営業部のイケメンエースは、さわやかなヘンタイでした。

入海月子

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流される①

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「でも、石原係長は恐妻家だから、土日は遊んでくれないでしょ?」

 自分の思考に入り込んでいた私は、ハッと顔をあげた。
 じっと観察するように木佐さんが見てた。

 恐妻家かどうかは知らないけど、第二、第四金曜日は奥さんが習い事でいないから、帰るのが少し遅れてもいいんだと将司さんが言っていた。
 だから、夕食を食べて、このホテルで過ごして別れる。それが習慣になった。

「そんなさみしそうな顔をされると、裸にひん剥いて身体中舐めて、なにも考えられなくしてあげたくなるなぁ」
「け、結構です!」

(昨夜ほぼ同じことをしたじゃない!)

 木佐さんの妖しげなまなざしに、身体がゾクリと震える。
 変態な彼の腕の中にいるのに危機感を覚えて、手を突っ張って逃げようとする。
 でも、放してくれなくて、にっこり微笑む木佐さんを不満げに見上げた。
 
「それはともかく、ウサギはさみしいと死んじゃうっていうし、俺が宇沙ちゃんの相手をしてあげるよ」
「結構です!」
「遠慮しなくていいよ。どこに行きたい? 映画館? 遊園地? 宇沙ちゃんなら美術館か水族館かな?」

 畳みかけるように聞かれる。

(相手って、そういうこと?)

 将司さんとはそういうデートはしたことがない。
 水族館という言葉に、テレビで見たクラゲの舞う幻想的なトンネルの光景が思い浮かんだ。行ってみたいなと漠然と思っていた。

「あ、水族館だね」

 その反応を読んで、木佐さんがすかさず、言ってくる。
 この人は察しがよすぎて困る。
 さすができる営業は違うわ。
 
「じゃあ、ご飯食べたら行こうか」
「えっ? 今日ですか?」
「うん。なにか用事ある?」
「ないですけど、でも、着替えたいし、家に帰りたいです」

 考えたら、化粧も落とさず寝てしまったし、服も下着も昨日のままだ。
 それにこのままだと、持ってた印象以上に強引な木佐さんに流されてしまうと思った。
 
「じゃあ、いったん宇沙ちゃんの家に寄っていこう」
「でも……」
「なんでもしてくれるんじゃなかったっけ?」

 にっこり笑顔で圧力をかけられて、結局、私はうなずいてしまった。
 

 木佐さんの家がこの近くだというので、手を引かれて連れていかれた。
 恋人繋ぎに戸惑う。
 当然、将司さんとこんなふうに外を歩いたことはない。

「木佐さん、逃げませんから……」
「この辺は会社の人とかいないから大丈夫だよ。だから、宇沙ちゃんたちもここを選んだんでしょ?」

 手を解こうとしたら、そんなことを言われた。
 見られることを心配していたわけじゃなかったけど、会社の人に見られたら、全女性社員の嫉妬を買ってしまうと思い至る。
 ただでさえ、会社の人たちに馴染めてないのに、そんなことになったら、会社がつらすぎる。
 にっこり笑ったハンサムな顔を見て、手を振りほどいた。
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