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こんなのずるい②

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 ご飯を終えたら二十一時を過ぎていた。除夜の鐘をつけるのは二十二時半からだというので、私たちはお寺へ向かうことにした。
 お寺が近づくにつれて、人が多くなってきて、櫓のような鐘楼には列ができていた。その最後尾に並ぶ。
 まだ開始には早かったので、それほど並んでなくてよかった。

「宇沙ちゃん、寒くない?」
「大丈夫です」
「寒くなったら言ってね。温めてあげるから」
「結構です!」

 うっかりうなずいたら、きっとろくでもないことになる。

「残念だなぁ」

 そう言いながら、木佐さんがつないでる手の指で、私の甲を撫でた。その手つきがエロティックで、それだけで、かぁああっと体温が上がる。
 やっぱりろくでもなかった。

「木佐さんっ!」
「ん?」 

 咎めるように見上げたけど、彼はまったく意に介していなかった。妙に意識している私がおかしいのかもしれない。
 そんなやり取りをしていると、列が動き始めた。
 
 ゴ~ン

 除夜の鐘が鳴りはじめる。
 近くにいるからかなり迫力のある音だ。
 見ていると、鐘楼の狭く急な階段を一組ずつ上っていき、鐘をついたら、下りてきて、次の組が上るという方式だった。

「足もと、気をつけて」

 私たちの番が来て、木佐さんに支えられながら階段を上る。私がすっぽり入ってしまいそうな鐘が吊り下がっていて、お坊さんが一人待機していた。

「合掌して一礼をお願いします」

 お坊さんの指示に従って、鐘に向かって一礼する。

「お二人でこちらの紐を持って、ゆっくり後ろに引いてからついてください」

 木佐さんと撞木についている紐を持ち、後ろに引っ張った。目を見合わせて、息をそろえて鐘をつく。
 撞木が鐘に触れたとき、硬い手応えとともに、ゴ~ンと鐘が鳴った。
 重々しい厳かな音がお腹に響く。
 一瞬、俗世の憂さを忘れた、気がした。

 私たちはまた一礼して、次の人に場所を譲った。

「除夜の鐘をつけて、よかったです! 連れてきてくれて、ありがとうございました」
 
 一瞬のことだったけど、初めてついた鐘の感触がまだ手に残っていて、高揚感がある。
 本堂に向かいながら、興奮気味に言うと、「か~わいい」と頭を撫でられた。

「どういたしまして。俺も興奮してる宇沙ちゃんを見て興奮してる」
「な、なに言ってるんですか!」

 除夜の鐘をついたばかりなのに、煩悩まみれの木佐さんをあきれた目で見た。
 ますます木佐さんが楽しげになる。

(ダメだ。なにしても喜ばせるだけみたい)

 私は溜め息をついた。

 本堂でお参りをすると、甘酒が振る舞われた。
 紙コップに入った甘酒は温かく、冷えた身体に染みた。
 ほっと息を吐く。
 
「あったまるね」
「はい。有難いですね」

 私たちは微笑みを交わすと、こくりとまた甘酒を飲んだ。

  
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