上 下
56 / 57
side木佐

二つのプレゼント

しおりを挟む
 そんなことをしているうちに、時刻は零時を回る。
 時報が鳴り終わった瞬間に俺は言った。

「ハッピーバースデー、宇沙ちゃん」

 年が明けることより彼女の誕生日のほうを祝いたかった。
 目を見開いた宇沙ちゃんは瞳を潤ませた。
 喜んでくれたようだ。

「はい。プレゼント」

 用意していた薔薇の形の入浴剤を渡すと、うれしそうに受け取ってくれる。中身を見て、彼女は声をあげた。

「きれい!」
「それ入浴剤なんだよ。好みがわからなかったから、なくなるものがいいかな、と思って」
「なくなるもの……」

 彼女の表情を見て、よけいなことを言ったと思った。
 急激に曇ったその顔に焦った。

「宇沙ちゃん? 気に入らなかった?」
「いいえ! びっくりしただけです。すごく綺麗でかわいいです。ありがとうございます」

 反対に彼女に気を使わせてしまった自分に腹が立つ。

(石原係長も『なくなるもの』を渡したのか? それとも家族のことを思い出したとか?)

 無理に笑顔を作った宇沙ちゃんの気分をどうにか変えたくて、どう考えても早すぎるプレゼントを取り出した。
 
「あのさ~、あとに残るものもあるんだけど?」

 宇沙ちゃんに似合うと思って買ったムーンストーンのペンダントは、もう少し宇沙ちゃんの気持ちが俺に傾いてから渡そうと思っていた。
 案の定、受け取れないと言う彼女に、仕方ないと自分につけたら、宇沙ちゃんは噴き出した。

「ふふっ。やだ、なにやってるんですか、木佐さん」

 ようやく笑ってくれた彼女の首にペンダントをつける。
 やっぱり似合う。
 満足げに目を細める。
 と、宇沙ちゃんが思いつめた目をした。

「木佐さん、私……」

 やはり重いプレゼントだったかと身構える。
 しかし、彼女の口からは予想外の言葉が出てきた。

「私、石原係長と別れたんです。だから……」

(別れた!?)

 浮足立った心は、続いた言葉にすぐ沈んだ。

「だから、この関係を終わりにしてください」

 宇沙ちゃんはきっぱりと言った。
 このところ、彼女の様子がおかしかったのはそういうことかと合点がいった。
 同時に逃がすものかと思った。
 即座に返す。

「やだよ」
「えっ?」
「なんでやっと宇沙ちゃんが俺だけのものになるというのに、手放さないといけないの?」

 ようやくスタート地点に立てたというのに、放すわけがない。
 俺の反応が意外だったようで、宇沙ちゃんは見るからにうろたえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...