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そこにまた「キャアー!」とひときわ大きな歓声があがった。
「君たち、またケンカしてるの?」
向かいから、きらびやかな存在が歩いてきた。
やわらかなウェーブをえがく金髪に真っ青な瞳、つねに穏やかな笑みをたたえた端正な顔。
ダンケルトと対をなす彼は、金の貴公子と呼ばれているイヴァンだ。
二人とも容姿だけでなく剣の腕前も騎士団の中で群を抜いていて、爆発的な人気がある。
同期だからか、もしくは騎士道精神で女である私をかばおうとしてか、やたらとこの二人は私に絡んでくる。
そのおかげで、女の子たちから聞えよがしに陰口を叩かれていて、いい迷惑だ。
「べつにケンカなんかしてないわよ」
そばにいるとダンケルトに無駄に憎まれ口をききそうで、すっと彼から離れて、イヴァンのもとへ行った。
物柔らかなイヴァンのほうが落ち着く。
「今日の午後のペアになってよ、イヴァン」
「いいよ。でも、あそこで外されて拗ねてる人が……」
イヴァンがくすくす笑って、後ろを指す。
「拗ねてねーよ」
不機嫌そうにつぶやいて、ダンケルトはプイッと立ち去ろうとする。
それをとびきり可愛らしい子が呼び止めた。
ダンケルトはすぐしかめっ面をやめて、優しい表情になった。
チクンと胸が痛む。
最近、噂になってる彼女だ。
前は女の子のことなんか見向きもしなかったのに、この頃は話しかけられたら、こうして優しく相手をしてあげるようになった。
あの子がきっかけとも言われてる。
(あんなに可愛かったら、ダンケルトも惚れるわよね。とても敵いっこないわ)
二人から目を逸らし、私はシャワーを浴びに行った。
「ふぅ……」
夜の自主練を終えると私は息をついた。
手で額の汗を拭って、訓練場の隅に置いていた水筒をあおる。カラカラになっていたからか、喉を通る水に変に甘みを感じた。
三馬鹿トリオには勝つけれど、男女の筋力や体力の差は大きい。こうして常に鍛えておかないと、すぐ遅れを取ってしまいそうで、私は人の倍は鍛錬することにしていた。
人気のない更衣室に入ると、急にドクドクと心臓が跳ね出し、身体がカッと熱くなった。
(なに?)
体中がゾワゾワするような感じたことのない疼きと体温上昇に戸惑いを覚える。
お腹の奥からなにかが滴る気配がした。
思考が鈍って、額に手を当てる。
自分の状態に聞き覚えがある気がした。
(まさか、噂のレイプ薬? さっきの水に混ぜられてたの?)
レイプ薬は、強力な媚薬で、飲んだ者の声と理性を奪い、発情させる。最悪なのはその間の記憶も奪うので、強姦されても犯人を覚えておらず、捕まえられないのだ。避妊効果があるのがせめてもの救いだ。
凶悪な薬として、この頃、取り締まり強化されていた。
「君たち、またケンカしてるの?」
向かいから、きらびやかな存在が歩いてきた。
やわらかなウェーブをえがく金髪に真っ青な瞳、つねに穏やかな笑みをたたえた端正な顔。
ダンケルトと対をなす彼は、金の貴公子と呼ばれているイヴァンだ。
二人とも容姿だけでなく剣の腕前も騎士団の中で群を抜いていて、爆発的な人気がある。
同期だからか、もしくは騎士道精神で女である私をかばおうとしてか、やたらとこの二人は私に絡んでくる。
そのおかげで、女の子たちから聞えよがしに陰口を叩かれていて、いい迷惑だ。
「べつにケンカなんかしてないわよ」
そばにいるとダンケルトに無駄に憎まれ口をききそうで、すっと彼から離れて、イヴァンのもとへ行った。
物柔らかなイヴァンのほうが落ち着く。
「今日の午後のペアになってよ、イヴァン」
「いいよ。でも、あそこで外されて拗ねてる人が……」
イヴァンがくすくす笑って、後ろを指す。
「拗ねてねーよ」
不機嫌そうにつぶやいて、ダンケルトはプイッと立ち去ろうとする。
それをとびきり可愛らしい子が呼び止めた。
ダンケルトはすぐしかめっ面をやめて、優しい表情になった。
チクンと胸が痛む。
最近、噂になってる彼女だ。
前は女の子のことなんか見向きもしなかったのに、この頃は話しかけられたら、こうして優しく相手をしてあげるようになった。
あの子がきっかけとも言われてる。
(あんなに可愛かったら、ダンケルトも惚れるわよね。とても敵いっこないわ)
二人から目を逸らし、私はシャワーを浴びに行った。
「ふぅ……」
夜の自主練を終えると私は息をついた。
手で額の汗を拭って、訓練場の隅に置いていた水筒をあおる。カラカラになっていたからか、喉を通る水に変に甘みを感じた。
三馬鹿トリオには勝つけれど、男女の筋力や体力の差は大きい。こうして常に鍛えておかないと、すぐ遅れを取ってしまいそうで、私は人の倍は鍛錬することにしていた。
人気のない更衣室に入ると、急にドクドクと心臓が跳ね出し、身体がカッと熱くなった。
(なに?)
体中がゾワゾワするような感じたことのない疼きと体温上昇に戸惑いを覚える。
お腹の奥からなにかが滴る気配がした。
思考が鈍って、額に手を当てる。
自分の状態に聞き覚えがある気がした。
(まさか、噂のレイプ薬? さっきの水に混ぜられてたの?)
レイプ薬は、強力な媚薬で、飲んだ者の声と理性を奪い、発情させる。最悪なのはその間の記憶も奪うので、強姦されても犯人を覚えておらず、捕まえられないのだ。避妊効果があるのがせめてもの救いだ。
凶悪な薬として、この頃、取り締まり強化されていた。
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