営業部のイケメンエースは、さわやかなヘンタイでした。

入海月子

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流される③

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「食べよっか」
「はい、いただきます」

 手を合わせて、アンパンを取る。
 一口かじると、まだ餡が温かくて美味しかった。

「コーヒーの淹れ方、上手だね」
「そうですか?」
「うん、美味しい」

 にっこり笑った彼の笑顔にだまされそうになるけど、営業トークだわと気を引き締める。
 私がアンパンを食べている間に、木佐さんはペロッとパンを完食して、私の食べる様子をにこにこと眺めていた。食べにくくて仕方ない。
 食べ終わったお皿をキッチンに持っていき、洗おうとしたら、お皿を取り上げられた。

「俺が洗うから、拭いてくれる?」
「わかりました」

 片づけが終わると、洗面所に案内された。
 木佐さんが引き出しからストックの歯ブラシを出してくれる。
 二人並んで歯を磨くのは不思議な感じだった。



「ナビに入れるから、住所教えて」

 地下の駐車場で、紺色の車に乗り込むと、木佐さんが聞いてきた。
 住所を言うと、木佐さんが首を傾げた。

「それって反対方向じゃない?」
「反対?」
「ここって、会社から宇沙ちゃんちに帰るのに反対の方角だよね?」
「あぁ、ここは将司さんの使ってる路線なんです」
「ふ~ん」

 しゃべりながら、ナビに住所を入力すると、木佐さんはスムーズに車を発車させた。
 車を走らせながら、木佐さんはどこの水族館に行きたいか聞いてくれた。
 幼い頃以来、水族館に行ってなかったから、どこでもよかった。でも、木佐さんはうまく私を誘導して聞き出し、テレビで見た水族館に行くことになった。
 休日の朝なので、それほど混むこともなく、私のマンションにすんなり着いた。
 路肩に車を停めて、木佐さんが言った。

「ここで待ってるから、着替えておいで」

 てっきり部屋までついてくるのかと思ったから、驚いた。
 私の表情を見て、にやっと木佐さんが笑う。

「部屋にあがってほしいっていうなら、パーキングを探すけど?」
「いいえ! ここで待っててください!」

 慌てて首を振ると、おかしそうに木佐さんが目を細めた。

「ゆっくり着替えてきていいよ。あ、そうだ。泊まりの用意もしてきてね」
「泊まり? 行くのは水族館ですよね?」
「そうだね。でも、泊まり」

 にこやかにうなずかれる。
 これは拒否権ないやつだと、観念する。
 私は急いで部屋に戻って、着替えて化粧をし直して、一泊分の用意をすると、車に戻った。
 
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