営業部のイケメンエースは、さわやかなヘンタイでした。

入海月子

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こんなのよくない②

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 翌朝、木佐さんの腕の中で目を覚ます。
 身じろぎすると、さらりと髪が頬にかかった。
 昨日、木佐さんが髪を洗ってくれて、丁寧にドライヤーで乾かしてくれた気がする。
 その優しい手つきを思い出す。

(この人はなにを考えてるんだろう?)

 好き放題しているみたいなのに、なんだか甘やかされてもいる。
 私を包む腕は温かい。
 どういう感情を持っていいのか、私は戸惑った。

(違う。木佐さんは私をもてあそんでるだけよ)

 そっと彼の腕から抜け出して、服を着た。

「木佐さん、私、帰りますね」
 
 彼を揺り動かして、声をかけると、「ん~?」と寝ぼけた声を出した。
 やっぱり木佐さんは朝が弱いみたいで、目は開かない。
 マンションの入り口はオートロックだったし、大丈夫かなと、私はそのまま帰った。

 家に着き、溜め息をつく。
 将司さんに抱かれたのは一昨日だというのに、身体中、木佐さんに上書きされて、将司さんがどこにもいなかった。
 さみしくなって、スマホを取り出した。
 いつもは連絡を極力控えてるんだけど、どうしても声が聞きたくなって、メッセージを送った。

『今、電話できませんか?』

 すぐ既読がついて、返事が来た。

『ごめん、日曜はムリなんだ。また明日ね』

 拝むマークが付いていて、電話されたくないんだろうなと思う。
 ぼんやりスマホの画面を見ていたら、ぽたりと雫が落ちてきた。
 
(これが不倫ということだわ……)

 自業自得すぎて、悲しいとかさみしいとか言う権利はないのはわかってる。
 私はうずくまって、嗚咽をこらえた。



「おはよう、葵。昨日はごめんね。なにかあった?」
「将司さん、おはようございます。ごめんなさい。ただ、声が聞きたくなっただけなんです」
「そっか。葵はかわいいなぁ」

 月曜日、早めに出社した総務部には将司さんと私しかいなくて、入口を気にしつつ、少しプライベートな会話を交わす。
 昨日のメッセージを気にしてくれていた将司さんの気持ちがうれしい。
 でも、頭の中に『宇沙ちゃん、か~わいい』という声が勝手に流れ出して、慌てて振り払った。
 記憶を塗り替えようと、穏やかで優しい顔の将司さんをじっと見る。
 
「なに? やっぱりなにかあった?」
「いいえ、なんでもないです」

 私はかぶりを振って、微笑んだ。
 気を取り直して、パソコンを立ち上げ、始業の準備をする。
 この時期は年末調整があるから結構忙しい。
 毎年のことだけど、あちこちの部署から記入方法の問い合わせを受けるし、提出書類のチェック、申請をしないといけない。
 少なくなってきたとはいえ、年賀状の手配もそろそろだ。
 仕事を始めてしまえば、雑念も消えて、私は忙しく働いた。

 
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