思ってるのかっ!」
尻もちをついて驚愕の表情を浮かべていたズークハイムは、凶悪な顔になってレクルムを睨んだ。
さすが相手も魔術師で、ズークハイムはとっさに張った防御魔法で吹き飛ばされただけだった。
「衛兵、衛兵っ、来い!」
拡声魔法で、衛兵を呼ぶ。
「うるさいな」
レクルムは彼に手をかざすと、そちらを見もせずに魔法を放った。魔力量の違うズークハイムは防ぎきれず、バタンと後ろに倒れた。
そこに衛兵が数人駆けつけてくる。
「なにかありましたか!」
中に入って、その惨状を見た衛兵たちは戸惑った。
「ズークハイムが伝承の聖女を襲ったから、意識を奪ったんだ。君たち、証人になってくれる?」
サアラに自分のローブを着せかけ、彼女の顔と胸のギリギリのところまで見せる。
ズークハイムは局部を剥き出しで倒れていたので、弁解の余地はなかった。
衛兵たちが頷いたのを見ると、「治療するから」とサアラの顔に手を当てた。
「ズークハイムを拘束しろ。こいつは前々から侍女や平民を連れ込んでは無理やり暴行していると、被害届が出てるんだ。今までは貴族だというので見逃されていたが、聖女に手を出したということなら厳罰がくだるだろう」
衛兵のリーダーが吐き捨てるように言った。
(それを知っていたら、絶対にひとりにしなかったのに)
レクルムは激しく後悔した。
彼にしがみついて震えているサアラの治療をしてやると、また抱きしめて背中を撫でてやる。
衛兵が申し訳なさそうに、彼に声をかけてきた。
「悪いが、貴族に害をなしたので、お前も拘束させてもらう」
腕の中のサアラが驚いて顔をあげた。
「どうして……!」
「しょうがないよ。平民が貴族に歯向かったのを放置しておくことはできないんでしょ」
「でも、レクルムは私を助けてくれただけなのに!」
「申し訳ない……」
「君も仕事なんだから、仕方ないよ」
むしろ、真っ当な衛兵が来てくれてよかったとレクルムは思った。
「ただ、その前に彼女の身なりを整えさせて。彼女の荷物が僕の部屋にあるんだ。監視してていいから」
気の毒そうにサアラを見た衛兵は頷いた。
「君の部屋まで護送させてもらおう」
「ありがとう」
レクルムはそう言うと、サアラに「立てる?」と聞いて、手を差し出した。
彼に掴まりながら立ち上がったサアラだったが、ブルブルと脚が震えていた。
そんな様子を切なげに眺めて、レクルムは彼女の肩を抱き、自分の部屋へ誘導した。
「彼女にシャワーを浴びさせてやりたいから、ここで待っててもらえる?」
レクルムが衛兵に言うと、彼らは頷いた。
「あと、伝承の聖女が見つかったと上に報告を。本当はあいつがするはずだったんだ……」
「わかった」
「聖女がこれ以上危害を加えられないように、警備もしてくれる?」
「承った」
衛兵は力強く頷いた。
レクルムは軽く頭を下げて、サアラを部屋の中に招き入れた。
「サアラ、まずシャワーにしようか?」
中に入るなり、彼にへばりついたサアラにレクルムは声をかける。彼女は頷いたが、彼から離れるつもりはないらしい。
(どうせケガの具合も見たいから仕方ないか……)
サアラを風呂場に連れていき、服を脱いで下着姿になる。
彼女に着せていたローブを取ると、噛み跡や鬱血が目に入った。
(クソッ)
また頭に血が上るが、レクルムは必死で自分をなだめて、シャワーをかけながら、治療していった。
最初に出会った日と違い、眼鏡をかけているので、彼女の身体が隈なく見えてしまう。しかも、この眼鏡は曇り止めの魔法がかかっているので、視界はクリアだ。
レクルムは治療魔法がそんなに得意ではないので、触れながらでないと治せない。
かと言って、他の者に任せるつもりは毛頭もなく、彼女の柔らかい胸の膨らみに、かわいい尖りに触れながら、彼は理性を総動員した。
幸い、サアラはレクルムが触れることに拒否感はないらしく、大人しくされるがままになっていた。むしろ、レクルムから離れるのを嫌がって、彼の左腕にしがみついていた。
胸の治療が終わって、手を下へ滑らせる。
彼女の下腹部辺りがぬるぬるしていて、あいつの先走りかと類推して吐き気が込み上げる。
そこを洗ってやって、さらにその先に手を伸ばした。
「ねぇ、ここ痛いことされなかった?」
「ここを?」
脚の間にシャワーをかけながら、レクルムが恐る恐る聞くと、サアラはキョトンとした顔で聞き返した。
この様子なら大丈夫だったみたいだと、彼はほっとした。
さすがにズークハイムも聖女を犯すことはしなかったようだ。
「されてないならいいんだよ」
レクルムは彼女を抱きしめた。
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